Love,only

辿り着いた町は、何だか賑やかだった。至る所に飾りつけがされていて、町の中心にあるという大きな広場にはたくさんの屋台が設置されている。
どうやら今日から3日間、町をあげてのお祭りが開かれるらしいんです。夜は酒場と宿屋以外の店は全てお休みになり、各々お祭りを楽しむんだそうですよ?中にはお店は休みでも、広場で屋台を出してる方もいらっしゃるそうですが、…それも楽しいから苦にはならないんだ、と話をしてくれた方が楽しそうに仰っていました。
お祭りがあると聞いて、楽しいこと大好きな悟空が黙っていられるわけもなく―――無事に宿を確保していた私達は、休憩してからそのお祭りに行くことにしました。





「あれ?八戒くんだけですか?」


夕方にロビーに集合、と聞いていたのだけれど、その時間に行ってみればいたのは八戒くんだけでした。三蔵様はともかく、楽しみにしていた悟空すら来ていないなんてちょっと意外かもしれません。どうしたんでしょう。
準備に手間取ってるのかな、と考えていると、3人は先にお祭りに行ったんですよって困った笑顔を浮かべた八戒くんが言った。先に、って…別に私が遅かったわけじゃありませんよね?!ちゃんと言われた時間きっかりのはずですし…もしかしてこの陽気な音楽を聞いて我慢できなくなっちゃったのかな。悟空ならそれも有り得そうですし。

…それはともかく。チラッと目の前に立っている八戒くんを見上げると、シックな色合いの浴衣を着ていてですね?あの、何と言いますか―――めちゃくちゃ素敵なんですけど…!
ラフな服装や、普段の服装も好きですけど、浴衣もいいかもしれません。着ている所を初めて見たから、余計にそう思うのかもしれませんけど。というか、八戒くんって本当にどんな服でも着こなしてしまうイメージがありますよね。


「なまえも浴衣を借りたんですね」
「着たことがなかったので、興味がありまして…どの柄も可愛くて悩んじゃいました」
「似合ってます。可愛いですよ」
「ッ!……その言い方、ズルイです」
「ええ?本心を言ったまでですよ。さて、僕達も行きましょうか」


一足先に人混みに紛れてしまっているあの3人を見つけ出すことは、きっとできないだろうということで、私達は私達で楽しむことになりました。
宿を出ると、もうすでにお祭りの雰囲気満載で(出る前から感じてはいましたが)、これは悟空でなくともワクワクしてくるのは仕方ないかもしれません。八戒くん曰く、私もその分類に入るようで…お祭りに行くと終始楽しそうに笑ってますよね、と前に言われたことがあります。
思い返してみれば長安にいた時も、不可思議な町にいた時も、お祭りと聞くだけで胸が躍った記憶がありますねぇ。最初はただの興味本位だったんだと思うんですけど、家族と暮らしていた頃はお祭りなんて経験したことありませんでしたし。だけど、長安のお祭りを見てからは楽しくて、…また行けたらいいなぁ、と。その時に隣に八戒くんがいてくれたらいいな、と思っていたんですよ。
カラン、と下駄を鳴らしながらもう一度、そっと八戒くんを視界に映す。彼は今も、私の隣にいて一緒にお祭りを楽しんでくれている―――と、思う。皆さんと一緒に回るのももちろん楽しいのだけれど、彼と2人で回ることができるのは…それ以上に楽しくて嬉しいのは、内緒にしておかなくちゃ。


「あ、見て見て八戒くん!お祭りの最後には花火があがるそうですよ!」
「本当だ。…ふふ、初めて長安のお祭りに行った時のことを思い出しますね」
「そういえば、あの時も綺麗な花火があがっていました」
「せっかくですから見ていきましょうか」
「えっいいんですか?!」
「もちろん。だって貴方、そういうの好きでしょう?」


コクリ、と頷きを返せば、だったら尚更見ていきましょう、と笑うのは…やっぱりズルイ。
私が貴方のその笑顔に弱いのを知っていて、わざとやってます?―――なーんて、そんなの知っているはずがないんですけどね。気持ちは隠し通しているつもりだし、八戒くんにそんなことを一言も言ったことがないんですから。だから、…いくら他人の気持ちに聡いこの方でも、知っているはずがない。そう思うんです。


「何か、…デート、してるみたい」
「え?」
「あっ…いや、あの、その…!い、今のは忘れてください…!」


心の中で呟いたつもりだった。それなのに思いっきり口に出していたなんて…!こんなの恥ずかしすぎるし、下手すると好きだって言っているようなものじゃないですか!!ああもう、私のバカ…!
熱くなった頬を両手で押さえて俯いていると、頭上から笑う気配。それが気になって、赤くなっているであろう頬をそのままに視線を上げれば―――…目を細め、穏やかな笑みを浮かべながらこっちを見下ろしている八戒くんの姿。


「僕は最初から、そう思っていましたけど?」
「ッ、」
「貴方と2人きりなんてそうありませんから、楽しみましょう。…ね?」
「やっぱり貴方は、」


―――ズルイです。
零れ落ちた言葉は風に攫われ、そのまま闇に溶けた。
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