そんな君も好きだよ
バレンタインなんて、自分には一生関係のないことだと思っていた。そう、去年までは。
「紡ちゃん、この次ってどうするんだっけ?」
「えっと、丸めて冷蔵庫で冷やします!」
「はーい」
今日は2/14。世間は数週間前からバレンタイン一色で、この時期に発売される雑誌すらもバレンタイン特集が目立つほどだったりする。企画としては面白いと思うけど、私には縁遠いことだってずーっと見てこなかったんだけど…今年初めて、そういう雑誌を手にすることとなった。
別に彼氏ができたとか、そういうわけじゃない。好きな人は…できたけど。だからといってチョコレートと一緒に想いを告げてしまえ!っていうことでもなかったりする。フラれるってわかってて、そんな暴挙に出られるほど私はメンタル強くないです。無理。
それでも何かしたくてうんうん唸ってたら、紡ちゃんにいつもお世話になってるお礼に〜ってチョコレート渡せばいいのでは?とアドバイスをもらいまして。それで雑誌を買い、レシピを読み、試作をしてみたものの…まあ見事に失敗して今に至ります。
「でも意外です。料理が得意な方だと思っていました」
「お菓子って分量しっかり量らないとダメじゃん?だから苦手なんだよね」
料理は目分量でもそこそこ美味しくできるものなんです。時々、失敗してるけど。
「それに今まであげることなんて考えたことなかったし…」
「学生の時って友チョコとかやりませんでした?」
「あー…チョコレートのアソート買って、ばらまいたことはある」
「ばらまいたんですか…」
「うん。文字通り受け取れーって感じで」
ノリのいい友達だったから、ははーって言って受け取ってくれてたな。今思い返すと何やってるんだろうって感じだけれども。だけどあの時は、それがめちゃくちゃ楽しかったんだよね。
学生時代にやったバカなことって何であんなに楽しいんだろうなぁ。この歳になるとあの頃と同じことなんてできないよね、さすがに。
「告白はしないんですか?」
「しない、しない。負け戦はしない主義なのさ」
「言ってみなければわからないことなんて、ごまんとありますよ?」
「まぁ、そうだけど―――きまずくなるのもごめんだからさ」
四苦八苦しつつも、初めてのトリュフは何とか形になった。ちょっと歪だけど、味見と称してつまみ食いしてみれば味もそこそこイケた。これなら人にあげても問題はないと思う。…というわけで、ラッピングしたトリュフ片手にやってきました小鳥遊事務所。大神さんが事務所にいることは確認済みです!
「大神さーん…?」
「あれ?どうしたの。今日はお休みじゃなかったっけ」
「お休みです。でもちょっと渡したいものがございまして…」
そろり、と開けた事務所のドア。そこには大神さんしかいる様子がなくて、こっちからすれば好都合だった。ああ、緊張で心臓破裂しそう…!だ、大丈夫、いつもお世話になっているお礼として渡すだけ…そう、仕事仲間に渡すだけだ。それ以上の理由なんて、ないんです。
どうぞ、と勢いで紙袋を差し出せば、大神さんはきょとんとした顔をしつつもそれを受け取ってくれました。あれ?もしかして今日がバレンタインだって気がついてないのかな?いや、でも私達の職業上、この時期はものすっごく大変だから忘れようもないんだ。ほら、所属アイドルへ送られてくるプレゼントの仕分けで。
「甘い匂い…チョコレート?」
「そうです。あの、…いつもお世話になってるので、そのお礼代わり…と言ったらアレなんですけど」
「わぁ、ありがとう!」
「手作りなんですけど、いやだったらゴミ箱にポイしてください」
「あ、手作りなの?余計に嬉しいよ、俺の為にありがとね」
まさかの言葉と笑顔を頂いてしまい、私はもう固まるしかなかった。知らなかった…好きな人の笑顔って、こんなにも破壊力抜群なんだ…!!
私は赤い顔を隠すように、早速包みを開けている大神さんから視線を逸らした。そして叫んだ。
「渡しておいて何ですけど本人がいる前で開けちゃいますかね普通?!」
「だって美味しそうな香りするから」
「たまに不思議になるくらい自由人ですよね、大神さん…」
でもむぐむぐと食べている姿に、ちょっとキュンとしてしまってどうしよう私。あれかな、これも惚れた弱みってやつかな…!
「ん、美味しい。はい、口開けて」
「いや、何故に自分で作ったチョコレートを―――むぐ、」
「君もハッピーバレンタインってことで」
「うわぁ、ごういーん…」
楽しそうに笑う大神さんは、どこか少年のようだと思った。
(Twitterより)
-51-
prev|back|next