いつまでも笑っていて
諦めたように笑う子だった。でも気がつけば、花が咲いたような笑顔で…心から笑っていた。そんな顔で笑うのは、決まって黒様の前でだったけど。前はそれが悔しくて、羨ましくてどうしようもなかったんだけどね。
それもいつの間にか消え去って―――…いや、嘘をついた。そう思わなくなった時のこと、本当は覚えてる。兆しがあったのはあの子が解けていくのを見届けた時で、完全に消え去ったのは再会して…勢いで気持ちを告げてしまった時。
side:ファイ
「ボーッとしているが、具合でも悪いのか?」
「ん?ううん、違う違う。あの2人見てたんだ」
うん?と首を傾げた小狼くんからマグカップを受け取りながら、あの2人だよって指差した。その先にいるのは黒様となまえちゃん。少し前までは楽しそうに話してたんだけど、なまえちゃんがこてんと黒様の膝を枕にして寝ちゃったんだよね。
黒様は最初、眉間にふっかいシワを刻んで「部屋で寝ろ」って起こそうとしてたんだけどさ、完全に気を抜いて爆睡モードに入っちゃったらしい彼女は起きる気配ゼロ。何度声掛けても起きないから、黒様は溜息吐いて諦めちゃったんだけど…今はこの人も眠ってます。出会った頃とえっらい違いだよねぇ。
「なまえと黒鋼、仲良しだね!」
「ね〜。モコナ、起こしたらダメだよ」
「はーい」
小狼くんも。ね?って笑いかけると、彼は大まじめな顔でこくりと頷いた。まぁ、小狼くんはいい子だから進んでそんな悪戯はしないんだけど。何となく、流れで?
それでそのままオレ達2人+1匹で黒様と緋月ちゃんの寝顔鑑賞会。うん、バレたら大いに怒られると思うんだけどすることなくて暇だし、寝顔はあどけないし、見てて飽きなさそうだなぁって。
「黒鋼さんまで寝るのは珍しいな」
「なまえちゃんが膝枕で爆睡してるからつられたんじゃないかな〜?寝てる人の体温って高めで温かいし」
「ああ…成程」
黒様の隣にいるなまえちゃんは、とっても可愛い。普段から女の子だってちゃんと認識してるけど、でもいつも以上に…何というか、恋する女の子って言葉がよく似合う感じっていうのかなぁ?
黒様も仏頂面は仏頂面だし、言葉もそっけないことだって多いけど、それでもなまえちゃんを見つめる瞳はひたすらに甘いんだ。優しく目を細めて笑うことだってあるし(本人は無自覚っぽいからナイショ)、そっけなく感じる言葉の端々にはやっぱり優しさと甘さがある。それを見つける度に、ああ彼女のこと大好きなんだな〜って思う。まぁ、こっちが恥ずかしくなってきちゃうけどね?2人を見てると。
でもきっと、2人をよく知らない人たちが見たらなまえちゃんの片思いかーって思う感じでもあるかな。お互いの気持ちを知っているオレ達だからこそ、僅かな違いとかそういうものがわかるのかもしれない。
「…良かったね、なまえちゃんが戻ってきて」
「ああ。これも黒鋼さんが強く願ってくれていたおかげだ」
「うん、そうだねぇ。オレ達だって彼女に会いたかったけど、黒様の気持ちは人一倍強かったから」
そしてなまえちゃんが、オレ達と生きることをほんの少しでも望んでくれていたから。きっとあの次元の魔女さんがいたら奇跡も、偶然もない。この世にあるのは必然だけって言うんだろうけど…今回のことに関してオレは、いくつもの奇跡が重なった結果だと思ってる。
奇跡が重なるって何だよって感じだけどさ、でもそう思わない?もしなまえちゃんがそのまま眠りについてしまっていたら、黒様がなまえちゃんを諦めてしまっていたら―――今のこの時間は、ゆっくりと流れる優しい時間は二度と訪れなかったはずだから。でも黒様の性格を思い返せばそう簡単に諦めるとは思えないし、この一連の出来事は奇跡のような必然ってやつになるのかなぁ。やっぱり。
「奇跡でも、必然でも…今、2人が幸せなら。笑ってくれているならそれでいい」
「…うん」
気持ち良さそうに眠っている2人を眺める小狼くんの顔は、とても優しかった。オレも、彼も、モコナも、2人が幸せに笑ってくれているなら―――きっと、何だっていいんだよ。
(ん、んん〜…?何故に黒鋼くんの膝枕…)
(なまえちゃんお目覚め?何か飲む?)
(…うん……)
(なまえ、まだ眠い?)
(寝ていてもいいが、何かかけないと風邪をひくぞ)
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