不思議、ふしぎ、マカフシギ

■本館 ツバサ長編:「その途の先の果て」とのクロスオーバー。



神様という、何ともにわかには信じがたい存在を目にしたのは大分前の話。だからきっと、これから先、どんなことが起ころうともそんなに驚きはしないだろうなぁって思ってました。菩薩様に出会ったことや三仏神様に謁見したことで、私の中にある常識というものはひっくり返されていましたしね。…でもやっぱり、生きている限り、有り得ないことが目の前で起きると絶対に驚くんだということを改めて感じました。
そして驚きすぎて目玉が落ちそう、というのを初めて体験した気がします。


「いったたた…!」
「大丈夫ですか?姫」
「う、うん、何とか…ちょっとお尻打っちゃったけど」
「此処が次の世界かなー?」
「もー少しまともに吐き出せねぇのか、てめぇは!!」


野宿の準備をしていた私達の前に現れたのは、黒・茶色・金の髪を持った5人と、ええっと…よくわからない白いフワフワした動物?の一行。
突然空が光ったかと思えば、その方達がドスーンッと派手な音を立てて落ちてきたんですよね。あまりに衝撃的で私達は思わず手を止めて口をあんぐり開けたまま、一言も言葉を発せずにいた。珍しく三蔵様も驚いてしまっているらしく、咥えていた煙草をポトリ、と落としてしまう始末。

だって…ねぇ?突然、人が落ちてきたらびっくりするのは当たり前ですし、それによくわからない生き物が喋ってるんですもの。そろそろ常識の範疇を超えるってものです。…それなりに不思議な出来事に慣れてきた、と思っていたんですが、そうではなかったみたいですね。


「ええっと、…貴方達はどちら様でしょうか?」


へらっと困ったような笑みを浮かべた八戒くんの言葉に、色とりどりの瞳が一斉に私達を映し出した。
どうやら彼らは私達がいたことに気がついていなかったらしい。こんなにも近くにいたんだけれど、大切な人の安否とか、此処がどんな所かを把握するのが先決だ、と頭の中にインプットされていたようで…眼中になかったようですね。
すみません、と琥珀色の瞳をした少年が頭を下げたけれど、荷物の上に落ちてこられたわけでもないし、別段被害はないのだ。だから気にしなくて大丈夫ですよ、と声をかければ、少しだけホッとした表情になりました。
…それにしても、この少年はとても真っ直ぐな瞳をしていらっしゃいます。きっと、…強い意志をお持ちなんですね。


「あっそういえばまだ自己紹介してなかったね。僕は緋月、紅凪緋月!」
「オレはファイ。それでこの黒いのが黒ぷーで、この子達が小狼くんとサクラちゃん。そんでこのちっこいのが、」
「モコナー!」
「俺の名前は黒鋼だっ!!」


うがーっと大きな声を出した、黒い大きな方。瞳は綺麗な深紅。悟浄くんの瞳の色と似ていますねぇ。


「ではこちらも自己紹介をするべきですね、僕は猪八戒といいます」
「俺、孫悟空!よろしくなっ!」
「悟浄、沙悟浄だ」
「……玄奘三蔵」
「私はなまえと申します。よろしくお願いしますね」


思わずよろしく、と口にしてしまいましたけど、この方達も旅をしている感じですし、一緒に行動するわけではないんですよね。私が考えていた通り、黒髪の綺麗な女性―――緋月さんがそろそろ宿を探しに行かないと、と立ち上がる。
ああ、やっぱり旅をして……、


「あ、あの、差し出がましいようなんですが…近くの町まで大分遠いですよ?」
「……えっ?!そうなの?!」
「僕達も旅をしているんですが、…次の町に着くまでジープであと丸一日くらいかかりそうなんです」
「―――…だから野宿の準備をしてたのか」
「それは困ったねぇ…オレ達、野宿の道具なんて持ってないし」
「食料は森の中を探せばどうにかなると思いますけど…」
「寝袋とかテントは持ってないよね、モコナ達」
「…どうしましょう」


