酒は呑んでも呑まれるな

「ふわ、…」


きちんと睡眠をとっているつもりなのに、それを圧倒的に凌駕する襲撃の数に身体はもう限界を訴えていた。どれだけ眠っても疲れが取れないし、正直歳かなぁとか考えたりもしちゃったり。一度だけ、そう零したことがあったんですけど、すぐに笑い飛ばされてこれだけ襲撃が多かったら当たり前だ、と言われてしまいました。…まぁ、それは一理あるんですよね、真夜中に3回の襲撃が1週間近く続いていたらそうなっても仕方ないのかも。

そんな中、辿り着いた町。そこそこ大きい所で、宿も割と豪華。それも温泉付き、となったら誰しもが目を輝かせるでしょう?私達も例に漏れず、その宿にお世話になることにしたんです。偶然にも部屋が空いていたようですから。疲れきって不機嫌MAXな三蔵様が2〜3日滞在する、と即決したのは言うまでもない。
ゆっくり休めるのは嬉しいんですけど、この町に滞在している間は襲撃がないことを願いたい―――そうでないと、宿を出なければいけなくなってしまうので。

(この疲労の溜まった状態でまた野宿をするのは、御免被りたいですもの)

疲れきった身体を労わるようにグッと伸びをすれば、ゆるゆると強張った身体が緩んでいく気がした。温泉が有名な観光地、と聞いていただけあって、種類がたくさんあって楽しいですね。効能も色々とあるらしく、ひとまず疲労回復の効能があるという乳白色の温泉に浸かっています。…うん、温かくて気持ちいいなぁ。
ああでも、これだけ温かくて気持ちがいいと眠くなってきちゃう。こんな所でうっかり眠ってしまったら、確実にマズイ。今のうちに上がってしまおう。もうすぐ夕食の時間でしょうし。





「あ、なまえこっちです」
「すみません、お待たせしました…わ、豪華な料理ですねぇ」
「これうっめーぞ!」
「オメーは先に食ってんじゃねぇよ!!」
「うるせぇぞ、てめぇら!」


いや、三蔵様も十分うるさいですよ。苦笑しつつも、八戒くんから頂いた熱燗に口をつける。


「ん、これ飲みやすいです」
「あまりクセがないですよね。でも飲みすぎないでくださいよ?疲れている時はお酒、回りやすいですから」
「はぁい、気をつけます」


美味しい料理に舌鼓を打ち、それと共に飲み下すお酒となれば―――自然と杯も進んでしまいますよね。とは言え、お酒にはそこまで弱くない、と自負していたので大丈夫だと思っていたんです。…多分、それが原因だとは思うんですが…料理を食べ終え、部屋に戻ろうかと立ち上がった瞬間。私の視界はぐらりと揺れ、気がつけば真っ暗に染まっていました。





「う、…」
「なまえ?目が覚めたんですね」
「……何で八戒くんの顔が上にあるんです…?」
「はあ…貴方、まだ酔ってますね。顔が赤いです」
「酔ってないですー…」


これはきっと夢だ、八戒くんに膝枕されているなんてそんな都合のいいこと…夢以外であるはずがないですもの。だったら、とことん夢を楽しまなくちゃ損ですよね。そう思い直して、八戒くんの腰辺りにギューッと抱きついてみた。当然、彼は驚いたように声を上げていましたけど夢だもん、実際にしているわけじゃないし―――このくらい、大目に見てください。

まだ熱さの残る頬に八戒くんの手が触れた。ああ、夢なのにいやに感触がハッキリとしているんだなぁ…酔った時特有のふわふわとした感覚もあるし、ずいぶんとリアルだ。でも、…頬に触れる彼の手の感触と温度がとても心地良いです。ずっとこのままでいたいくらいには。


「ほらなまえ、そろそろ部屋に戻りましょう。せっかく温泉に入ったのに、身体が冷えちゃいますよ」
「うー……」
「全く…だから飲みすぎないように、って言ったじゃないですか」
「だって、…美味しかったし、皆さんと一緒で楽しかったから…お酒進んじゃったんですぅ」
「…貴方が酔った所、初めて見ました。こんな風になるんですね」
「だから酔ってないですってばぁー…」
「酔っ払いは総じてそう言うんですよ。立てますか?」


そう言われて起き上がろうとしたけれど、大分酔いが回っているのか上手く力が入らない。再び彼の膝へと舞い戻れば、頭上から無理みたいですね、と苦笑交じりの声が聞こえた。


「んー…はっかいくーん…」

―――むぎゅ、

「わっ…ちょっとなまえ、」
「ふふー、温かいですねぇ、君は」
「温泉に入りましたし、お酒も飲んでますから。…少し我慢してください、持ち上げますよ」


ふわり、ふわふわ。何だかとっても幸せな夢を見てるんだなぁ…。心地良い揺れと温かさに包まれて、私はそのまま瞼を閉じた。


「きっと明日になれば貴方は覚えていないんでしょうけれど、…役得ですよね、これ」



(うー…頭痛い……)
(だから飲みすぎないように、って言ったでしょう?はい、水)
(ありがと〜…)
(……けれどまぁ、可愛らしい貴方が見れたのでいいですけどね)
(え?八戒くん、何か言いましたか?)
(いいえ、何でもないですよ。なまえ)
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