君達の喜ぶ顔が見たくて
「え?臣くんとのデート?」
「そう。…つき合ってるんでしょ、なまえと臣」
真澄くんからの思わぬ問い掛けにポカーンと、マヌケ面を晒してしまった。彼は何て顔をしているんだ、と呆れ顔だが、うん、君のせいだからね?君の問い掛けのせいでマヌケ面になってるんだよ…いや、これも一種の責任転嫁ってやつなのだろうか。まぁ、いいや。どっちでも。
でもどうして急にそんなことを聞いてきたのだろう?何故、臣くんとつき合っていることを知っているのかはツッコまない。万里くんと太一くんにも知られているし、それが学生組の間に知れ渡っていても不思議ではないもの。
「監督とデートする時の、参考にしたい」
「ああ、そういう目論み…うーん、とは言ってもなぁ…」
読んでいた雑誌を閉じ、ソファの背もたれに寄り掛かって天井を仰ぐ。そして今までのデートを思い返してみたものの、そこまで多くないことに気がついた。
それも当たり前のことなのだ、互いにサークルに所属しているし、MANKAIカンパニーの公演もあるからね。そこまで出かける時間を捻出できていないんです。多分、私達はその辺りの時間の作り方が笑えるくらいに下手くそなんだと思う。
だからといって、この生活が嫌になっているわけでもなければ責任を押し付けるつもりもない。だって自分で選んだ道だから。
「つき合う前の方が、一緒に出かけてた気がしないでもない」
「…?普通はつき合ってからの方が、多くなるものじゃないのか?」
「どうなんだろう。比較するものがないから、何とも言えないなぁ」
それこそ人それぞれってやつだと思うしな。うん。
「意外。アンタと臣は、もっと恋人らしいことしてるかと思った」
「あはは。それは思い込みってやつだよ」
「一緒に出かけたいとか、そういうこと思わないの?」
「思わないわけじゃないけど…」
そう、思わないわけじゃない。長年の片思いがすったもんだの末、実を結んだんだからもっと―――臣くんとの時間や思い出を、共有したい。常々思ってはいるけれど、現状を考えるとその欲望を第一に行動するのはどうしても憚られるといいますか。
臣くんは大事だし、できることなら何よりも優先したいと思う。だけど、それを実行に移せるほどの度胸は私にはない。…というかサークルも、大学生活も、MANKAIカンパニーも大事なんだ。私にとって。
「私もアイツもさ、大事なものがそれぞれあるから…自分を優先して!とは言い難いよね」
「ふぅん…そういうもの?」
私は、そういう風に考えてる。臣くんはわからないけれど。
「でも臣とゆっくり過ごしたいのは、本音?」
「そりゃあ……できれば、ね」
よく彼氏と旅行に行ったんだとか、遊園地に行ったんだとか聞く度に、羨ましいという感情がチリチリとお腹の底で燻っていたのは事実なんだよね。そう、嬉しそうに話す彼女達が羨ましかった。私も―――臣くんと出かけたいって、強く思った。まぁ、思っただけでそれをアイツに伝えることはしなかったけれど。
伝えた所でどうにもならないと思っているし、臣くんはきっと無理に時間を作ってしまいそうで…それだけは嫌だったんだよね。無理をさせるのは、本意ではないから。それで倒れたりしたら元も子もないし、私が落ち込む以上に臣くんが気に病んでしまいそう。
そんなことを考えていたら溜息を吐きそうになって、慌てて飲み込む。というか、完全に自分の世界に入り込んでしまっていたぞ…真澄くんをほったらかしにしてしまっていた。顔を上げてごめんね、と口を開きかけたのだけれど、それは音になることはなかった。真澄くんが手を口に当てて、真剣な表情で何か考え込んでいたから。
「真澄くん?どったの?」
「…アンタの気持ちはよくわかった。ありがと」
「え?あ、うん…?」
パッと顔を上げた真澄くんは、お礼を言って談話室を出ていった。
何故にお礼を言われたのか、サッパリなんですけど…誰かわかりやすく解説をしてくださいませんか?本気で。彼からの質問にまともに答えられず、あまつさえ自分の世界に入り込んじゃったんだけどなぁ。考えれば考える程、お礼を言われる理由がわからなくなる。考えるだけ無駄って気がしないでもないぞ。
「デート、かぁ…」
秋組の公演でなければ、少しは時間を作ることができるだろうか。いや、でも臣くんはフライヤーの撮影担当だからなぁ…私なんかの為に時間を割いてもらうのは、やっぱり申し訳ないって思う気持ちの方が強い。
そんなわがままを言ってはダメだ。
(なまえと臣、あんまり出かけたりしてないって)
(ま、そーだろうな。どっちも遠慮しそうだしなぁ…)
(2人共、カンパニーのことを大事に思ってくれてるのは嬉しいんだけど……あ、)
(カントクちゃん?)
(うん、ちょっといいこと思いついた!)
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