黒鋼さんとファイさん以外の3人+1匹は、困ったように眉をハの字に下げた。旅をしているのは明らかなのに、野宿の道具を持っていないって…どういうことなんだろう?見た所、ジープのような移動手段は持っていなさそうだし、恐らく歩いて旅をしているのでしょう。となれば、必ず野宿を何回も経験しているはずなのにどうして?
首を傾げていると、緋月さんが困ったような笑みを浮かべたまま、「僕達は次元移動してるから、必ず泊まる場所がある国に着いてるんだよ」って教えてくれました。丁寧に教えて頂いてアレなんですけど、…まず『ジゲンイドウ』って何のことでしょうか?まるで聞いたことのない単語に、私達5人は頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。そんな私達を見て彼らも、同じようにえ?っていう顔をしちゃいましたけど。

…何だか、越えられない溝のようなものがお互いの間にあるような気がします。


「えーっと、…そっか、次元移動って一般的じゃないんだっけ」
「どう考えたってそうだろうが。馬鹿か、お前は」
「あははー。黒ぴーも緋月ちゃんも落ち着いてーあちらさんがびっくりしちゃうから」


いや、もう色々とびっくりしてますけど。アレですね、生きていれば色んな出来事に遭遇するんですね、やっぱり。
目まぐるしく過ぎていく目の前の状況にほう、と溜息を零した所で、たくさんの禍々しい気―――妖気を、感じた。ああもう、何も一般人がいるこの状況の中で来なくてもいいのに、と思うけれど、そんなのを気にしてくれるような輩じゃないのは経験済みだ。
4人も妖気に気がついていたらしく、溜息を吐きながら立ち上がっていました。


「―――殺気か?」
「あら、お判りになるんですね。…まだ少し距離がありますから、今のうちに逃げてくださいな」
「え、でもなまえさん達は…っ?」
「僕達が一緒に行くと、面倒なことになるんですよ」


ブワリ、とたくさんの妖怪が、目の前に現れた。


「何てったってコイツらは、」
「俺達を狙ってくるんだから―――な!」


悟浄くんの錫月杖が空中を走り、数多の妖怪を引き裂いていく。当然、血が流れていくのだけれど―――それを目の当たりにした2人の少女がビクリ、と身体を揺らしたのが視界に入る。…ああきっと、彼女達が生きていた世界は平和な世界だったのでしょうね。だったら尚更、早くこの場を離れるべきだと思います。
早く逃げて、と願いを込めて刀を振るい、銃弾を放つ。が、様子がおかしいことに気がつきました、それまで私達のみを狙っていたはずの妖怪は、後ろにいた彼らを見つけてしまったらしい。
ニヤリ、と薄気味悪い笑みを浮かべた輩が一直線に、サクラさんを狙って跳躍した。

しまった、と私達が動いた時にはもう―――妖怪は、彼女の目の前に迫っていたんです。

でも。サクラさんの身体が引き裂かれることも、怪我を負うこともなかった。彼女は驚いた顔をしていたけれど、五体満足のまま、そこに存在していたんです。
サクラさんを守るように小狼くんが彼女の身体を抱きしめ、その2人の前に―――緋月さんと黒鋼さんが立ち塞がっていたんだ。2人の手には血に濡れた刀がしっかりと、握りしめられていて少しだけ驚いちゃいました。


「な、なんだこいつら!三蔵一行の仲間か…?!」
「チッいったん出直すぞ!!」
「え?!……あーあ、まだ暴れたりねぇのになー」
「仕方ないよ。向こうも予測していないことが起きてて、驚いたんでしょ」


臨戦態勢だったのを解いてうーん、と背伸びをすると、5人の瞳がぱちくりと瞬きを繰り返している。


「えっと…君達ってすごく、落ち着いてるんだね?」
「なまえちゃんなんて僕達と同じ女の子なのに、全く物怖じしてないし…」
「モコナすっごい驚いたのにー!」
「あはは、私達は慣れてますから。日常茶飯事なんですよ」
「…つーか、あいつら何なんだ」


