アイドル少女の過ごし方
この世の中は摩訶不思議。だから何が起きても動じない心を育てろ、と言っていたのは誰だったか…今となっては全く思い出せはしないけれど。
でもそれは本当にしておいた方がいいと思うよ、いつ何時どんなことが起きるのかなんて誰にもわかりやしないんだから。
side:捲簾
「……」
「……」
俺の目の前には今、なまえによく似たガキがいる。年齢は恐らく5歳くらいか?悟空よりも遥かに小さな体をしたそいつは、くりくりした目でじーっと俺を見上げているんだが…誰の子供だ?コイツ。
つーか此処、天蓬の部屋で間違いねぇんだよな?ってことは、アイツの子供?!んでなまえによく似てるっつーことは、なまえと天蓬の子供―――ってことになるんだよな…?
(いやいやいやいや…!落ち着け俺!!あいつらはまだデキてねぇはずだ、なのに子供なんざいるわけねぇだろ)
自分の推測に思わず頭を抱えたくなる。…ひとまず、コイツの名前でも聞き出すか。
振り返ってしゃがみ込めば、そいつは嬉しそうに笑ってたどたどしい言葉で捲簾、と俺の名を呼んだ。
「……は?」
「けんれん!わたしだよ!」
「わたし、…って、お前まさかなまえか?!」
嘘だろ?!と叫べば、目の前にいる小さいなまえはだいせいかーい!と笑ってる。え、嘘でも夢でもねぇの?どういうことだ…?
―――ガチャッ
「おや、来ていたんですか。捲簾」
「天蓬!これはどーいうこった!!」
「ああ…紛うことなきなまえ本人ですよ?」
「そうじゃなくって…っ!」
「おかえり、てんぽー」
「はい、ただいま。いい子にしてました?」
おい、天蓬。姿は子供でも中身はなまえのままなんじゃねぇのか?んなガキ扱いすんなよ…。にしても、コイツ本当になまえなんだな。何がどうなってこうなっちまったのかは、全然わからねぇけど、子供ん時はこんなだったんだな。
天蓬と話している彼女を抱き上げてみれば、一瞬だけ驚いたみてぇだけど、すぐに楽しそうな声を上げた。うん、前言撤回。これならガキ扱いしても問題なさそうだわ。
そのまま肩車をしてやれば、高い!って嬉しそうにしてる。今は子供の姿になってっから余計にそう感じるんだろうな。元々、なまえは身長高い方じゃねぇけど。
喜んでる彼女をそのままに、天蓬にどうなってるのか再度問い質す。けど、天蓬も朝会ったらもう子供の姿になっていたらしく、原因がわからないらしい。文献を漁ったり、観世音菩薩に話を聞きに行ったらしいが、やっぱり何も情報がなかったんだと。
「ちゃんと戻るんだろうな?コイツ」
「さあ…それも何とも言えませんよ。原因がわからないんですから」
「しばらくはこのままでもいいかな〜…いがいとたのしいよ?」
「バカ言ってんじゃねぇっつーの。出動要請きたら困んだろ」
「なまえはウチの隊の要ですからねぇ」
「わーい!うれしい〜」
でかいコイツもよく笑う方だったが、子供になったコイツはそれ以上によく笑うと思う。感情を素直に表に出してるっつーか…俺が知っているなまえより何倍も無邪気だ。記憶はあるし、中身まで子供になっちまってるっつーわけじゃないんだが、幾分幼く感じるんだよなぁ。
若干だが子供に戻ってる部分もあるのかね?肩の上できゃいきゃいしているなまえに視線を向け、そんなことを思った。
(―――ああ、でも…)
もしコイツが天界軍に入っていなけりゃ。もし観世音菩薩の姪という立ち位置に生まれていなければ。この素直さも、純粋さも失われずに済んだのかもしれねぇな、と柄にもなく思う時がある。
俺が知っているなまえだって十分に素直だと思うし、純粋だとは思う。思う―――が、生まれ落ちた家系のせいか、生まれ育った環境のせいか…同い年の女達より、達観している部分がある。冷めてると言ってもいいくらいだ。笑っていてもどこか遠くを見ているような…そんなイメージを持っている。
けれど、今はそんな影を見せることなく屈託ない笑みを浮かべていて。それを嬉しいと思ってしまうのは、コイツのことを可愛がっている証拠なんだろう。出会った頃から大将、と慕ってくれるなまえのことは、本当の妹のように思っているわけで。コイツがずっと笑ってくれりゃあいい、と思うくらいには、好きなんだぜ?お前のこと。
素直に伝えんのは悔しいから、一生教えてなんかやんねぇけどな。
「なまえ、せっかくですから金蝉の所に遊びに行きます?」
「ほんと?!いくっ!」
「ああ、あっちには悟空もいるし…退屈しねぇだろ」
「けんれん、このままこんぜんにいさまのとこまでつれてって」
「いいぜ。その代わり、しっかり掴まってろよー」
お前にはやっぱり、笑顔が似合う。
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