今はまだ、このままで

俺には幼なじみがいる。女の子の、そして年上の。幼い時は年上とか、そんなのこれっぽっちも気にならなかったけど…中学生にもなれば、その差がでかいってことに気がついた。
たかが3つ、されど3つ―――俺が中学に入学する年に、アイツは卒業して。どれだけ追いかけても、追いかけても…追いつけないような気がして、正直焦る。近づきたいのに、隣に並びたいって思うのに、それが叶わない現実にほとほと嫌気が差してたんだ。


 side:綴


どうしたらいいんだろうな…歳の差はもうどうしようもねぇし、それ以外になんか方法あったりしないのだろうか。書き上げた台本を読み返しながら考えていたら、視界がぐらりと揺れた。あー…マズイ、3徹がたたったか?いい加減、睡眠時間削って書くクセをやめないとなぁ、と思いながら目頭をぐりぐりと擦る。けれど、相変わらず視界はぐらぐらと揺れたままで良くなる気配はない。
これは眠気とかではないかも、と思い始めた時にはもう俺は、椅子からずり落ちて倒れてしまった。ゆっくりと意識が遠くなっていく中、バタバタと誰かが廊下を走っている音と俺の名前を呼んでいる誰かの声が、聞こえたような気がした。





「う、…ここ、どこだ……?」
「病院だよ、バカ綴」
「ッなまえ……?!」


聞き慣れた声に驚いて勢い良く体を起こせば、またぐらりと視界が揺れた。額に手を当てて揺れが収まるのを待っていると、起きたらダメだってば、と有無を言わさない力でベッドに寝かされる。
いや、なまえさん…もう少し優しく寝かせてくれないかな。視界が揺れてるんだってば。そんな文句を言った所で倒れるお前が悪い、と言われるのがオチだ。そして反論は、一切できないので言わない。絶対言わない。悪いのは完全に俺だからなぁ。


「まーた徹夜して台本書いてたんだって?今回は何日?」
「………3日っす」
「はぁ…切羽詰ると極限まで切り詰めるクセ、いい加減に直さないと洒落にならないよ」
「…はい」
「倒れた原因は栄養失調と疲労、それと睡眠不足だって。この点滴終わったら帰れるから」


なまえにそう言われてようやく、自分の右腕に点滴の針が繋がれていることに気がついた。台本を書き上げた後に泥のように眠るのは常だったけれど、ここまでひどいのは初めてかもしれない…そりゃあなまえも怒るか。
ぼんやりと点滴が落ちていくのを眺めていると、額にひんやりとしたものが触れた。なまえの、手だった。


「なまえ…?」
「全く…あんまり心配させないでよ。倒れてる綴見て、心臓止まるかと思ったんだから」


寮内も大騒ぎだったんだからね、と眉を吊り上げて怒っているのに、額から頬に移動する手はひどく優しい。心地良い冷たさに思わず擦り寄れば、なまえはゆっくりと頬を撫でてくれた。それは幼い頃、熱を出して寝込む俺にしてくれたのと同じ、で。じわじわと込み上げてくる懐かしさに目を細めた。


「頑張ってる綴はすごいと思うけど、もう少し体調管理もしっかりしてほしいなぁ」
「うん……」
「眠いなら寝てなさい。点滴が終わったら起こしてあげるから」


おやすみ、と紡ぐ声は甘くて、優しい。
その声も、頬を撫でる手も、全てが心地良くて―――俺はあっという間に意識を手放した。



(あっ綴くんおかえりなさい!もう大丈夫ですか?!)
(うん。心配かけてごめんな、咲也)
(おかえり、綴。メシ作ったけど食べられるか?)
(食います、腹減った…)
(良かったらなまえさんも食っていってください)
(じゃあお言葉に甘えようかな…伏見くんのご飯、美味しいし)
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