04

ランスロット様もすごく素敵な人なんだと思う。
まだ知り合って間もないけど、きちんと話をしたわけでもないけど…とても真っ直ぐな人だ。ユーリと同じくらい、澄んだ綺麗な瞳をしているから。
私は貴方を受け止めることは出来ないけれど、でもいつかきっと…私なんかより素敵な女性に出会えるんじゃないかな。…私が言うのは、おかしいし失礼だけれど。

先程以上の、痛いくらいの静寂に包まれる部屋の中。
うう…やっぱりこういう空気は苦手だ。静かなのが嫌いなわけではないが…それでもこんな痛いくらいの静寂は、誰か破ってくれと切に願ってしまう。


「えーっと…話を勝手にまとめるけどさ、なまえは求婚返しはしないってことでいいんだよな?」
「あ…はい」
「…そーいうことらしいけど、ランスロットさんは納得したの?」


静寂を破ったのはユーリだった。
私の意思を再確認して、ランスロット様に納得できたのかを聞いている。
問いかけられたランスロット様は、完全に納得したという表情ではないけれど…それでも静かに頷く。


「完全に納得できたわけでも、なまえさんのことを諦めたわけでもないですが…あんなにハッキリとウェラー卿のことを好きだと言われてしまっては、敵いませんね」
「ごめん、なさい……でも嬉しかったのは本当だ、ありがとう」
「そんな顔で謝られると、結構悲しいんですよ?…僕の方こそ、ありがとうございました。貴方に会うことが出来て、気持ちを伝えられることが出来て…良かったです」


ランスロット様はそう言って、城を後にした。
嵐のようにやって来て、あっという間に帰られてしまったけど…やっぱり何だか申し訳ない気持ちだなぁ。

諦めない、と宣戦布告されていたコンラートと私だけど…またいつか此処に来るんだろうか?今日みたいに、突然に。


「なーんか妙にドタバタしちまいましたねぇ」
「全くだ…まぁ、変な展開にならずに解決したことだし、一安心だな」
「しかし、コンラートももっと反論すれば良かっただろう。あまり口を開かなかったな」
「あぁ…あまり俺が口を挟むのも良くないだろう?」
「そう?もっと俺のだー!的な発言があっても良かったと思うけど」


…確かに、皆の前ではあまり口を開かなかったけど。
実はランスロット様が城を出立する直前―――


「…ウェラー卿」
「はい?」
「貴方はなまえさんを愛してるのか?」
「…愚問ですね。ルナは誰よりも、何よりも大切な存在です…愛していないわけがないでしょう?どんな奴が現れたとしても、アイツだけは誰にも渡しませんよ。…例えそれが、我が主君だとしても…ね」
「はぁ…負けたよ。貴方にはどう頑張っても勝ち目はなさそうだな」
「諦めていただけるのなら、こちらとしては幸いですが?」
「求婚したことは取り消す。…けれど、それと彼女のことを諦めることでは話が違う」
「そうですか…ならば、どんな手段を使おうと彼女を渡すわけにはいかないな」


…こんな会話が2人の間でされていたことは、私しか知らない。
意外とコンラートも独占欲が強いってことがわかったよ。今まで知らなかった事実だ。


「さぁーて!一件落着したことだし…仕事の続きでもしようかなぁ」
「陛下…素晴らしいっ!自ら執務に励まれるとは…っ!!!」
「普通はそれが当たり前だろう…何を言っている」
「あーあ…ギュンギュン閣下、完全にスイッチ入っちゃいましたね。カワイソー、坊ちゃん」
「さっきまでの空気とは打って変わって、いつも通りだな…呆れるくらいに」
「ははっ確かにな。…なまえ、後でちょっといいか?」
「?あぁ、構わないぞ」


