隣のデスクの黒鋼さん

■現パロ


要領は悪くないと思う。悪くはないけれど、…NO!とハッキリ言えない性格ではある。うん、だから今、私のデスクの上は書類やファイルの山が出来上がっているんだと思うんだけどね。
はぁ、と溜息を吐きながらも、さっさと終わらせようと手を止めることはしない。書類に目を通し、必要事項を記入し、パソコンでデータを打ち込んでいく。数時間前から私はその繰り返し…いい加減、嫌気が差しそうです。いや、それでも最後まで責任持ってやるけれどもさ!!でも泣きたくなるくらいには、終わりが見えてきません。


「後先考えずに引き受けんじゃねぇよ、莫迦が」
「仰る通りです…」
「みょうじが仕事できねぇ奴だとは思っちゃいねぇが―――限度があんだろ」
「はい…」


隣のデスクの黒鋼さん。私よりも2年先輩で、教育係だった人。私ももうこの会社に入社して3年になるので、教育係はもういないのだけれど…隣だからか、もしくは手のかかる後輩だからかはわからないけど、黒鋼さんはこうして私の話を聞いてくれる。時々だけど。そして頑張れ、という言葉の代わりに、ココアを差し入れしてくれるのです。
それは今日も然り。ズズーッと飲みながらもう一度、積まれに積まれた書類の山を視界に映せば、ああ夢じゃないのね…と実感する。

チラッと時計に視線を向ければ、もうすぐ18時半になろうとしていた。オフィスには私と黒鋼さんの他に、ちらほらと残っているだけ。大半の人は定時で帰宅してしまっている。
それもそのはず、私が所属している部署はなるべく残業をしないように!がモットーなのだ。上司だってそのモットーに倣うように、帰れる時はさっさと定時で帰ってしまうくらいなんだから。どうしても終わらなくて残業する人もいるけど、割と稀だ。


「その稀な人の常連……」
「わかってんなら断れ」
「それができたらこんなことになってないと思いません?」
「…ケロッと言うなよ。努力しろよ」
「まだまだ下っ端な私に断る権利があると思うか。いや、ない」


さっさと手を動かせ、と頭を叩かれました。痛い。理不尽。私が何をしたって言うんですか。いいじゃないですか、少しくらい休憩したって。脳と目を酷使し過ぎると疲れるんですもん。
ぐっぐっと目頭を押して、少しでも痛みを和らげようとしてみるものの、あまり効果はないらしい。んー…これは帰ったら蒸しタオルのっけた方が良さそう。目の疲れには温めるのがいいんだよね?多分。
よし、もうひと頑張りしようと目を開くと同時に、黒鋼さんが山からいくつかファイルと書類を掻っ攫っていくのが見えた。あれ?何してるんだろ。


「手伝ってやるから、さっさとやるぞ」
「えっ?!」
「…ンだよ」
「やっぱり優しいですよねぇ、黒鋼さん…!」
「下らねぇこと言ってないで、やれ。莫迦」
「はい!頑張ります!!」


莫迦だとか何だとか言いながら、こうしていまだに面倒を見てくれる黒鋼さんは優しいと思う。口は悪いし、無愛想だし、威圧感あって怖い!とかよく言われてるけど、全然そんなことはない。
とっても優しいし、意外とよく笑う人なんだよねぇ。ちゃんと向き合ってみれば全く怖くないこと、他の人達もわかると思うんだけどなぁ。それに―――書類やファイルに目を通す黒鋼さんの横顔は、とにかくカッコいい。こんな真剣な顔を見られるのって、隣のデスクの特権だよね。ふふ、と緩んだ口元をファイルで隠して、私も残りの仕事を片づける為にパソコンへと目を向けた。
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