そっくりそのまま返します!
これでも捜査官だから怪我とか、そういうものは日常茶飯事だと思っている。危険を伴う任務にだって行くことだってあるし、それこそ新人の頃は無傷で済むことの方が少なかったし。だから服の下は割と傷だらけ。女らしからぬ体だってことは重々わかってはいるんだけど、…恋人である秀一が気にする素振りを見せないので、いつの間にか私も気にしなくなっていた。
それでもやっぱり、そういう雰囲気になる時はちょっとだけギクッとしてしまうんだけれども。まぁ、それは致し方ないことだとしてもらおう。でも今はそれは置いておくとしましょう。ちょっと面倒なことになりました。
「さてなまえ、説明をしてもらおうか?」
目の前に般若がおります。助けて、名探偵。
事の起こりは数日前からついていた任務。狙撃の必要性はないと判断されたから秀一はその任務のメンバーには入っておらず、私とジョディ、そしてボスが選りすぐったメンバーであたっていたのです。任務自体はそう難しいものではないし、危険度も高くないものだったと認識している。
きっとこれが油断と呼ばれるものだったんだろうなぁ、と今ではわかるんだけど…その時はそんなことにこれっぽっちも気がついていなかった私は、確保したはずの犯人に深々と腕を切られるという大失態をしでかしました。その他、細かい切り傷とか擦り傷もあり。怖いのはここからです、ボス直々に秀一に連絡がいき―――今に至る。
「いや、あのですね…」
「俺はお前が新人の頃から常々、任務にあたる時・捜査にあたる時は緊張感を持てと口うるさく言ってきたつもりだったが?」
「……はい、仰る通りでございます」
「わかっているなら、その怪我はなにかな?」
だから怖いって!!説明しようにも、その殺気にも似たオーラが怖すぎて口を開くのすら躊躇われます先輩!!!内心、冷や汗ダラダラです。現実逃避したいですでもきっとさせてくれないよこの人…!
と、とりあえずこのまま黙ってるわけにもいかないし、一から説明していくしかないよね。怒られるのは確定してるわけだし、もうどうにでもなれ精神でいかないと前にも後ろにも進めない気がする。でも秀一の目を真っ直ぐ見れるわけもなく、視線を外したままの状態で説明を開始した。
視線を外してるので秀一がどんな顔をしているのかは全くわからないけど、でも肌で感じる雰囲気というか…オーラ?はどんどん鋭くなっている気がするので、きっと表情ももんのすごいことになっていると思います。これは見ない方がいいと思う。心の底から。見たら殺られる、絶対。意地でも見ないぞ、と心に決めたのも束の間、それは秀一の手によって壊されました。
「ちょっ…!」
「話す時は人の目を見て話せ。そんな簡単なこともできなくなったか?」
あれです。所謂、顎クイをされております。こんな状況じゃなければきっとドキドキしたと思うけど、今は無理。そんな余裕はありません。違う意味でドキドキしてはいるけどな。
「…はぁ」
「えっ溜息つくほどに愛想つかされましたか私?!」
「愛想をつかすまでには至ってないが…呆れてはいるぞ」
「ああ、はい…それはまぁ、察しておりますが」
顎に触れていた手が離れ、怪我をしない方の腕を思いっきり引かれた。突然のこと、そして相手が秀一だということもあり、私はそのまま彼の胸へ飛び込む形となりましたとさ。さっきまで殺気ダダ洩れだったのに、何故急に抱きしめられているんだろうか私は…!
でも彼の体温は心地いいし、安心してしまうのはもう…どうしようもないと思う。怒られるかな、と思いつつも、私も秀一に触れたくって背中に腕を回してそっとシャツを掴んだ。傷口がツキン、と傷んだけど、今は見ないフリだ。
「すみません…新人の頃に言われたことを忘れていたわけではないんですが、油断してしまいました」
「…ああ」
「まさかナイフを隠し持ってるとは思わなくて、任務を終えたと思った瞬間に多分、あの、気が抜けてしまったんだと」
「捜査官にあるまじき失態だな」
「うう、反論できません…」
本当に秀一の言う通りなんだ。最後の最後まで、それこそ捕まえた後だって気を抜いてはいけない。それは彼に何度も何度も言われ続け、頭だけではなく全身に染み込ませたつもりだったのに。
それが今回、最悪の形を招いてしまったわけで。犯人を逃がしはしなかったものの、隙を見せてしまったことこそ『最悪』と言えるだろう。
「怪我をするな、とは言えん。俺もお前のことを言えないとも思っている」
「はい…」
「だが、心臓に悪いんだ。なまえは何度、俺の心臓を止める気なのかと本気で思ったぞ」
「すみません……!」
「―――頼むから…俺の目の届かない所で、くたばるのだけはやめてくれ」
そっくりそのまま返します、と声を大にして言いたくなったけど、縋るように私を抱きしめる秀一には…さすがに言えずに飲み込んだ。
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