02
「はあ………」
所変わって。此処は私の自室。
今世紀最高の叫び声を発した後、陛下の執務室を退室して自室に戻って来たのだ。
え?護衛はどうしたのかって?…私のあまりの狼狽ぶりにユーリが「休んできていいよ」と言ってくれたんです。
グウェンダル閣下がユーリの傍にいることを了承してくれたこともあってね。お言葉に甘えたわけです。
「お前に縁談を申し込みたいという奴がいる」
何だ、縁談って。…いや、意味はわかるけど。
私は一介の軍人で、貴族でもなくて…見ず知らずの奴に好かれるほど性格が良いわけでもないのに。それも別に縁談の募集をかけてたわけでもないんだぞ?!当たり前だけども!
しかも相手は貴族ときたもんだ。貴族に私みたいなただの軍人がふさわしいわけがないだろうに。
そのことを考えた上での縁談だとしたら、本当に馬鹿げてるぞ?失礼だが。…そもそも、私には―――
「大切な奴が、いるというのに…」
ウェラー卿コンラート。
上王陛下のご子息で、元王子。人間の父と魔族の母の間に生まれた混血の子。
サラリとした茶髪の髪に、銀の虹彩を散らした綺麗な瞳。この国一番の剣の使い手で、魔力はないけど…とても強いんだ。
彼が…私の、最愛の恋人。公にしてはいないけれど、もう7年つき合っている。それなりに時間は経ったけれど、今でもその事実が夢のように感じるんだよなぁ。
元々、私の命は"あの時"。失われる予定だったのだから。
だから―――彼と恋人になれるなんて、思いもしなかったんだ。本当に。
「ああ…今思えば、コンも貴族の一員なんだよな。本来ならば」
混血だから、と十貴族の称号はもらえなかったけれど、ツェリ様のご子息であることは変わりない。王子であったということも…ね。
ずっと一緒にいて、同じ軍隊にいて、同じ戦場に立っていたから…すっかり忘れていた。
―――私とは元々立場が、違うんだ。これを問えば…あいつはきっと困ったように笑うんだろう。
そんなことはないよ。
そう言いながら、私を抱き締めてくれるのだろう。
「…馬鹿げているな、こんな考え」
「なーにが馬鹿げてるのさ?なまえ嬢」
「ッ?!」
突然聞こえた声に振り向いてみれば、そこにいたのは見知った青の瞳と眩しいくらいのオレンジの髪を持つ彼。
「ヨザ…ノックぐらいしろよ」
「人聞きが悪いなぁ。ちゃぁんとしたっての…気づかなかったのはそっちだろうが」
「む…そうなのか?それは…すまなかった。それより、私の部屋を訪ねてくるなんて…どうした?何かあったのか?」
「あぁ、そうだ。なまえに客が来てるんだけど…」
「客?…今日は私を訪ねて来る者はいなかったはずだけどな」
「謁見の申し出ナシで、強行突破してきたみたいだぜ?そのお客さん」
はぁ?!!謁見の申し出も、許可もなしで強行突破って…よく門を通れたな。普通、予定のない来訪者は門番に止められるはずなんだが。
驚いて、口をあんぐり開けたまま固まっていると、ヨザが苦笑しつつ私の疑問に答えてくれた。
「すげーマヌケな顔。…そのお客さん、徽章を持ってたし閣下の知り合いだ!って言い張るもんだから、通す他なかったらしいぜ?」
「閣下って……グウェンダル閣下か?」
「そうそ。…もしかして、心当たりアリ?」
「心当たりと言うか…私に縁談を申し込みたいという奴がいると、さっきグウェンダル閣下から聞いたんだ」
「あー…もしかしたらそいつかもしんねぇって?」
コクンと頷くと、ヨザにポンポンと肩を叩かれた。まるで慰めるように。
会いたくなんてないが。…今、此処に来ている以上は顔を出さないわけにいかないよな。
待たせるのも失礼だ。不本意だが、お客様だし?
「仕方ない…応接室に行けばいいのか?」
「あぁ。突然の来訪者だから警戒してんのか、皆様お集まり」
「皆様、って…」
「んなの、もちろん…坊ちゃんにわがままプー王子、フォンクライスト卿に閣下だろ?あと―――隊長も」
コンラート…いつの間にか城下の見回りから戻ってきていたのか…。
それはとりあえず置いておいて。応接室に行くとするか。服は…軍服の上を羽織っていけばいいか。他に服を持ってるわけでもないしな。
溜息を1つ吐いて、ヨザと共に応接室へと向かった。
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