独占欲くらいありますよ

その話題はとても唐突に始まった。


「青峰くんとキスしたって本当ですか?」


とある日のお昼休みにテツの口からポロッと零れ落ちた言葉。突然すぎる出来事に私は当然の如く動きを停止し、その光景を見てしまっていた火神くんは飲んでいたジュースを勢い良く吹き出した。近くに誰もいなくて本当に良かった…!
でもあれは火神くんと青峰本人しか知りえないことのはずなのに、どうしてその場にいなかったテツが知っているのだろうか。さっきの火神くんのリアクションを見る限り、彼が話したってことはなさそうね。…というか、話す理由もないだろうし。
どう答えればいいのかわからなくてしどろもどろしていると、「予選決勝の日、青峰くんに言われたんです」とまた小さな声で一言。思わず持っていた箸を折りそうになったのは言うまでもない。
何でそんな余計なこと話してるのよあのバカ…!!!ただでさえ好きじゃないのに、どんどんアイツの株が下がっていくわね。まぁ、それはどうでもいいことなんだけれど。


「あ、あのよ黒子!あれはみょうじの意思じゃなくてフカコーリョクっつーか、その、」
「火神くんは黙っていてください。」
「……ハイ」


ギロリ、と睨まれた火神くんは大きな体を小さくして残りのパンに噛り付いていた。そうね、…今の表情はとても怖かったわね。私だって震え上がってしまいそうだもの。
ああ、でもどうしよう。どう説明するべきなのかしら。付き合う前のこととはいえ、テツは前から私のことを好きだと言ってくれたし…きっと青峰に言われた時、悔しいとか思ってしまったのでしょうね。
どんなに考えても上手い言葉が見つからない。ようやく出てきた言葉は「外、行きましょう」だった。





屋上へと繋がる扉を開けると、そこには真っ青な空が広がっていた。もっと生徒がいるものだと思っていたけれど、もうすぐ昼休みが終わるからか私達以外の姿は何処にも見えなかった(私達はサボリ、です)。でもその方が好都合かもしれないわね。
フェンスに体を預けてそっと息を吐く。青峰が落としてくれた爆弾はひどい威力を持っていて、何も言葉が浮かんでこない。まず謝罪を、と思ったのだけれど…今謝るのは逆効果かしら?横顔を盗み見る限り、かなりご立腹だものね。


「あ、あのねテツ…!」
「わかってるんです」
「え?」
「ちゃんとわかってるんですよ、火神くんの言う通り、そこになまえの意思はなかったことくらい。青峰くんが、無理矢理したことだって」


それに付き合う前のことをとやかく言う資格はありませんが、それでも嫌だったんです。
ポツリ、ポツリ、と気持ちを吐露してくれたテツの顔にはさっきまでとは正反対の、悲しげな笑みが浮かんでいて胸の奥がぎゅうっと締め付けられるように痛んだのです。
ごめんね、と言うのは簡単だ。だけどきっと、テツが望んでるのは謝罪じゃない…何となくでしかないけど、勘でしかないけど、でもそんな気がする。だからと言って、何をしたらいいのかわかりはしないんだけれど。
でもテツに触れたい、って思って手を伸ばそうとしたら、逆にその手を掴まれて引っ張られてしまった。バランスを崩した私達はそのまま固いコンクリートの上へとダイブ。背中を強かに打ってしまったのではないか、と心配になったのだけれど…どうやら上手く受け身を取っていたようで痛がる様子は見られない。それどころか抱き込んだ私のことを更にぎゅうぎゅうと強く抱きしめてくる始末。
今日のテツは突然すぎる行動が多くて、色んな意味で心臓が止まってしまいそうだわ…!


「ねぇ、なまえ。僕はキミが好きだ…いつだって、誰にも渡したくない。できることなら、」

この腕の中にずっと閉じ込めてしまいたいくらい。

「ッ、」
「ふふ。さすがにそれは冗談ですけど…僕だって嫉妬くらい、するんですよ?」


さらりと髪に、頬に優しく触れる手はとても心地が良い。うっとりと目を閉じてしまうくらいに。
そうしてどのくらいの時間が経っただろう。不意に「なまえ」と名前を呼ばれて目を開けば、ちゅっと柔らかい何かが触れた。それがテツの唇だと気が付くまでそう長くはかからなかったけれど、気が付いてしまえば体温が急上昇するのは明らかで。思わず離れようとすれば、再び腕を引っ張られてテツの元へと逆戻り。
近い距離でじっと見つめられると、さすがの私でも恥ずかしい…!どうしたらいいのかわからなくて、目を逸らそうとすればダメです、と言わんばかりに彼の両手が私の顔を固定してしまうの。これ以上見つめ合ったら私、どうにかなってしまいそう。
恥ずかしさも頂点に達しそうでいい加減離して、と言いかけた時。もう一度、唇が重なった。ちゅ、ちゅ、とリップ音をさせているのはきっと、わざとだ…!知らなかったけれど、この子、意外と意地悪なのかもしれない。


「は、…テツ……!」
「…すみません。少し意地悪が過ぎましたね」
「本当よ、貴方がこんなに意地悪する子だったなんて知らなかったわ」
「赤くなるキミの顔が可愛くて、つい」


続きはまた今度、と微笑んだ貴方は―――最高に意地悪だと思う。
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