そんな風に君が笑うから

私の彼氏は所謂、アイドルというやつだ。初めこそ知名度は高くなかったけれど、あれよあれよという間に知名度が上がり、人気になってしまったわけだけれど。まぁ、人気になり始めた頃はね?あのグループのリーダーは私の彼氏なんだぜ、ふふん!って思っていたけど、今となってはそんな優越感すら湧いてこない…。
というか、会えなさすぎてライブ会場で会えるファンの子達を羨ましいって思っちゃうくらいにはキてる。いや、だからといって妬んだりしないけど。そして大和を怒ったりもしないけども。だってそれじゃ八つ当たりじゃん。今の状態を作り出しているのは、確かに大和かもしれないけど大和のせいではないから。…それはわかってるつもり、なんだけど、それとこれとは別問題で…つまりは、どうしたって淋しいってことです。

テレビや雑誌越しに会う生活がもう何ヶ月目かなー…どの大和もカッコいいし、見ている間はきゃー!ってなるんだけど、我に返るとそれはもう虚しいし淋しくなるよね。でもほんっとアイドルしてる大和も、俳優してる大和もカッコイイんだよ。カッコいいけど、テレビ仕様じゃない大和に会いたくなるよね、ものすっごく。そんなことを言っても、会えるわけじゃないのでどうしようもないんだけど。
ついこの間までライブで各地を飛び回っていたけど、ライブが終わるのとほぼ同時に連ドラの撮影が始まったそうです。そんなわけで再び、我が彼氏は地方へ行っております。いつ帰ってくるって言ってたっけ…けど、帰ってきても撮影は続くんだろうし会える機会はないんだろうけどさ。


「会いたいなぁ…」


ポツリ、と呟いた言葉は、真っ白な吐息と共に暗闇へと消えていく。この淋しい思いも、一緒に消えてくれたらいいのに。自嘲的な笑みを浮かべ、家路を急いだ。





「……は?」


髪を拭きながら何気なくスマホを見ると、地方でドラマ撮影中のはずの大和からラビチャが来ていた。それはいい、地方に行くとよくメッセージがくるから。こんなことあったーとか、こんなの見つけたーとか、これ美味かったとか、他人からすればどうでもいい内容が。でも私からしてみれば、その間だけでも大和を独り占めできるから嬉しいのだ。まぁ、そんな私の気持ちは置いておくとして…今回きたメッセージは、今までのとは少しだけ違う。何故ならば、「もうすぐ着く」ってメッセージだったから。
いや、もうすぐ着くって…どういうことですか大和。何だかホラーみたいだなぁ、と斜め上の感想を抱いてしまった。だってそうじゃない?突然、もうすぐ着くってメッセージがきたら。こう…繋がりが一切ないじゃん。今日はラビチャのやり取りもしてなかったし。前置きとか、そういうものすらなくて。
これが本当に私へのメッセージなのか、それすらも疑いたくなってきてしまったんですけれども。他の誰かと間違えてない?メンバーとか、ドラマの共演者とか。間違えられてたらそれはそれで泣きたくなるけど。面倒な女?ンなの私が一番知ってるわ。
てか、本当に来るの?どうなの?間違えた、と言われるのが怖くて返信できずにいたら、インターホンが鳴った。……マジ?え、マジで大和?恐る恐るモニターで確認してみると、そこには予想通りの人物である二階堂大和が立っている。それを確認した私は応答することもせず、バタバタと玄関へと向かいドアを勢い良く開けた。


「…っとぉ……!ビビッた」
「や、大和……?!」
「おう。何だよ、ラビチャしといただろ?」
「う、うん、きてたけど…」


まさか私宛かどうか、疑ってましたとは言えない。


「でもどうしたの?地方でドラマ撮影してたんじゃ…」
「してたよ。今日ラストで、早く終わったから真っ直ぐこっち来た」
「…寮は?いいの?」
「ちゃーんとミツに連絡入れてるから大丈夫。心配すんなって」


ああ、そうですか。連絡してるんならいいけども。
アイドリッシュセブンは大和もそうだけど、メンバーを大事にしてるみたいだからね。長期でロケとか行ってると、帰りを待ちわびてる気がしてたんだよね。でもまぁ、連絡してあるなら…少しくらい、独占してもいいのかなって思っちゃったり。


「久しぶり、なまえ。3ヶ月ぶりくらいか?」
「かなぁ…大和も大分、忙しくなったからね」
「有難いことにな」


忙しいのはいいことだ、とはよく言うし、聞くし、確かにそうなのだろうと納得できる所もある。特に大和のような仕事をしている人はそう感じる部分は多いと思う。でも、だからといってやっぱり淋しいという気持ちは生まれてしまうのですよ。淋しいものは淋しい、その気持ちに嘘はつけなかったんだ。だから正直、ロケ終わりで疲れているのに私を優先してくれたのがめちゃくちゃ嬉しくてですね…一体、どんな顔をすればいいのかわからなくなっていたりしなかったり?
いや、リアルに私は今までどんな顔で、態度で、大和に会ってたっけ…?!会わない時間が長すぎてわからなくなってるとか、洒落にならない。と、とりあえず飲み物を用意しよう。


「なに飲む?お茶?それともお酒?」
「んー…寝不足だし、酒はやめとく。炭酸ある?」
「あるよ。炭酸水も、ソーダも」
「じゃあ炭酸水」


たまに泊まりに来る大和用にお酒も、炭酸水も用意してある。時々、甘いものを求めてくるからソーダも。冷蔵庫から炭酸水のペットボトルを取り出し、自分用にソーダのペットボトルも取り出してリビングに戻る。
大和はその間に上着を脱いで、定位置となりつつあるソファでクッションを抱えていた。ようやく見慣れてきたけど、やっぱりかっわいいなぁクッション抱える大和…!!!


「なまえ?」
「え?あ、うん、何でもない。はい、炭酸水」
「さんきゅ。……なぁ」
「んー?」


大和の隣にぼふん、と腰を下ろした所で、名前を呼ばれた。ペットボトルに口をつけながら反応したら、ものすっごいマヌケな声になったけど…まぁ、いいか。今更、取り繕うこともなかろう。色々な面、見せてきてるつもりだし。現に今、お風呂上りだからバッチリ部屋着だし。まぁ、それはいいとして…名前を呼んだ割には話しかけてこないなぁ、とそっちに視線を向けたら、ニヤリと笑った大和が両手を広げた。


「……どったの、手なんか広げちゃって」
「ん?違った?」
「違ったって、…なにが」
「なまえちゃんは淋しかったんだろ?だから、……おいで」


淋しいなんて、思ってても言えなくて。電話でも、ラビチャでも、聡いであろう大和に察せられないようにしてきたつもりだったのに…どうしてこの男は、こうも簡単に私の思っていることを当ててしまうのだろうか。悔しい反面、今すぐにでもその腕の中に飛び込んでぎゅーっと思いっきり抱きしめられたい。でも素直に従うのは、なんか癪だ。


「ほらほら、優しいお兄さんは期間限定だよ?」
「うううう…大和ってほんとズルイ」
「でも大人しく腕ん中にきてくれるお前さんが好きよ、俺」


よーしよし、とまるで動物相手にしているような感じだけど、もういいや。大和に触れられんなら何でも。だって撫でてくれるの気持ちいいし。
久しぶり過ぎる大和の体温に今はただ、浸っていたかった。
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