幸せになってほしい人

学校も塾もない休日。
雪男に小言を言われながら渋々、課題と睨めっこをしていた時、珍しい奴からメールがきた。

side:燐

メールの返信をしてから10分。予定通り、なまえが旧男子寮へと単身やって来たわけなんだけど。
そう。さっきメールをしてきたのは何を隠そう、今、目の前にいるなまえだったりする。予想もしていなかった人物が訪ねてきたことで、雪男もびっくりした顔してんなー。まぁ、それもそうだよな?京都組や塾生皆で来たことはあるけど、コイツのみで来たことって一度もなかったはずだし。
何の用があるのかわかんねぇけど、とりあえず食堂に移動して飲み物でも出すか。


「ほいなまえ。ココアでいいか?」
「大丈夫、おおきに」
「それにしてもなまえさん1人で此処に来るなんて珍しいね。どうしたの?」
「あー…うん、ちょお燐くんにお願いしたいことがあんねん」
「兄さんに?」
「俺に?」


2人で首を傾げれば、「やっぱり双子やね」と穏やかな笑みを浮かべてる。うん、その笑顔見てると何か和むけど、…お願いがあってきたんじゃねぇの?
そう伝えるとそうだった、って顔で本題に移ることになった。…なまえってしっかりしてるように見えるのに、時々、すげー抜けてるよなぁ。何つーか、勝呂達が目ェ離せないのわかったような気がする。


「あんな、お菓子の作り方…教えてほしいんよ」
「へ?お菓子?」
「ほら、燐くん料理するの好きや、って言うてたやろ?せやから、お菓子も作れんのちゃうかなぁって…」
「まぁ、作れねぇこともねぇけど…んな凝ったもんは作れねぇぞ?」
「大丈夫!作りたいのパウンドケーキやから」


パウンドケーキか…うん、それなら前に作ったことあるし、何とか教えられっかな。でもなまえだって料理出来ないはずじゃねぇはずだけどな。ウチでメシ作った時、コイツも手伝ってくれてた記憶あるし。
ま、それはいいか。材料はなまえが買ってきてるらしいから、ちゃっちゃかと取り掛かっちまうかなー。
買ってきた、という材料を見せてもらえば、ケーキの中にいれるつもりだったであろうドライフルーツが目に入った。あとココアパウダー。一緒にすると絶対マズイものになるだろうから、どうせなら2種類作ってみるか。
チラリ、と時計を見てみれば、今の時刻は14時。2種類作っても17時過ぎには片づけに取り掛かれるはずだし、…よし、問題ねぇだろ!エプロンを2人分引っ張り出してきて、片方はなまえに渡す。雪男も手伝おうとしてくれたけど、料理があんまり得意じゃないこと知ってるからやんわりと断ってみた。すんなり納得してくれて助かった。

いざ教えてみると、やっぱりなまえは手際が良くて別に俺が一緒じゃなくても作れたんじゃね?って思うくらいだった。典型的な失敗もしないし、変なものいれようともしないし。
実際、オーブンから香るのはすっげー美味そうで、甘い香りだしな。初めて作ったにしてはかなり上出来なんじゃねぇの?香りから察するに。


「良い匂いだね」
「だなー。そろそろ焼き上がると思うぜ」
「あ、ほんまや。できた!」


オーブンから取り出したら、しばらく放置!切るのは粗熱をとってからの方がいいからな。
焼き色はめっちゃ綺麗だし、これは本当に上手くいったんじゃねーかな?まぁ、実際に切ってみないと仲がどうなってるのかまではわかんねぇけど…それでも見た目は綺麗に出来てっから、なまえも嬉しそうにしてる。
…そういや、全く気にしてなかったけどこれ、誰かにあげんのかな?自分で食べる為だとしたら手が込み過ぎてる気がすんだよな。絶対に店で買ってきた方が早いし、安いことだってある。わざわざ誰かに教えを乞うこともねぇし。
それをせずに俺の所へ来た、ってことは―――誰かにあげる為に、手作りしたって可能性の方が高い気がするのは俺の考えすぎか?
本人に聞いてみれば一発でわかることなんだろうけど、…何だろ、聞いちゃいけねぇとも思う。何でそう思うのかはわかんねぇけど、何つーか、勘?的な?

ボケッと考えてたらどうやら粗熱がとれたらしく、なまえが鼻歌まじりにパウンドケーキにナイフをいれている最中だった。味見して、と渡された切れ端を口に含めばドライフルーツの甘みもちょうど良くて美味い。ん、これは文句なしに大成功だなー。
雪男と共に美味い、と教えてやれば、嬉しそうに笑ったのが印象的。コイツの笑顔って可愛いし、ホッとするし、何でかわかんねぇけど和むんだ。


「なまえさんって料理上手なんだね。兄さんに教わらなくても出来たんじゃない?」
「そうでもあらへん。簡単なものは作れるけど、燐くんみたいな料理は作れへんもん〜教えてもろて助かったわ」
「へへっこのくらい全然いーっての!」
「あ、そうだ。なまえさん、せっかくだし夕飯一緒に食べない?」
「へ?でも、」
「それいーな!実はメフィストにさ、ファミレスのクーポン券もらったんだ。なまえも一緒に行こうぜ」


本当は勝呂達やしえみ達も呼びたいけど、生憎、チケットは3枚しかない。1枚余っちまうのどうするかーって話してたとこだったし、ちょうどいいや。
それでも渋るなまえを引っ張って旧男子寮を出れば、少し困ったような顔で「しゃあないなぁ」って笑ってくれた。
ああ、やっぱりなまえは笑ってる顔が一番似合う。泣いてるのより、怒ってるのより、何よりも笑ってる顔が…一番、コイツらしいと思うんだ。
なまえが大事に思ってるのは勝呂だから、俺に、俺達に何ができるのかはわかんねぇけど…それでもずっと、笑っていてほしいって思ってるのは本当で。いつか遠くない未来で、「幸せだ」って笑ってくれたら、嬉しいって思ってる。ガラじゃねーけどなっ!
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