儚き散るらん恋の華

好きだ、と告げられたらどんなに楽だろう。
何もかもを投げ捨てて、キミのその腕の中へ飛び込むことが出来たのなら…どんなに幸せだろうか。
笑う顔も、怒った顔も、呆れた顔も、低いその声も、ごつごつした手も、何もかも僕だけのものにしたい、と素直に告げたら、キミはどうするのだろう?





「なまえちゃん!」
「姫さん?どうしたのーご機嫌だね」
「あのね、街でこれ見つけたの!」


嬉しそうに姫さんが見せてくれたのは、はなび、というもの。それもたっくさん入っているもので、何本入ってるのかもわからない。
はなび、はなび…なぁんか前に聞いたことあるような気がするんだよなぁ。何だったっけ?てか、いつ誰に聞いたんだっけ?


「あれ、なまえさんも初めて見るんですか?」
「小狼くん。うん、見るのは初めて。でも前にどんなものか聞いたことがあるような気がするんだけど…」
「それだったらきっと黒鋼さんですよ。ほら、前にお祭りの最後に打ち上げることがあるって話してくれたことあったじゃないですか」


そうだ、そうだ!小狼くんのおかげで思い出したー!そう、黒鋼くんが教えてくれたんだよね夏のフーブツシってやつなんだ、って。色んな色の火薬が空に打ち上げられて、花のようにパッと咲いて散っていくものなんだって。
…ん?でも姫さんが持ってるのはどう見ても手持ちのもの、よね?打ち上げるものじゃなさそうに見えるんだけど…それともそう見えるだけで、実際に火をつけてみたら打ち上げられるのかな。すごく危険な気がするんだけど。
パッケージを見ながらむぅ、と考え込んでたら、後ろから「そりゃあ手持ち花火だ」と低い声が聞こえた。


「手持ち?」
「おう。前に話したのは打ち上げ花火で、姫が持ってんのは手持ち…名の通り、手に持ってする花火のことだ」
「花火って色んな種類があるんだねぇ。せっかくサクラちゃんが買ってきてくれたんだし、夕ご飯食べ終わったらやってみよっかぁ」
「あっ賛成!どんなものか見てみたいもん」
「おれも見てみたいです」
「わたしも!わぁ、楽しみだなぁ…ねっ小狼くん、なまえちゃん!」
「そうですね」
「ふふ、うん!」





夕飯を食べて一息ついた頃。外も大分暗くなっていて、黒鋼くん曰く花火をやるにはもってこいの暗さだそうな。それを聞いた僕と姫さんとモコは真っ先に外へと飛び出していく。慌てて追いかけてくるのは小狼くん。笑いながらゆっくり追いかけてくるのがファイくんで、呆れた顔をしているのが黒鋼くん。
それが、いつもの僕達の光景だ。いつまでも、変わってほしくないと願う程に幸せで温かいもの。しんみりとそんなことを考えていたら、目の前に差し出された1本の花火。それを差し出してきたのは、他の誰でもない黒鋼くんだ。…本当に、キミはいつだって僕のことを見つけちゃうんだよねぇ。嬉しいと感じつつも、これ以上、歩み寄ってこないでとも思ってしまう辺り、矛盾しているなぁと思う。


「ありがと」
「火ぃつけっから出せ」
「はーい」


先端に火をつければ勢い良く火花が飛び出した。初めて見る花火はとても綺麗で、何も言葉にすることが出来ずにただただ、見惚れているだけ。
話には聞いてたけど、本当に色とりどりなんだなぁ…火が消えるまで同じ色のものもあるし、徐々に色が変わっていくものもある。それこそ七色に変わっていくやつもあって、僕はそれが一番綺麗でお気に入り。
手持ちでこれだけ綺麗なんだから、きっと打ち上げ花火っていうやつもこれ以上に綺麗なんだろうなぁ。何処かの国でいつか見ること、出来るかな?見れたらいいな、贅沢を言うなれば皆と一緒に。


「綺麗だねぇ…」
「―――昔、花火には鎮魂の意味があると聞いたことがある」
「鎮魂、…」
「死者の霊を供養する、それが元の由来だっつー話だ。真偽の程は知らねぇが…まぁ、打ち上げられる時期を考えてみりゃあ納得もいく」
「そうなんだ。…けど、僕には花火が人の魂そのものに思えるなぁ」


ボソリ、と呟けば、ひどくひっくい声で「あ?」と聞き返された。うん、自分でも何言ってんだろって自覚あったけど、さすがに怖すぎるよ黒鋼くん…そんなに眉間にシワ寄せないでってば。
それなりの時間を過ごしているから大分慣れてはきてるけど、まだまだ怖いって思っちゃう時もあるんだから。まぁ、それを素直に告げたら今度こそ殴られてしまいそうなので心の内に留めておきますけれども。

花火は花のように咲いて散っていく。前に彼はそう教えてくれたけど、その儚さはどっちかと言うと人の魂―――命に似ているような気がするんだ。
こう言っては何だけれど、人の命はいつか散り行くものだ。パッと咲いて、あっという間に散って行ってしまう…それが人の命だと、僕は思ってる。だから、花火に似てるなぁって思ったんだ。


「儚くて、寂しいけど、でも…その一瞬の輝きの為に一生懸命に生きてると思うのね?だから人間ってキラキラ輝いてるんじゃないのかなぁ、って」


そう。いつか散り行くとわかっているからこそ、一日一日を大切にしなくちゃとか、好きな人・大切な人に優しくしようって思うんだと思うの。終わりを迎えるその時に、少しでも後悔しないように。幸せな一生でした、と笑顔で誰かに誇れるように。
…ふふ。死ぬことばかりを、殺してもらうことばかりを考えている僕が、まっさかこんなことを考えられるようになるなんてね。本当に人生って何が起きるのかわからないや。皆に、黒鋼くんに出会うことがなかったらきっと…僕はずっと後ろ向きなままだった。いや、今だって完全に前向きです!とは言えないけども。
言えないけど、…それでも皆と一緒に生きていきたいと、思えるようになった。もっと色んな世界を見て、色んなことをしたいって、そう思えるようになったの。

火が消えた花火を水の入ったバケツに突っ込んで立ち上がれば、ずっと黙り込んでいた黒鋼くんが驚いたような表情で僕を見上げていることに気が付いた。何つー顔をしてんだろ、この人は。
一体、何に驚いてるのか聞いてみれば「お前がそんなこと言い出すとは思わなかった」と、心底びっくりしたって感じの声音で紡がれた言葉。うん、まぁごもっともだよねー黒鋼くんには色々話しちゃってたし。肝心な部分は話していなくとも、今の所、僕の願いや本心を知っているのはこの人だけだから。
さて、新しい花火をもらってこようかなー。


「初っ端は気に食わなかったが、」
「うん?」
「今のお前は―――割と好みだ」
「っ?!」
「そのまま前向いて笑ってろ」


新しいのもらってきてやる、と素知らぬ顔で去って行った彼。本当にもう、こういう不意打ちは反則だってば。あんな、…愛おしい者を見るような瞳で柔らかい笑みを浮かべて頭撫でてくとか…期待、しちゃうんだよバカ。


「…すき、」


そっと呟いた言葉は、闇に溶けて消えていった。
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