05

何となくコンの顔をしっかりと見ることができなくて俯き加減になる。不安にさせてしまったことへの罪悪感…なのだろうか。居心地が良いはずなのに、落ち着くはずなのに今は此処に居辛いと思ってしまう。それでも出て行くことだけはしないけれど。
そのままでしばらくじっとしていたら、ふっと頬に手が添えられた。コンの突然の行動に驚いて、俯いてた顔を上げた。視線の先にあった彼の顔はさっきとは違って、穏やかに…優しく微笑んでいて。私の大好きなコンの笑顔だったんだ。
愛想笑いでもなく、悲しそうな笑みでもない笑顔が見れてホッとしたのと、嬉しかったことで私も自然に笑みが零れる。だって好きな人が笑顔だったら、自分も嬉しいだろう?


「…なまえ」
「?どうした」
「好きだよ、俺はなまえのことが…本当に」


急に好きだと言われ、抱き締められた。その全てがいつものコンラートからはあまり想像が出来ないんだ。ぎゅうっときつく、きつく抱き締めてくる彼の姿は、何かに縋っているようにも思えて。それが…少しだけコンが小さく見せている気がする。
一体、何を考えているのかは今はわからないけれど、それを問う気持ちもないからただ抱き締め返したんだ。私自身、彼に抱き締めてもらえるだけで安心するからさ。コンにも安心、してほしくて。


「好いてくれていることも、コンがどれだけ私を大事にしてくれてるかも…よくわかってるつもりだぞ?けれど―――ありがとう」


赤子をあやすようにポンポンと背中を叩きながら、そう言葉を紡げば。縋るように抱きついていた腕の力が少しずつ緩んでいく。…安心したのかな?


「突然で驚くかもしれないし、アイツの真似になるようで…若干、癪ではあるんだけど」
「何の話だ」

―――ペチンッ

「…こういう話だよ、なまえ」
「……………へ?」


左頬に何かが当たって、軽い音を立てた。
未だに温かい何かが触れている気がするし、此処には私とコンしかいない…と、いうことは。ソレはコンの手、ということになるよな?…何か、昼間にもこんなことがあったよなぁ。痛みは全くないけれど。え?それと同じことが、今起きたのか?


「え、えっと…今、左頬を叩いた…よな?」
「叩いたな。意味は忘れているはずがないだろ?昼間に強烈なのを受けているんだから」
「……求、婚……」
「その通り」


あぁ、やっぱり求婚だったんだなぁ。私の考えは間違いではなかったんだ。…って…求 婚?!ちょちょちょっ?!ちょっと待て!!!いきなりすぎて理解しきれないぞ。頭がついていかない…。


「えっなっどっ…ぅええええぇええぇえ?!」
「そんなに驚くことか?昼間はいやに冷静だったじゃないか。俺、結構不安だったんだけど…なまえが冷静だったから逆にね」
「あっあれはっ!…もう答えが、決まってたから焦ったりする必要がなかったんだ。…縁談を申し込まれたって聞いた時は、確かに少し驚いたけど!」


言っておくが、これはそれ以上の驚きだからな!だってまさか…コンが私に求婚してくれるなんて…思ってもいなかったんだから。考えることも、想像することもしていなかったんだよ、こんなこと。
…私達は軍人だから、いつ命を落とすかわからない。前に比べて平和になったけれどそれは変わらないと思うし、いつどうなるかだってわからないんだ。それはコンだって身に染みているはずなのに。なのに…求婚してくれたのか。
あぁ、どうしよう…それがこんなにも嬉しい。泣きたくないのに、笑顔でいたいのにどんどん視界が歪んでいく。


「泣かせたかったわけじゃないんだけどなぁ…」
「うー…っお前がいきなりそんなことするからだろぉ」
「いきなりじゃない…ずっと考えてたんだ、求婚しようかどうか。まぁ、結果的に背中を押されたようなものだけど。俺と結婚してください、なまえ。これからもずっと、キミを大切にするよ。傍に、いさせてくれないかな?伴侶として」
「そんな嬉しい申し出…っ!断るはずがないだろう?」


流れてくる涙を乱暴に拭って、左頬を軽く叩いて。ありがとうの気持ちを込めて、頬に軽くキスをして。顔を見合わせて、笑い合って。ただきつく抱き締め合って。あぁ…幸せ、だ。本当に。




長い間、育ててきた恋心。それはやがて通じ合い、『愛』となった。
この想いは絆となり、2人を固く、きつく結び合う。もう二度と…決して離れることのないように。
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