02
side:金蝉
天蓬達がこっちに来るのは、割と日常茶飯事だし、逆に悟空があっちに行くことも多い。…だが、今までに悟空より小さいガキを此処で見たことはなかったぞ。
「……おい。そのなまえにそっくりなガキは誰だ」
「ほんとだ!なまえ姉ちゃんにそっくり!!」
「えー…金蝉、悟空。驚かないで聞いてくださいね?」
この子、なまえ本人なんです。
へらっとした笑顔を浮かべて、そう言い放ったのは天蓬。本気でコイツは何を言っているんだ、と頭を抱えたくなったが、ガキが俺のことを「金蝉兄様」と呼ぶから信じる他なくなった。…いや、いまだに半信半疑ではあるが。
しかし話してみれば、ますますなまえ本人だと信じるしかない事実がぽんぽんと出てくる。俺達が小さい頃のことや、なまえが天界軍に入ると事後報告してきたこと、そして俺達の世話役だった奴のこと―――絶対に天蓬と捲簾は知らない事実を、目の前で笑っているガキは次々と口にした。それはつまり、本当にコイツがなまえだということ。
「にいさま、しんじてくれました?」
「どうやら嘘は言っていないらしいな…何が起きた?」
「わたしにもわかんないんですよ。おきたらこれだったから」
「色々調べてみたんですけど、原因はさっぱりです」
はあ…まーた面倒事に巻き込まれてんじゃねぇだろうな?変なもの食ったとか飲んだとか、誰かに術をかけられたとか…思いつくままに口に出してみるが、どれも心当たりがないらしい。
昨日はいつも通り書類整理をして、食堂でメシを食って寝た。だからわからない、だと。こういう現象には何かしら原因があるもんなんだが、…本人に心当たりがねぇんじゃ、どうしようもねぇな。
しかし、なまえ自身は楽観的に考えているらしく天蓬達に「楽しいからしばらくこのままでもいい」と言ったそうだ。
全く、コイツは自分自身にだけは危機感というものを抱かないんだよな。昔から。そのことに何度頭を悩まされたことか。まぁ、さすがに慣れたがな。
溜息を1つ吐いて、悟空と遊んでいるなまえの姿を視界に映す。屈託なく笑う顔とか、たどたどしい喋り方とか、…否が応でも幼い時を思い出す。
(そうだ―――昔のアイツは、もう少し子供らしかった)
俺も大概子供らしくない、と言われていたが、なまえも成長するにつれて子供らしさを失っているように見えた。悟空ぐらいの歳の時にはもう、大人と大差ない考え方や目をしていた気がする。それを、…淋しいと感じたこともあったか。もっと自由に考えて、動いて、素直に笑っていろと何度思ったか知れねぇな。
「なまえ姉ちゃんっあとで一緒に探検しようぜ!」
「たんけんって…わたし、ここにはくわしいんだけど…」
「でも木の実がたくさんなってる木とかは知らないだろ?」
「えっそんなとこがあるの?いきたい!」
「へっへー!んじゃ、あとで一緒に行こ!」
「うんっ」
…アイツは、あのくらいの歳の時。ほとんど友達がいなかった。
本来、人懐っこい性格をしているはずなのに俺や世話役の蘇芳以外に懐こうとしなかったんだよな。何か原因があったように思うのに、それを思い出すことができずにいる。
「…懐かしいですか?なまえのあの姿」
「そりゃそうだろう。何年前のことだと思ってる」
「あはは、ですよねぇ。あの子は昔から可愛かったんですね」
書類に判を押す手を休め、デスクに寄り掛かるように座っている天蓬に視線を向ける。遊んでいるなまえを見つめるその瞳は―――見たことのないくらいに優しく、甘かった。
それを見りゃあいくら俺でもわかる、この男が我が妹にどんな想いを抱いているのかなんて。思わずつきそうになる溜息を飲み込んで、書類に視線を戻した。
「―――まだ、やらねぇぞ」
「おや。じゃあいつかくれるんですか?」
「…そんなのはなまえ次第だ」
まだ俺に甘えていてほしい。…そんなこと、本人には言わねぇけどな。
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