想い、想われ

ずっと、ずっと好きだったの。
他の誰でもない、貴方が本当に大好きで。大切で。
出来ることなら…貴方の隣にいたかった。貴方の隣で笑ったり、泣いたり…色んな感情を、出来事を共有したかった。


―――でも運命って残酷ね。


過去最悪と謳われた、アルノルドの戦い。
奇跡的に勝利して、この地に戻って来たけれど…貴方の心は失われていた。
あれからどれくらいの時が経ったのだろう。彼は―――突然、姿を消した。





「ん……」


もう、朝か…。重い体を無理矢理起こすけど、だるくてだるくて仕方がない。
やっぱりちゃんと寝ないとダメなのかなぁ…これでも睡眠は取ってる方だと思うんだけれど。


「今日も天気がいいね」


カーテンを開ければ、眩しいほどの陽の光と透き通るほどに綺麗な青い空。
そっと瞳を閉じてみれば、瞼の裏に浮かぶわたしの想い人。

ウェラー卿コンラート。

国内一の剣の使い手で、アルノルド帰りの我が隊長。ルッテンベルクの獅子とまで呼ばれた、本当に最強の人。
…彼がいたから、彼の下にいたから戦い続けることが出来たの。ついていけたの。それなのに―――――


「誰にも、何も言わずにいなくなるなんて…ひどいわよ…」


アルノルドの戦いで失ったものは、大きすぎて。全ての人の心に、傷を残すくらいに。
コンラートも例外じゃない。たくさんの部下を失って、それでも国に帰るために必死になったの。
でも必死の思いで此処に戻って来た時、彼の一番大切な人―――ジュリアは亡くなっていた。彼にとって無二の存在で、失いたくない人だったのに。

この戦いで、彼女は命を落とした。そしてその後に、彼はいなくなってしまったの。
何処を探しても見つからない、誰も何も聞いていない始末。
…行方が、わからない。
生きているのかもしれない。死んでいるのかもしれない。それすらもわからなくて、風の噂さえ聞かないのよ?
けど、彼のことを知っている人は、皆同じ言葉を口にするの。『死に場所を探しに行ったんじゃないか』って。


―――あれからまた、幾年の時間が過ぎて。
アルノルドの戦いが徐々に、心の奥深くへと眠り始めた時。またもや突然に、彼が帰ってきた。
あの時とは違う…晴れ晴れとした表情で。私が見たことのない表情をした、コンラート。


「(まるで…知らない人、みたい)」
「!…なまえ…」
「久しぶり、ですね?コンラート隊長」


ああ、私はちゃんと笑えているだろうか?
泣きそうになっていないだろうか?
不自然に、なっていないだろうか?

彼が笑えるようになったのは、嬉しかった。心からホッとして、良かったって思える。嘘じゃない。
―――でも私が彼を支えてあげたかった。笑顔にしてあげたかった。
こんな笑顔で…隣で笑ってほしかった。だけど、それは私の役目じゃなかったんだね。


「良かったです、隊長が元気そうで。皆、心配してましたよ?急に姿を消しちゃうんですもの」
「…任務を、していたんだ。急だったから誰にも言うことが出来なくてな」
「そうだったんですか。お疲れ様でした!怪我はしてませんか?」
「あぁ、何ともないよ。なまえも元気そうだな?」
「有り余るくらいに。元気だけが私の取り柄ですからね」


ホッとしたように笑って、刀傷が残る無骨な大きな手で頭を撫でてくれる。
私は彼に撫でられるのがとても好き。安心できるから。この温もりを、優しさを、私だけのものにしたかったんだ。誰にも…渡したくなんてなかった。

それこそ―――ジュリアにだって、コンラートを渡したくなかったの。
だけど、どんなに時が経っても…彼の心の中には彼女がいる。
一番大切で、一番の理解者で、一番の親友で。姿・形を失った今でも、彼女の光は眩しいほどに輝いているから。


―――ポタ…ッ

「なまえ…?泣いてるのか?」
「あ、れ?…すみません、すぐに止めますからっ」


ボロボロと、止めどなく涙は溢れてきて。
どうして私は泣いているのだろうか?悲しくなんてないのに、コンラートが…生きていてくれたのに。
お願いだから止まってよ…笑っていたいの。迷惑を、かけたくなんてないのよ。
彼の心の中に留まれないのなら、ただの部下でいいんだから。優秀な彼の右腕でいられるのなら、私は幸せだと笑っていられるの。
その為には…涙なんか流して、迷惑をかけちゃいけないのに…っ!


「…泣くな」
「ふ…っごめん、なさ…止まらなくて…っ」

―――フワッ…

「お前が泣いていると、俺も痛い」
「た、たいちょ…」
「…いつからだ?お前はいつから―――俺の名前を呼ばなくなった、敬語で話すようになった」
「え…?」
「もう呼んでくれないのか?俺は…もうなまえの隣にはいられないのかな」


思考が、ついていかない。
私は今どんな状態になってるの?暖かい何かに、包まれているような気がするんだけど…。
もしかして―――抱き締められている?


「コン、ラート……?」
「何だ?なまえ」
「呼んでいいの?前みたいに名前で…敬語で話さなくてもいいの…?」
「俺はその方が嬉しいけど?…好きな奴に名前で呼ばれるのは、すごく嬉しい」
「好きな、奴…?」
「…なまえが好きだよ。やっと気付けたんだ、一番大切なものに」


夢を、見てるようだった。
こんなこと、絶対に起こるわけがないと思っていたから。コンラートが私を好きになってくれるなんてこと、一生ないと。
ずっと想ってた。ずっと…好きだった。でも伝えることは、きっとないと思っていたのよ?


「この国を離れて、なまえとも離れて…ようやくわかった。なまえの存在がどれだけ大きかったのか。どれだけ大切だったか」
「何よ、それぇ……私は、ずっと貴方のことが好きで…っ!でもジュリアを好きだと思っていたから、この気持ちは忘れようと…していたのに…!」
「ごめんな、なまえ。今更で…ごめん。でも…好きなんだ。誰にも渡したくないし、ずっと隣で笑っていてくれないか?」


バカね、コンラート。私はずっと貴方が好きだったと言ったでしょう?
そんな私が―――断るわけないじゃない。


「もちろんよ。私も…貴方が好き。大好きよ!」


貴方の笑顔を取り戻したのは、貴方の心を取り戻したのは私じゃなかったけれど。
でも…彼は隣にいる。どんなきっかけだったとしても、彼が笑ってくれているのなら。
今度は私が、その笑顔を曇らせないようにしたい。
護って…いきたいと思うんだ。ずっと、ずっと―――貴方の隣でね?
-162-
prevbacknext