そう言って約束を取り付けたコンの顔は、いつになく真剣な表情で。
とりあえず、夕食を済ませた後にコンの部屋を訪ねることになったんだけど…一体どうしたんだろうか?
何か考え込んでるようにも見えるし、何かを決心したようにも見えるし…気になる所だけど、今聞いても答えてくれるとは思えない。
多分、何か話があって約束を取り付けてきたんだろうし、今はそっとしておくことにしよう。


夕食が終わり、自室に戻るというユーリを部屋まで送り届けて。
私も休もうと部屋へ足を進めた時、コンラートに呼ばれていたことを思い出した。つい数時間前のことなのに、すっかり忘れていた私って何なんだ…歳か?
…まぁ、それはさておき。コンラートの所へ向かうとするか。
もう部屋に戻ってる、よな?呼び出したのはあいつなんだし、私みたいに忘れていたりはしないはずだ。


―――コンコン

「はい?」
「あ…私、だけど」

―――ガチャッ

「思っていたより早かったな。どうぞ」
「うん」


久しぶりに来たコンの部屋。隣同士ではあるけれど、大体私の部屋にいることが多いから…あまりコンの部屋には入らないんだ。
それなのに昔っから、彼の部屋に来ると落ち着くんだ。何故かはわからないけど。ま、悪いことじゃないよな。それも。


「それで?急に呼び出して…どうしたんだ?」


ボスッとソファに座り、紅茶を淹れてくれている後姿に問いかける。
問いかけた瞬間、微かにコンの肩がビクッとした気がします。実に珍しい…あまり動揺とか、表に出さない奴なのに。
てか、どうしてそんなに驚く必要があるんだ?何か話があって私を呼び出したんだろうに…張本人が驚くのはおかしいだろう。
…あまり考えたくないが、何か良くない話なんだろうか。別れ話、とか。
内心ビクビクしながら待っていると、スッとカップを差し出された。
紅茶か…うん、良い香り。


「ありがとう。コンも座ったらどうだ?」
「…あぁ」
「「…………」」


ち、沈黙が痛い…っ!!!何なんだ、この重苦し…くはないけど、微妙な空気はっ?!
呼び出したのはコンのはずなのに、一言も話さないし。いたずらに時間だけがどんどん過ぎていく。
別に急ぎの用事はないし、夕食も済んでるからあとはお風呂に入って寝るのみだ。だから時間かかっても構わないけれども。
それでもずーっと!しーんとしているのはどうなんだ?本当に。


「…なぁ、なまえ」
「え、あ、はい」
「大事な話があるんだけど…聞いてくれるか?」


―――ドクンッ…

いつにないくらい真剣な眼差し。その話を聞きたいような、聞きたくないような…不思議な気分で。
だっていい話か、悪い話かもわからない状態だぞ?普通はそんな気分になるだろうが。
だけど、ここで逃げたくもない。
意を決して頷いて、体をコンの方に向けた。瞳がしっかりと見えるように、表情からも全てを読み取れるように。


「今日、なまえに来訪者が来ただろ?それは別に気にも留めなかったんだけど…いきなり求婚された所を見て、何て言うか…ショック、だったんだ。恋人の俺すらしていないのに、って」
「…うん」
「多分…受け入れたりはしないだろうと思ってはいたけどね」


"自惚れかもしれないけど、好かれていると思ってるから。"そう言って、少し悲しそうな瞳で笑ったコンラート。
なぁ、コン?そんな顔で笑わないでくれ。貴方がそう思うのは決して自惚れじゃない、自信を持ってくれていいんだよ。
私はあまり言葉や態度で伝えるタイプではないから、わかりづらいとは…自覚がある、んだけど。
それでも気持ちを伝えるっていうのは、何だか恥ずかしくて気持ちが通じ合ったあの日から出来ずにいる。だけど、こんな風に悲しそうな顔で笑わせてしまうくらいなら―――


「ちゃんと…伝えてあげていれば良かったな…」
「大丈夫。なまえがそういうの苦手な奴だっていうのは、よくわかってるから。無理にしようとしなくていい」
「そう、か…」
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