Will not forget.

―――ねぇ、聞いてる?
鈴を転がしたかのような、綺麗な声だと思っていた。その声で紡がれる話を聞くのが好きだった、どんなに下らないことでも、彼女が紡ぐのであれば何でも良かったんだ。
俺が最初に好きだ、と思ったのは、間違いなくこの声だろう。


「ああ、聞いているよ」
「本当かしら?貴方って聞いているようで聞いてないこと、たくさんあるじゃない」
「そうだったか?」
「そうよ!だって、それで約束の時間過ぎたこと何回あったのかしら」


それは、と言葉を濁せば、また楽しそうにクスクスと笑いを漏らす。彼女曰く、核心をつかれた時の俺の顔を見るのが好きらしい。悪趣味だ、と思わんでもないが、それで彼女が楽しそうにしているのならばいいか…そう思ってしまうくらいには、惚れているんだろうな。恋は盲目とはよく言ったものだ。

(それは確かに的を得ている)

だが、そんな自分が嫌いではない。大事だと思うものは他にももちろんあるが、彼女を中心に回っている生活は―――割と悪くないと思える。
笑った顔や怒った顔、泣いた顔…ころころと表情が変わる様を見るのも好きだし、気に入ったものや好きなものを見つけた時のはしゃぎっぷりも、可愛らしいと思うくらい。ああ…やはり俺の世界の中心は、彼女なのかもしれんな。


「…ねぇ、貴方は生まれ変わりって信じる?」
「急にオカルトの話か?そういうのには興味がないよ」
「私だって別に特別興味があるってわけではないけれど、…でも素敵だと思わない?」
「生まれ変わることがか?」


自然と眉間にシワが寄った。生まれ変わることを素敵だ、と彼女は言ったが、俺はそうは思わない。生まれ変わるということは、元の魂が死ぬということだろう?大切な者を一度、失くすということだろう?
それのどこが素敵だと思えるというのか。来世で会えるから淋しくない?…そんなの、ただのまやかしに過ぎんよ。


「俺は、…君がいなくなった世界で生きるのはごめんだね」
「来世で会えるかもしれないのに?」
「それでも、だ。待つのは嫌いではないが、会える確証だってないだろう」
「ふふっ本当に貴方は現実主義ね。たまには夢を見たって怒られないのに」
「夢、ねぇ…生まれ変わりがロマンチックだとも思わんが」
「そうかしら。十分、ロマンチックだと思うけれど。―――ねぇ、」


私が死んだら、貴方が私を見つけてね。絶対よ?
笑ってそう言った彼女は、この1週間後―――通り魔に襲われ、命を落とした。





「シュウ?キョロキョロとして、何か探し物?」
「いや―――…何でもない」


時折、フラッシュバックする記憶は誰のものなのだろうか。誰かと談笑している男は、確かに俺だった。けれど、隣に座り綺麗な笑みを浮かべる女を、俺は知らない。こんな光景を見たことだってない、もちろん経験したこともない。
知らないはずなのに知っている、そんな不可思議な感情をずっと抱いている。外に出る度に知らない女を捜すように視線を彷徨わせてしまうのも、もうクセと呼べるものかもしれん。

全く…知らない女を捜して、見つけてどうするつもりなんだろうな。俺は。

はぁ、と溜息を吐いて、持ったままだった缶コーヒーを飲み干した。休憩は終わりだ、さっさと聞き込みを終わらせて本部へ戻るか。ベンチに腰掛けていたジョディに行くぞ、と声を掛けようとした時、ふわりと甘い匂いが鼻腔を掠めた。鈴を転がしたような声が鼓膜を揺らした。


「姉さん、前見ないと転ぶぞ」
「大丈夫よ零くん!いつまで経っても心配性ね?貴方は」
「心配性にもなるだろ、姉さんの大丈夫は当てにならないんだから」
「えー、そう?そんなことないと思うんだけどなぁ…」


息が詰まる感覚というのは、こういうことを言うのかと思ったんだ。
気がつけば俺は、彼女の腕を掴んでいて。驚いた顔で見上げてくる彼女の瞳には、確かに俺が映り込んでいる。


「俺は、赤井秀一だ。君の名前を聞いても…?」
「えっと…降谷、なまえです」


ようやく見つけた―――俺の中で『誰か』がそう囁いていた。
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