B
「連れて行ってくれないのなら、…いっそ殺して」
そう口にした彼女の瞳から、とめどなく流れる透明な滴。ごめんね、君を連れて行くことも出来なければ、殺してあげることもできないんだ。
だって俺は―――
「君に、生きていてほしいんだ」
それがズルい言葉だと、わかっていながらも口にする。
「いい子の君にはおまじないをかけてあげよう」
笑ってそう言った彼女におまじない?と聞き返せば、そう、淋しくならないおまじないだよ、ってまた笑う。
「バイバイとかさよならじゃなくて、またね。今度からそう言ってごらん?」
淋しいお別れから、また会える約束に変わるんだよ。
「またね。」
私は笑って君にそう告げた。いつもなら笑いながらまたね、って言ってくれるのに、今日は泣きそうな顔をして嫌だ、と叫ぶばかり。
ああそうか、君はわかっているんだね。また、なんてもう二度と訪れないことを。
でも、でもね?それでも私は敢えて言うよ。
「また―――ね」って。
「どうしてあんなことをしたんですか」
そう言って怒る貴方に私はただ一言、
「貴方に殺されるなら本望。そう思っただけ」
笑みを浮かべながらそう返したの。だって、だってそうすればきっと―――
「貴方は私を忘れられなくなるでしょう?」
ああこれは、狂気に塗れた歪んだ愛。
それでも貴方をアイシテル。
「貴方の心に留まることができるのなら、この命を投げ出すことすら厭わない」
呟かれた言葉が、貴方が目の前からいなくなる瞬間が―――脳裏にこびりついて離れない。ああ本当に、貴方は何てズルい人なんだろう。どうせならいっそ、
「…僕も、連れて行ってくれたら」
貴方がいない世界なんて、いらない。
ズルいです。そう呟いた貴方の瞳は涙で濡れていた。
「だって私はどんなに頑張ったって、貴方の心に残れないのに、」
あの人はずっと、貴方の心の中に居座り続けるのでしょう?
僕を見上げるソレに宿っていたのは、羨望なのだろうか。
それを受け入れられない?苦しくて仕方ない?なら、
「僕を殺して」
【その瞳は哀しみを宿して:最遊記】
「あ、おかえりなさ…ってびしょ濡れじゃないですか!」
「いやぁ、急に降られちゃいまして…」
「ちょっと待ってくださいね、今タオル持ってきますから!」
パタパタとお風呂場へ消えていく彼女の後ろ姿を見送って、水が滴り落ちてくる前髪を掻き上げた。
-4-
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