私の特効薬

女だからって、こう…必要以上に女扱いされるのは嫌だった。ただでさえ4人とは戦闘能力とか、力とかに差があり過ぎるんだから、だから自分でできることは出来る限り自分でやろう、と決めたのは旅に出る前のこと。
皆に迷惑をかけないように、それが私の第一目標だった。そうじゃなきゃ、傍にいる資格はないってずっと思ってるから。足手まといにはなりたくないの。あの金色の光を、絶対に見失わない為に。





「う〜〜〜…っ!」
「大丈夫ですか?なまえ」
「へい、き…薬飲んだし、そのうち効いてくると思うから」
「平気だ、と言う人の顔色には見えませんけどね…毛布を借りられるかどうか聞いてきます」


待っていてください、と部屋を出て行った八戒。ほんと、こういう時に気遣いが一番上手なのは彼だよねぇ。悟浄も優しくしてくれそうな気はするけど、生理の知識があるのかはわからんし。…八戒も、別に知識が豊富なわけじゃないらしいけど、姉がいたから何となくは察することができるんだって言ってたっけ。私の異変に気がついてくれたのも、八戒が一番最初だったしね。
というか、普通は「今生理なんです!」なんて宣言できないし、…だから八戒が気がついてくれて助かったな、っていうのが正直な所だ。まぁ、薬は持ってるし、生理用品もちゃんと揃えてあるから自分一人でも何とかできるんだけど…今回はあまりにも痛みがひどくて起き上がれないくらいになっちゃってて。どうしよう、と蹲っていた時に八戒が来てくれて、私の様子がおかしいことに気がついてくれたんだ。

三蔵には上手く言っておきましたから、今日はゆっくり休んでくださいって温かい飲み物とか、使い捨てカイロとか用意してくれたんだよ。…でも三蔵には何て言ったんだろ。多分、生理痛がひどくて動けない、とは言ってないと思うんだよね。あの人のことだから。風邪とか、体調不良とか、そんな風に誤魔化したのかな?

(ま、何でもいいや…とりあえず、お言葉に甘えて今日は寝させてもらお)

薬が効いてくれればまだマシになるだろうから、それまではひとまず耐えるしかない。布団をかぶって丸まっていると、ドアが開く気配。八戒が戻ってきたのかな、と顔だけ出してみると、そこにいたのは毛布片手に超絶不機嫌な顔をした三蔵でした。
私は悟った、自分はここまでの命だと。


「…おい」
「は、はい、何でしょうか三蔵……」

―――バサッ

「八戒から渡された。お前に持っていけ、とな」


八戒さーーーーんっ?!何で、何でよりによって三蔵に渡しちゃうの!!君が持ってくるか、もしくは悟浄か悟空に頼むことだってできたでしょうがあああぁああ!!!
三蔵に渡すのはダメ、絶対!この人、予定通りに出発できなかったから、不機嫌極まりないの!それは君だって理解してるでしょう!


「あ、ありがと…」
「―――具合、悪ィのか」
「えっと、…うん、そんなとこかな。大丈夫、明日には出発できるようにするから」


ビクビクと会話をしながら、受け取った毛布をお腹周りに巻き付けていく。別に寒いわけじゃないから、布団の上にかける必要はないんです。お腹を冷やさないようにしたいだけなのだ。あ…毛布巻き付けたら少し楽になったかも、薬が効き始めてるのもあるんだろうけど。少しずつ引いてきた痛みに、ホッと息を吐く。

もう用事は済んだはずなのに、三蔵は部屋を出て行く気配がない。かと言って、椅子に座ったりすることもないし、煙草を吸い始める様子もないんだよね。この人、毛布を届けに来ただけなんだよね?何でまだ、ベッドの傍に立ったままなんだろ。三蔵に限って目を開けたまま寝てる、ってことはないだろうし。
どうかしたのか、って声をかけようかどうしようか迷っていると、不意に三蔵が動いてベッドに腰掛けた。2人分の体重を支えようと、ギシリと音を立てる。


―――ナデナデ…

「…さっさと治せ。お前がいないと悟浄と悟空がうるさくて敵わん」
「あの2人がうるさいのは私がいようがいまいが、関係ないと思うけど…」
「関係あるんだよ。お前の様子はどうだ、とか八戒にしつこく聞いてやがる」
「あはは、そうなんだ」
「―――…それに、お前がいねぇと調子が狂うんだよ。バーカ」
「ッ!」


頭を撫でられただけでももう爆発しそうなのに、そんなこと言われちゃったら…どうしたらいいかわかんないじゃないか、馬鹿野郎…!
普段、ツン要素しか出さないくせに不意打ちでそんな優しい一面見せやがるんだから、この男は。でも、…そんな三蔵にドキッとしてしまう私は、心底この人に惚れているということだ。惚れた弱み、ってこういうことを言うのかなぁ。

突き放すことが常のクセに、完全に突き放すことも、見放すこともしない三蔵は―――ズルイと思う。こうやって時々、振り返って手を差し伸べてくれるから、だから私も付いていくことを止めようって思ったことがないし、離れられなくなっちゃうんじゃないか。諦めきれなくなるんじゃないか。…飴と鞭をよーく理解してるよなぁ、ほんと。


「もう、…三蔵のバカ」
「人をバカ呼ばわりすんじゃねぇよ」
「そっちが先に言ったんでしょ。…ズルイよ、そうやって私のことを掴んで離さないんだから」
「…当たり前だろ。一度、掴んだもんを易々と手放して堪るか」


なまえのことは背負う、と決めたんだ。癪だがな。
最後の一言はすごく余計だと思うけど、それを抜いてもときめかないはずがないセリフをしれっと言いやがりましたね…!薬が効いたのか、三蔵の言葉が効いたのかはわからないけど、彼が部屋を出て行く頃には痛みが和らいでいました。
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