Sweet dream.
MEZZO"のお2人を寮まで送り届け、ひとまず本日の仕事は終了―――というわけにはいかなかった。万理さんからテレビと雑誌の仕事の依頼が数件きたから、確認してほしいとラビチャがきていたのです。詳細は事務所にFAXが届いている、と。仕事の依頼がくるのはいいことだしね。私よりも皆さんの方が忙しくて疲れているだろうし、弱音なんて吐いていられない。今日ももう少し頑張りますか!
「…あれ?」
事務所にはもう誰もいないと思っていたのに、電気がついていた。誰か消し忘れたのかしら…いや、でも社長も紡くんも万理さんも消し忘れるようなタイプではないはず。私が戻ってくることを知っていても、わざわざつけておく必要はない。だって何時に戻ってくるかなんてわからないわけだし。
それなのについているということは、誰かがまだ事務所にいるってことなんだけど…一体、誰かしら?社長と万理さんはもう帰っているはずだし、紡くんは現場へ行った後、直帰の予定だったはず。そっとドアを開けると、室内はしんと静まり返っていた。誰かがいるような感じではないんだけどなぁ。ひとまずデスクにカバンを置いて辺りを見渡そうとした時、ソファに座っている人影を見つけた。
「二階堂さん…?」
「ん、」
ソファに座っていたのは二階堂さん。しかも熟睡中。膝の上には開かれたままの台本があるから、きっとセリフを覚えている間に眠ってしまったんでしょう。毎日忙しいですし、睡眠時間が削られることだってザラにある。特にドラマの撮影が入ると、尚更だったりするんですよね。朝早くから夜遅くまで、長い時はそれこそ明け方近くまでかかることもある。
そして今、二階堂さんはそんなドラマ撮影の真っ最中だったりするのです。今日は午前だけの撮影だ、と聞いていたのだけれど…何故、こんな時間にこの人が事務所にいるのだろう。セリフを覚えるのならご自身の部屋で覚えた方がいいでしょうに。眠くなったらベッドに転がり込めますしね。事務所に来るのが悪いとは言いませんが、疲れているのであればちゃんと横になって眠ってほしいなぁ、と思うわけでして。
起こして寮まで送っていこう、と思う反面、私が近づいても起きる気配がない程に疲れている彼をこのまま寝かせておいてあげたいと思ってしまう。あと―――二階堂さんの寝顔を見れる機会なんて、そうそうあるものではないっていう邪な思いもあったりします。実は。
(…企画書読むくらいなら、隣に座ってもいいよね。うん)
勝手に疑問を解決させ、デスクの上に綺麗にまとめられていた企画書の束を抱えて、彼の隣に腰を下ろした。寒くないように、と仮眠用に置いてある毛布をかけることも忘れずに。
私が腰を下ろしたことでソファが少し沈んだけれど、二階堂さんは変わらずスヤスヤと眠り続けています。その穏やかな寝顔を見て、そっと息を吐いた。さて、企画書に目を通さなくちゃ。
「んん……あれ…」
「あ、目が覚めましたか?二階堂さん」
「なまえ……?」
3つ目の企画書に目を通し始めた時、二階堂さんがゆっくりと目を開けた。どうやらまだ半分夢の中のようで、彼はいつものあだ名ではなく私の名前を呼んだ。
「私が戻ってきた時にはもうぐっすり眠っていらっしゃいましたよ。寒くなかったですか?」
「ああ、うん…これのおかげで温かかった」
「それなら良かったです」
「うわ、2時間も眠ってたのか俺」
「疲れていらっしゃるんでしょう。過密スケジュールですからね」
コーヒーでも淹れてきますね、と立ち上がろうとしたら、腕を引っ張られた。どうしたんだろう、と振り向けば、そのまま抱きしめられてしまって身動きが取れない。…あの、本当にどうしたんですか二階堂さん。まだ寝惚けてるから?でもその割には引っ張る力は強かったし、目が覚めたのかしら。そうだとしてもこの行動の意味がわかるわけでもないんだけれど。
名前を呼ぶ代わりに背中をぽんぽん、と叩くけれど、力が緩む気配は一切なかった。それどころかもっとぎゅうっと抱き込まれて、ちょっと苦しい。これは二階堂さんの気が済むまでこのままにしておいた方がいいのかも。何かあったのかと心配にはなるけれど、それでも恋人に抱きしめられるのは嬉しいから…いいかな、別に。
「あー…姐さんだー」
「はい、私ですけど…何かありました?」
「何もないよ。ただ、…ちょっと充電したくなっただけ」
「…お疲れですか?」
もぞり、と彼の腕の中で動けば少しだけ力が緩み、さっきまでは見えなかった二階堂さんの顔が見えた。いつもはキリッとしている眉がハの字になっている。でも口元はゆるりと弧を描いているもんだから、どうしたものかと思ってしまう。何もない、と言っていたけれど本当は違うんじゃないだろうか。
「疲れてるけど、それ以上に姐さんと会えないのがちょっとキツイかなー…」
「最近は仕事でも一緒になりませんからねぇ」
ドラマの撮影についていっているのは、専ら万理さん。時々、紡くん。アイドリッシュセブンの仕事の時も、基本は紡くんがついている。最近に至っては私がつく機会は一切なかったと思う。それでも時々は今日のように事務所に顔を出していらっしゃったので、全く顔を合わせていないわけではない。ないけど、じゃあ会う時間を作れているのかって言われると…否である。
「二階堂さん、お腹空きませんか」
「ああ…空いたかも」
「もう少しで企画書に目を通し終わるので、終わったらご飯でも如何でしょうか」
「……行く。でもその前にもーちょっとだけこうしててもいいか?」
「ふふっはい、いくらでも」
そう返事を返すと、またぎゅーっと抱きしめられた。
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