恩人からの贈り物

真澄くんに臣くんとどんなデートをしているのか、と聞かれた日からどれくらい経っただろうか。あの日から特に何かが変わったわけでもなく、いつも通りの日々を過ごしている。
朝食を口にしている時にふっとカレンダーが目に入り、もうすぐ3連休があることに気がついた。とはいえ、何も予定はないんだよなぁ。サークルも定期公演を終えたばかり、カンパニーの方も今は脚本の執筆期間中ということもあり忙しくはない。3連休という短い休みでは、短期バイトをするのもアレだし。


「なまえちゃん」
「あ、おはようございます。いづみさん」
「おはよ。ね、ちょっと時間あるかな?」
「はい、大丈夫ですけど…あ、もしかして他劇団のお手伝いですか?」
「ううん、そういうことじゃなくって…」


いづみさんは緩く首を振り、向かいの席に腰を下ろした。何か大変なことになってるのか、と一瞬思ったけれど、いづみさんの声音は沈んでいなかったし、表情も至って普通。しいで言えば、ちょっと眠そうなだけだ。ということはつまり、これからされる話は悪いものではないということだけれど。
それ自体は良かった、と胸をなでおろすが…結局、どんな話をされるのかはわからない。いや、それを今から聞くのだから深く考える必要はないんですが。ひとまず聞こう、うん。紅茶で渇きを潤し、どうしたんですか?と首を傾げて問いかけた。


「カントク、紅茶でいいか?」
「うん、ありがとう臣くん。それでね、臣くんにも聞いてもらいたいんだけど…」
「俺も?」


キッチンでいづみさんの朝食を準備していた臣くんが不思議そうな表情を浮かべ、私と同じように首を傾げた。そんな彼を見ていづみさんはにっこりと笑い、来い来いと手招きする。


「ごめんね、すぐに済むから」
「いや、今日は午後からだから構わないが…」
「実はね―――」


彼女がスッと出してきたモノを、臣くんと私はつつい凝視してしまった。





「ねぇ臣くん、私達が泊まる旅館って外観からしてすごそうなんだけど…」
「どれだ?…うわ、すごいな…」
「うん、私も心の中でうわって言った」


というわけで私達は今、目的地を目指して電車に揺られております。電車というか、新幹線。
何故にそんなことになっているかと言いますと…いづみさんから頂いたとあるチケットが発端だったりする。それは商店街のくじ引きで引き当てた温泉旅館の宿泊チケットでした。せっかくだからいづみさんが行けばいいのに、と思ったけれど、他劇団のお手伝いや次の公演の準備や打ち合わせでまとめて休みをとれそうにないんだって。
それにこのチケットの有効期限が今月中旬にある3連休までときたもんだ。だから余計に行けないし、他の人に譲るにしても期間が短すぎるーってことで臣くんと私に白羽の矢が立ったというわけです。
私は特に予定はなかったけど、臣くんはどうなのかわからなかった。デートしようって約束もしてないし、予定を把握しているわけでもなかったから。もしかしたらサークルが忙しいかもしれないし、何か課題が出ているかもしれない…だから、日帰りならともかく泊まりは難しいんじゃないかなぁって思ってたんだけど、意外にも彼は頷きを返したのである。そして「用事がなければ行ってみないか?」とお誘いを受けました。
嘘だろ、マジかって真顔になったけど、こんな機会は今回を逃すともうないかもしれないって思うと頷く以外の選択肢はなかった。いや、本当に。ここでようやく臣くんも件の3連休には予定がないことを知り、じゃあ…ってことで今に至る。


「まさか天鵞絨町の商店街でこんな豪華な景品が当たるくじ引きをやってるとはな…」
「それは私も意外、というか…初耳。ずーっとこの町に住んでるけど、知らないもんだよね」
「くじ引きの景品なんて、毎年変わるしな。知らなくても仕方ない気がする」
「ああ、それは確かに」


子供の頃はよくくじを引きに行っていたけれど、ここ最近はめっきりだったし。知らない間にくじ引きの景品が豪華になっていたとしても、それは不思議なことではないと思う。景品が豪華な方がお客さんもたくさん来てくれるだろうしね。くじ引きに参加するには引換券が必要だから、やりたいなら商店街で買い物をしなくちゃいけないし。それを考えるといい方法だよね、お客さんを呼び寄せるには。っていう考えは、あんまりしない方がいいのかもしれないけれど。
自分の考えに苦笑を浮かべ、読みかけの雑誌に視線を戻す。3連休の旅行が決まったすぐ後、本屋さんで衝動買いした旅行雑誌だ。何となく立ち読みしていただけだったんだけど、泊まる予定の旅館が載っているのを見つけてしまったらね…買っちゃうよね。それにオススメ観光スポットもたくさん載っていたから、ちょうどいいかなって。


「着いたら何処に行こうか。でも時間的にお昼ご飯かな…あ、わらび餅美味しそう」
「何で昼の話してて、わらび餅に飛ぶかな」
「だってほら、他の和菓子も美味しそうだよ?」
「確かに美味そうだが」


わらび餅、最中、お団子にあんみつ。
見れば見るほど、美味しそうな和菓子達。私達がこれから行く所は和菓子が有名な所だし、全制覇は無理だとしてもいくつかは食べたいなぁ。雑誌を片手にウキウキ考えていると、臣くんが優しく目を細めて頭を撫でてくれた。
ふふ、1泊2日の旅行楽しみで仕方ないなぁ。
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