とある日の夕暮れ

小狼は楽しそうに笑うけど、でも時々、どこか淋しそうな笑顔を浮かべる。
ファイは笑ってるけど、いつでも違うことを考えててちゃんと笑ってない。
黒鋼は怒の感情は素直に出てるけど、どこか空っぽで、どこか淋しそうに見えるの。
なまえはいつだって笑ってるのに、ファイと一緒で笑顔の仮面を被ってるような気がする。
…サクラは陽だまりみたいにポカポカで、いつだって温かい。そんな温かい感じが、皆も増えていったらいいのにっていつも思ってたの。


 side:モコナ


「ねぇ、なまえちゃん。これでいいのかな?」
「うん?ああ、大丈夫だよ。そしたらこの調味料入れて、また混ぜてくれる?」
「わかった!」


キッチンではサクラとなまえが、楽しそうに何か作ってる。その横で小狼がオーブンの中の様子を窺ってて、こっちのテーブルの上ではファイと黒鋼が喧嘩しながら野菜を切ってるの。
今日の夕食は皆で作りたい、って言い出したのは、確かサクラだったと思う。いつもファイとなまえに作ってもらってて申し訳ないから、だから2人の負担を減らしてあげたいんだって言ってたんだ。ファイ達は別にいいのに、って笑ってたけど、サクラにどうしてもって頼まれたら断りきれなかったみたい。

でもね、皆すっごく楽しそうなの!ファイもなまえも、いつもみたいな上辺だけの笑顔じゃないし、すっごくいい笑顔してるの!モコナは皆が楽しそうにしてるのが好き、痛い顔とか辛い顔とか悲しい顔とか…あんまり見たくない。モコナも悲しくなっちゃうから。
生きてれば大変なことはたくさんあるし、楽しいことばっかりじゃないって侑子は言ってたけど、それでもせっかく皆で旅してるんだもん。たくさんたくさん、楽しい思い出を増やしたいって思うんだよ。淋しい人はわかるから、だからもっと笑ってほしいなぁっていつもね、モコナ思うの。


「なまえ、なまえ!モコナもお手伝いしたい!」
「あら、ありがと。なら、これ食べてみてー」

―――パクッ

「おーいしーい!」
「ふふっそれは良かった、じゃあ味付けはバッチリかな。黒鋼くーん、野菜切れた?」
「なんっで俺まで手伝わされてんだよ…!おらよ」
「姫さんのお願いだよ?聞いてあげなきゃダメでしょー」
「…で、次は何をすりゃあいいんだ」
「大きなお皿を3枚出してもらえる?」


黒鋼となまえは、最初あんまりそりが合わなかったみたいだけど、今はすっごく仲良し。時々、ぶつかることもあるけど、でも喧嘩にはならないの。2人共、お互いのことを見てる時とか話してる時って優しい顔をしてるの気がついてるのかな?
モコナの勘だけど、絶対にあの2人はラブラブだと思う!小狼とサクラもそうだと思うんだけど、黒鋼と緋月もそうだと思うの。だって、いつだってお互いを見てて心配してるから。

…なまえはね、最初の頃もっと壁があったの。モコナ達との間に一線を引いて、必要以上には近づこうとしなかったし、近づけさせようって感じもなかった。でも、でもね?今はそんなことなくって、少しずつ歩み寄ろうとしてくれてるのがわかるの!


「なまえさん、生地が焼けました。次はどうしたらいいですか?」
「おっ綺麗に焼けたねぇ。そしたらね、このトマトソースを塗って…」
「黒りーん、これって運んでいいのかなぁ?」
「俺に聞くな!なまえに聞け!!」
「あ、多分運んで大丈夫です。なまえちゃん、完成したって言ってましたから」
「サクラちゃんありがとー!…そうだ、黒りん、オレ達お酒選びに行こうよ〜」
「は?1人で行きゃあいいだろ」
「一番飲むの君なんだから、運ぶの手伝ってもらわないと困るんだけどなぁオレ」
「〜〜〜さっさと行くぞ!」


そうこなくっちゃ〜、と嬉しそうな顔で黒鋼の後を追っていったファイ。ファイもちょっとずつ皆に歩み寄っていっているような気がする。こうやって少しずつ変わっていって、旅が終わる頃にはもっともっと温かいものが増えていたらいいのにな。
部屋の中に漂う美味しそうな匂いと、温かい空気と、それから楽しそうに笑う皆の顔を感じながら小狼の頭の上に飛び乗った。


「モコちゃん、もう少しでできるから待っててね」
「お腹空いたでしょ?これができたら完成だから、一緒に食べよ」
「できた!モコナ、こっちをテーブルまで運べるか?」
「もっちろん!美味しそうだね!!」


小狼がいて、サクラがいて、ファイがいて、黒鋼がいて、なまえがいる。この空間がモコナは大好きです。
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