最大の敵は身内なり。
俺の両親は、赤井さんとなまえさんを溺愛―――つーかかなり気に入っている節がある。それはまぁ前から知ってたし、全然構わないんだけど…チラリ、と視線を向けた先には、ゲッソリとしたなまえさんと苦笑を浮かべた赤井さん…基、昴さんがいる。
side:コナン
何故2人がこんな状態なのかと言うと、父さん達が日本に帰国した理由が原因だ。
何でも父さん達はパーティーに呼ばれたらしく、それに参加する為に帰国したんだと。今でこそ向こうを拠点に仕事をしてるけど、元々は日本で仕事してたから年に数回、今日みたいにパーティーに呼ばれることがある。それを聞いた時、ああまた呼ばれたのかーくらいにしか思わなかったんだけど、…事は起こった。
『なまえちゃんと赤井くんも行きましょう!』
『え?』
『ああ、それはいいね。そうと決まれば早速、ドレスとスーツを用意しないと』
『は?いや、あの、』
『せっかくだしコナンちゃんも行きましょうよ!』
『えっ』
こーんな会話があり、自由奔放な両親は俺達の意見なんて聞く耳持たずで勝手に決めやがった。オイ、誰ひとり行くなんて一言も言ってねぇんだけど?!
でっかい声で言ってみてもやっぱり聞く耳持たずな2人は、楽しそうにどんなドレスがいいかとか話をし始めた。なぁ、ほんっと人の話を聞いてくんないかな!!
「相変わらず自由な人達ですね」
「ほんっとごめん、沖矢くん…!」
「いや…うん」
「フォローになってないと思うよ、その返し」
さすがのこの人も構わない、とは言えなかったようだ。そりゃそうだよな、目の前で繰り広げられてる状況を見たら…無理だよな。絶対。
そう、ドレスとスーツを決めていたはずの父さん達はヒートアップし過ぎてるのか最早、ケンカだろってレベルでかれこれ1時間近く言い合っている。なまえさんにはこの色よりこっちだーとか、この形よりこっちの形の方がいいわよーとかエトセトラエトセトラ。ちなみに昴さんが着る予定のスーツは割とすんなり決まった。すんなりっつっても30分くらいかかってたけど。
その倍の時間かけても決まらないのは、なまえさんが着る予定のドレス。
「これ、いつまで続くのかなー…」
「決まるまで、でしょう。確実に」
「ああうん、そうなんですけどね」
「さすがに疲れてきちゃうよね。ボク、飲み物持ってくるよ」
「飲み物なら私が持って来ますよ。コナンくんは座っていてください」
「手伝う?」
「いいえ、なまえさんも座って待っていてください」
立ち上がりながらなまえさんの頭を撫でて、昴さんはリビングを出ていった。うわー、さり気ないなぁ本当。なまえさんも薄らと笑みを浮かべてて嬉しそうだし…うん、上手くいってるみてぇだな。2人の関係。
それは良かった、と素直に思える。父さん達の言い合いさえなければだけどな!
「もうっ優作のなまえちゃん溺愛っぷりには呆れちゃうわ!」
「それは君もだろう、有希子」
どっちもどっちだよ。割かし重症のレベルだよ。
「なまえ、有希子と話し合っても結論が出なくてね。これとこれを着てみてくれるかい?」
「うん、いいけどさ…」
もうどうにでもしてくれ、と言わんばかりの顔で2着のドレスを受け取り、着替える為に奥の部屋へと引っ込んだ。そして数分後、深い青のドレスに身を包んだなまえさんが戻ってきたんだけど…すげー綺麗。
「うんうん!なまえちゃんと言えば、ベルベットのイメージだけどブルーも似合うじゃない!」
「ほう…さすが有希子の見立てだな。似合ってる」
「それはどーも、兄さん、義姉さん」
「では私が選んだドレスも着てみてくれるかな」
「はいはーい」
…そういや、昴さんまだ戻ってこねぇな。飲み物持ってくるだけだしそう時間はかからないだろう、と思ってたけど遅くねぇ?もしかして父さん達の分も―――用意してるだろうな、あの人のことだから。
紅茶を用意してるんだとすれば、時間がかかってもおかしくはないか。お湯沸かして、茶葉を蒸らすわけだし…だとすれば、すぐには戻ってこない。だったらやっぱり、手伝いに行くべきだったかな…でも大丈夫だってあの人言ってたし。何よりこの空間になまえさんを1人残していくのも、やっぱり気が引ける。
とはいえ、父さん達の分も用意してるとなると5人分だろ?紅茶のポットも持ってくるとなると、かなり大変だよなぁ。手伝いに行くタイミングなら今ではないか、と悶々と考えていると、着替えに行っていたなまえさんが戻ってきた。
「あら、優作が選んだドレスも素敵ね!」
母さんが嬉しそうな声を上げ、父さんも満足気に頷いている。どうやらお気に召したらしい。俺も改めてなまえさんの姿を見た。
色は薄い緑、スカートの長さが前と後ろで違うタイプのドレスは、確かに彼女に似合っていると思う。さっきの深い青のドレスはかなり大人っぽく見えたけど、また印象変わるんだなぁ。
「さっきのももちろん似合っていたけど、たまにはこういうのもいいだろう?」
「そうねぇ…フィッシュテールタイプのドレスもアリだわ」
むう、と考え込んだ母さん。父さんはにこにこ笑いながらなまえさんの頬を撫でている、んだけど―――これ、絵面的に大丈夫なの?このタイミングで昴さん戻ってきたら大変なことになんない?なまえさんが焦ってない所を見ると、多分昔からされてることなんだと思うけど…あれだよな、親のこういう一面ってあんまり知りたくないもんだよな。
そっと視線を外した瞬間、リビングのドアがカチャリと開いて人数分のカップとお茶菓子、そしてポットをトレーに載せた昴さんが入ってくる。うん、予想通りだった。でもお茶菓子までは予想してなかったな。準備良いよなぁ、本当。ありがとう、と言いに近くに寄ってみて気がついた。昴さんが珍しく、眉間にシワを寄せていることに。
「…昴さん?」
「―――あの人はアイツの兄だから気にすまいと思っていたが…」
「え?」
「存外、嫌なものだな」
トレーをテーブルに起きながらボソッと呟かれた言葉は、昴さんのものではなく赤井さんのものだった。気にしてないように見えたけど、やっぱりなまえさんを取られたような気分だったんだな。
はぁ、と溜息をこっそりと吐く昴さんに、俺は苦笑を浮かべることしかできなかった。
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