あれ?この方達、妖怪を知らないんだ。桃源郷に住んでいれば出会わないことなんてないはずなのに。だとすると、かなり遠くから来たってことなのかなぁ…どこかの大陸には妖怪というものが存在していないのかもしれませんし。

そうこうしているうちに夜の帳が下り始め、仕方がないので一緒に夜を明かすことになりました。だって行く所もないみたいですし、野宿をする術もないようですから―――それに出会った縁も、ありますからね。今日くらいはもう、襲撃もなくゆっくり休めるといいんですけどね、と思いながら、夕飯を食べたりしていたのですけれど…、


「わーっ!!もうなんっで僕達まで狙われちゃってるのかな?!」
「どうやらさっき襲ってきた奴らが、貴方達のことを報告しちゃったみたいですねねぇ。僕らの仲間だ、って」
「どんな勘違いだそりゃあ!!」
「ま、一緒にいたの見られてっし?それにアンタと緋月ちゃんがぶった切ってたしなぁ、妖怪を」
「「あ。」」
「黒りんのせいじゃんか〜!」
「俺だけかよ!!!このバカ女も同罪だろうがっ」
「バカバカ言わないでよ、黒鋼くん!」


口喧嘩をしながらも目の前の敵を倒していくこの方達は、何と言うか、うん、…すごいと思います。2人の喧嘩を止めようと、小狼さんとサクラさんがあわあわしているのは、不謹慎ながらも可愛いと思ってしまいました。
そしてようやく全員倒した、と思えば、また大量の刺客が押し寄せてきて―――朝まで何十回とそれを繰り返され、全員疲労困憊です…。


「うあー…やぁっと静かになったー…」
「す、すごいですね、…いつもこんな生活をしているんですか?」
「いやぁ、ここまではひどくないんですが…」
「―――…俺ァ寝る。起こしたら殺す。」
「(ビクッ)」
「サクラさん、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ」
「あ、えと、…はい」
「かーわいい反応すんね、その子」


悟浄くんはくつくつと楽しそうに笑っていらっしゃいますけど、…彼女に手を出したら完全に犯罪ですからね、と釘を刺す。ついでにジロリ、と睨めば、手ェ出さねーよ!!って思いっきり反論されました。
全く、…そんなムキにならなくても大丈夫だ、っていうのは理解してますよ。というか、ムキになった方が怪しいんだってことに気がついていらっしゃらないんですかね?


「そうだ、モコナ、緋月さん。羽根はありそうですか?」
「バタバタしてて忘れてたね…んー、でもこの世界にはなさそうかなぁ」
「モコナも何も感じない」
「んだよ、骨折り損か」
「でもそうでもないんじゃない?新しい出会いもあったわけだしさ」


にっこりと嬉しそうに笑みを深めた緋月さん。妖怪に襲われて大変だったというのに、すごい方だなぁ…。


「羽根がないなら、次の世界に移動かなー?」
「うん」

―――バサッ!

「っわ…!羽?!」
「すっげー!なんだアイツ!!!」
「ぅわお。」
「これはまた、…すごい光景ですねぇ」


モコナと呼ばれていた子の背中には、大きくて真っ白な羽が生えていた。そして彼らの足元には、青白く光っている何かが描かれていて―――モコナの力で次の世界へ移動しているんだよ、って柔らかな笑みを浮かべたファイさんが教えてくれました。
ああ成程…これがさっき言っていた、『ジゲンイドウ』ってやつなんですね。


「あのっ…夕飯、ごちそうさまでした!」
「いいえ。巻き込んでしまってすみませんでした」
「―――…また、いつか」


サクラさんが笑ったのを最後に、彼らは姿を消した。そこにはもう何も残っていなくて、ただ三蔵様の寝息だけが聞こえていたんです。



(何か不思議な世界だったねー)
(でも、…緋月さんの言う通り、新しい出会いもありましたから)
(ふふっ楽しい人達だったね、賑やかだったよ。悟空くんと悟浄くんなんか特に!)
(あの妖怪とやらはなかなか手応えがあったな)
(初めて見たからちょっと怖かったです…)
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