嫉妬されるなんて夢にも思わない

「なーんでこうなるのかなぁ…」
「それは俺のセリフだ、バカ」


バカって言った方がバカなんだよ。楽にそう返しながらも、私の視線はさっき出来上がったばかりのダークマター…もとい、チョコになるはずだったものに注がれている。


「ただ溶かして固めるだけなのに、何でダークマターが出来上がるんだ。大した才能だな」
「やだ、照れちゃうじゃん」
「褒めてねぇ」


ですよね、知ってた。
大きな溜息を吐いて、こめかみに手を当ててる楽から目をそらす。前から薄々勘付いてはいたけれど、私って料理の才能がないんじゃないだろうか。これバレンタインまでに作れるようにならないんじゃない…?もう買った方がいい?その方が安全だよね、こんな得体の知れないもの食べさせられないし。でもつき合って初めてのバレンタインだし、一度くらいは手作りのものをあげたい。
うーん、と考え込んでいると、ピンポンとインターホンが鳴った。えっ来客?私、今日は誰とも約束してないっていう楽の言葉を信じて練習しに来てたんだけど…?!まさか、彼女とか…そしたらいっそいで出て行かないと、とんでもない誤解をされて、そのまま修羅場に突入しちゃうじゃん!!
そんな私の心配をよそに、楽は誰だ?って呟きながら、キッチンを後にする。


「…龍?どうしたんだよ、急に」
「仕事で近くまで来ててさ、楽も明日はオフだろ?一緒にどうかな、と思って」


聞こえてきた会話と声に、私は思いっきり吹き出した。水でも飲んでたら、床はバッチリびしょ濡れになるだろうな、という勢いで。
えっまさかの龍くんですか?!楽の彼女でもマズイけど、龍くんでもマズイよ!こっそり練習してるのに、バレるのはマズイでしょ!しかも料理ができないってこともバレちゃうじゃん!!!


「え…?」
「ええっと、…お疲れ様、龍くん」
「何で君が楽の家にいるの?今日は用事があるから会えない、って…」
「は?お前、龍に説明してねぇの?」


説明できるわけないでしょバカ楽…!!!どこの世界に彼氏にバレンタインチョコの練習してくるーって言って出かける奴がいるんだ。いないだろ、普通に考えて。
どう説明しよう、と思考を巡らせていた時に、ふっと視界に入った龍くんの顔は―――今までに見たことないくらい、怖かった。





「あっあの龍くん!」


あの後、彼は私を引きずるようにして楽の家を後にした。車の中でも、エレベーターを待つ間も、もちろん乗っている間も一切口を開かない。私が名前を呼んでも、話しかけても、何も答えてくれなくて。家に入る前にもう一度だけ名前を呼んだら、冷たい瞳が私を見下ろしていた。
ゾクリ、と背中に寒気が走る。初めて龍くんが、怖いと思った。グッと腕を引かれ、ドアが閉まると同時に唇を塞がれた。


「んっ、んん…!っあ、」
「渡さない。楽にも、誰にも…!!」


いつになく低い声。切羽詰まった声。ここでようやくわかった、龍くんは勘違いをしてるって。


「ま、待って龍くん!違うの!!」
「違うって何が?俺より楽の方がいいから、だから嘘ついて家に行ったんじゃないのか?」
「そうじゃないの…!あ、れは、…」


もう隠してる場合じゃない。恥ずかしいとか知られたくないとか、そんなことを言ってる場合じゃない。龍くんの誤解を解いて、不安をなくす方が先だ。私もパニックを起こしていたんだろう、ただ一言、チョコレート!と叫んだ。


「……チョコレート?」
「あっあの、もうすぐバレンタインだから手作りしようと思ったんだけど、でも私、料理の才能ないみたいで!それで楽に相談したら、ウチで練習すれば?って言われて…」


楽とは幼なじみで、向こうにも好きな人がいるし私は言わずもがな龍くんとつき合ってるし、だから何の問題もないだろうって思ったの。でも、そうじゃなかった。


「え?じゃあ…浮気、とか」
「そんなわけない!わたし龍くん一筋!!!」


グッと拳を握って声高らかに宣言すれば、龍くんは一瞬だけポカンとした表情を浮かべたけどすぐに吹き出した。そして肩を震わせています。どうやらツボに入ったらしい。
しばらく笑い続け、ようやく笑いが引っ込んだらしい彼にギュッと抱きしめられた。その手は、少しだけ震えてる。


「楽に嫉妬、した」
「…うん」
「2人の姿を見て、なんか目の前が真っ暗になって…ごめん、怖い思いさせたよね」
「ちょっとだけ。でも私にも非があるから、おあいこ」


結局、バレンタインはどうしたかって?そりゃあ……既製品を買う他、術はありませんよね。そして、龍くんがお詫びにって作ってくれたチョコがめちゃくちゃ美味しかった。

(Twitterより)
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