いつか貴方の隣に

ええっと、あの報告書は週末までに仕上げて、それからあっちのチームに書類を持っていって…ああそうだ、精神鑑定結果も聞きに行かないといけないんだった。あと検死結果も聞きに行かないとだったっけ。
資料を捲りながら買ってきたばかりのサンドイッチを頬張る。でも味わって食べている暇はないな。色んな事件が重なってるから仕方ないんだけど、ご飯くらいは落ち着いて食べたいと思ってしまう。大好きなお店のサンドイッチならば尚更だ。まぁ、誰に言っても仕方のない文句は口に出さず、そのまま飲み込みますけどね。
最後の一口を放り込んで冷めかけたコーヒーで流し込めば、お昼終了です。よし、仕事再開!休んでなんていないけど!!ひとまず、書類持ってくのと精神鑑定と検死の結果聞きに行っちゃおう。サンドイッチの包み紙をゴミ箱に投げ入れ、大量の書類やら資料を抱えてドアを開けようとしたら―――盛大に額をぶつけた。えっ今、何が起こったの?


「…すまない。人がいるとは思わなくてな、大丈夫か?」
「あっ……」
「ん?」
「あかっ…赤井捜査官……!!」


ドアを開けたらそこには赤井捜査官がいました。えっ嘘でしょ?!
この人に憧れている同僚や新人は多い。私だってその中の一人だったりするでもこの人とはチームが違うから、そうそう顔を合わせることも、捜査で一緒になることもない。それなのにこんなバッタリ会っちゃうとか、そんなことがあるんですかこの野郎…!
ジンジンと痛む額は、この際どうでも良かった。というか、赤井捜査官にバッタリ会った衝撃が痛みを越えてる気がする。アドレナリン全開の状態に近い。ほら、アドレナリン全開だと痛みとか感じにくくなるじゃん。正に今、それ。


「こちらこそすみません!急いでて…」
「ずいぶんと多いな。どこに持っていくんだ?」
「え?あ、3階の…」
「ああ、あそこか。では行くか」


赤井捜査官は私が抱えていた大量の紙の束の半分以上をひょいっと取り上げ、スタスタと歩き出した。ポカーンとしている私の手に残ったのは、ほんの数十枚の紙だけ。……ええええぇええ?!私っ今、あの人に荷物持ちさせちゃってるの?!憧れの上司に?!それはマズいって色々と!!
慌てて追いかけて持てますから、と訴えても、女が持つ量じゃないと言われてしまい…取り戻すことは敵わず、すごすごとエレベーターに乗り込むことになりました。ああああ、憧れの人が隣に!同じ空間にいる!!これはもう一生ものだ、だってちょっとだけでも会話できちゃったし、書類も持ってもらっちゃったし。自慢できるレベル。あれだ、我が生涯に一片の悔いなしってやつだ。


「お疲れ様でーす。書類と資料をたんまり持って来ましたー」
「おお、なまえ。悪いな……なんだ、シュウに手伝ってもらったのか」
「彼女のチームに用があって訪ねたら、不注意でぶつかってしまってね。その詫びも兼ねている」


あ、そうだったんだ。それはまた、…嬉しすぎる事実だなぁ。優しい人だ。


「すみません、赤井捜査官。手伝って頂きありがとうございました」
「いや。…ああ、少しだけ待っていてくれるか?」
「?はい」


どうしたんだろう?何か用事?でもさっき、ウチのチームに用事があるとか何とか言ってたよな…この階には元々、赤井捜査官は用事なんてないと思っているんだけれど。
窓の外に視線を移してぼんやりしていると、額にひんやりしたいものが当たって奇声を、発しかけた。寸でで飲み込むことはできたけど、ビクリと肩は揺れましたよね。そりゃ。


「な、な……?!」
「いくら本部の中とはいえ、気を抜きすぎじゃないのか?―――みょうじ捜査官」
「ごもっともではありますが…いきなり何をしでかしてくださいますか」
「額がまだ赤い。こんなもので悪いが、気休めにはなるだろう」


もらってくれ、と渡されたのはコーヒーだった。コーヒーというか、甘めのカフェオレ。ああ成程、さっき待ってろって言ったのはこれを買いに行ったからだったんですね。手伝ってもらっただけでなく、カフェオレまで奢ってもらっちゃったなんて…本当、私の命はこのまま燃え尽きるんじゃないんだろうか。


「飲みながらで構わない。君の所属チームに頼みたいことがある」
「―――はい。どんな情報がお望みですか?」


いつか―――いつか必ず、憧れの貴方の隣に立ってみせる。無謀だろうが何だろうが、それが私の目標だ。
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