だって好きなんだもの
時刻は夕暮れ時。
吹く風が肌寒くなってきた。
なまえは今、近くの商店街へ買い出しに向かっている。
その隣にはムスッとした顔の黒鋼。
何故、この2人で買い出しに行くかというと…。
なまえとサクラは夕食の支度をするファイの手伝いをしていた。
すると突然、ファイの間延びした声が台所に響いた。
「あ、材料足りなくなっちゃったー」
「え!何が足りないんですか?」
サクラは少し焦ってファイに質問する。
「んー。フランスパンと果物。後ドレッシング用の野菜と油かなー」
『結構ありますね。じゃ、私が買いに行きます!』
なまえは自分が行くと名乗りあげ、出かける準備をする。
「でも、もうすぐ夜だから1人じゃ危ないねー」
少し考えるかのように間をあけるファイ。
そして、名案が浮かんだかのように言った。
「じゃ、黒様と行ってくれるー?」
それで、今現在の状況に至る。
ちなみにファイが黒鋼にした理由は
「黒様が近くにいればなまえちゃんが安全でしょー」
ということらしい…。
なまえはドキドキしていた。
何故なら、黒鋼はなまえが密かに想いを寄せる人。
2人っきりで隣に並んで歩くだけでも緊張するだろう。
(はぁー、辺りが暗くなってなかったら
黒鋼さんに顔が赤いのがバレちゃうところだった!)
恥ずかしくなったのか、なまえは思わず顔を覆った。
そして気を紛らわすかのように、ファイから預かったメモとにらめっこしながら歩く。
2人は一度も会話を交わすことのない内に、商店街に到着した。
ここで、なまえは意を決して黒鋼に話しかける。
『あ。着きましたね!!』
「おう」
『あの、黒鋼さんにはフランスパンと油を買うのをお願いしていいですか?
買い終わったらここに集合しましょうか』
「あぁ、わかった」
そう言葉を交わすと、2人はそれぞれの目的地へと向かった。
早速、なまえは八百屋に向かった。
(えーっと、果物はリンゴとオレンジでいいかな?)
1つずつ手にとって品定めをしながら、店内を歩き回る。
(ドレッシング用の野菜って何がいいんだろう?)
何を選べばいいのか分からなくなった流羽那は、近くにいた店員に問いかける。
『すみません。ドレッシング用に使う野菜ってどれがいいんですかね?』
「そうですね…。セロリやきゅうりならいいと思います」
『ありがとうございます!じゃ、その2つとリンゴとオレンジをいただけますか?』
「はい、毎度ありー」
さて、これで買い出しは無事終了。
後は黒鋼と集合して帰るだけだ。
しかし、なまえは先程買った品物の入った2つの紙袋を抱えている。
この状況で人通りの多い商店街を抜ける事は容易なことではなくて…。
ヨタヨタと歩いているとき、男性グループの1人にぶつかってしまった。
『すみません!』
謝ってその場を早く去ろうとしたが…。
(あ!!)
しまったと思った時には、もう遅かった。
女であるなまえは、あっという間に男性達に囲まれた。
「君、1人で運ぶの大変だそうだから
俺達が手伝ってあげようか?」
優しい言葉を並べているが、男達の目付きはいやらしい。
俗にいうナンパだ。
「いえ、結構です」
きっぱりと断り、再び歩き出そうとする。
しかし、声をかけてきた男に腕を掴まれたことで阻まれた。
『あの…!!』
「ねぇ、君可愛いしさー。そんな荷物置いといて、俺らと遊ぼうよー」
流羽那に顔を近付けて話しかけてくる。
肩に手をかけられ、思わず鳥肌がたつ。
(抵抗したいけど、そうしたら荷物が散らばってしまう)
そんな風に悩んでいたとき、頭上から聞き慣れた声が聞こえた。
「おい、お前ら何やってんだ?」
声のした方を見上げると、鋭い目付きをした黒鋼がいた。
『黒鋼さん!!』
男達がいなくなると、黒鋼はなまえの持っている紙袋のうちの1つをヒョイと取ると、そのまま歩き出した。
なまえはあわてて彼を追いかけると、問いかける。
『どうして黒鋼さんがここに?』
「お前のことだからヘンな奴らに絡まれてるんじゃねーかと思って
来てみたら、案の定絡まれてたしな」
『もしかして…心配してくださったんですか?』
なまえがそう言うと、黒鋼は照れたのか
おもいっきりなまえの頭をガシガシ撫でる。
そして、なまえを置いてスタスタと歩いた。
『あ!髪の毛グシャグシャー。黒鋼さんのバカッ!!』
そう叫んだなまえだったが、その顔には笑顔が浮かんでいた。
(やっぱり黒鋼さんは優しい)
ぶっきらぼうで冷たい印象を与える黒鋼。
しかし、本当は誰よりも仲間の事を見て、心配している。
(さりげなく袋を持ってくれることも、心配して来てくれたことも、
実は私に合わせてゆっくり歩いてくれていることも…。
全部気付いているんですよ、黒鋼さん)
黒鋼の背中を見ながら思っていると、黒鋼が振り返って声をかけてきた。
「おい、早く帰るぞ」
『はーい』
そう一言返事をすると、走って黒鋼の前に立ちふさがる。
『ねぇ、黒鋼さん。お願いがあるんです』
「何だ?」
『手、繋いでくれません…か?
はぐれないように…』
流羽那は控えめに右手を差し出す。
すると、黒鋼は恥ずかしそうに頭をかいた。
(やっぱり無理だよね…)
諦めたように差し出した右手をおろそうとすると、その手は大きな手に包まれた。
なまえが驚いて顔を上げると、少し顔を赤らめている黒鋼がいた。
「家に帰るまでだかんな」
なまえは、そんな彼を見て嬉しそうに微笑むと、
右手をギュッと握り返した。
その手は家に着くまで放される事はなかった。
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