やっともらえた
幼なじみである臣は、気がつけば料理をするようになっていた。最初は四苦八苦していたみたいだけれど、覚えが早かったのかめきめきと上達し、高校生になる頃には「え?これあんたが作ったの?!」ってものまで作り始めてビックリした記憶がある。
そんな料理上手な臣からずーっともらい続けているものがある。バレンタインチョコだ。私の知っているバレンタインは、女の子が好きな男の子へ渡すってイベントなんだけどね…何故か、私達の場合は世間一般の逆バージョンとなっています。なので実は、今までに一度も臣にチョコレートを渡したことがない。ちょうだいって言われたこともない、いつだって笑顔で「食べてくれ」って渡されているだけ。
「んんんん〜…!」
「何か悩み事か?」
「あ、綴くん…いや、もうすぐバレンタインじゃんか」
「そういえばそうだな。…あ、伏見さんにあげるチョコを何にするのかで悩んでるのか」
まぁ、間違っちゃいないので素直に頷きを返す。
「幼なじみだって言ってたもんな。そりゃいい加減、レパートリーも尽きる頃だ」
「……いの…」
「え?」
「臣に一度も、チョコあげたことないの…!!」
「……はっ?!」
だから一度も!臣にチョコあげたことないって言ったんだってば!もらってばっかりで、今までに一度だって私からバレンタインチョコをあげたことないんです!!拳を握って半ば叫ぶように言葉にすれば、綴くんはビックリした表情で「マジか…」と呟いた。マジですよ。
そうさ、確かに私はどんなチョコをあげようか悩んでいるさ。でもそれ以前に手作りにするべきか、既製品を買うべきかで悩んでもいるんです。だってきっと、今年は臣もチョコを用意してくれる。手作りのめちゃくちゃ美味しいやつ。せっかくあげるなら手作りにしたいけど、臣の手作りより美味しいチョコを作れると思う?絶対無理でしょーよ。
「伏見さんならお前が作ったものなら、めちゃくちゃ喜んでくれると思うけど」
「そうかもしんないけど〜…」
「その気持ちが嬉しかったりするぞ、案外」
そう言って綴くんは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。いつも思うけど、君は私のことを妹だと思って接してないかい?同い年だぞ、こんにゃろう。でも頭の中は臣へ渡すチョコのことでいっぱいいっぱいで、うがーっとなる余裕すらない。そのまま甘んじて受け入れるだけだ。
いや、マジでどうしよう…トリュフ?生チョコ?タルト?クッキー?それともケーキをワンホール?
結局、悩みに悩んだ結果、生チョコとクッキーにしてみた。そしてこっそり想いをしたためたメッセージカードも仕込んでみる。気づいてくれなかったら、それはそれでいい。直接言うことができない臆病な私の、精一杯だ。
それらを小さな紙袋に入れ、身支度を整えて私は家を出た。向かう先は臣と待ち合わせをしている、近所の公園。最初は寮に行くことも考えたんだけど、さすがに他の団員さんに見られるのは恥ずかしくて無理!ってなったから、臣にこっちまで来てもらうことにしたんだよね。だって大学で渡す勇気もなかったし。
「あ、臣!」
「よ」
「ごめん、待たせちゃった?」
「いや、大丈夫だ」
これでも臣を待たせたくなかったから、早めに来たんだけどなぁ。10分前に着くように出てきたのに、それより早く着いてるってどういうことだよもう。…そんなことを言っても仕方がない。さっさと用事を済ませて、臣を温かい所へ連れて行かないと。
「それで何か用事だったんだろう?」
「あ、うん。ちょっとね、渡したいものが…」
「うん?―――あ、これ先に渡しとくな」
はい、と渡されたのは、私が持っているのと同じくらいの大きさの紙袋。中を覗いてみると、綺麗にラッピングをされた何かが入っている。日付が日付だし、もしかしなくともチョコだろう。やっぱり用意してくれてた。
「ありがと。…これ、あげる」
「もしかしてチョコか?」
「う、うん…臣が作ったものには絶対敵わないのわかってるけど、」
「お前がくれたことが、俺の為に作ってくれたことが嬉しいよ。ありがとう」
お礼を言う声がとても甘くて、優しくて。そっと臣の顔を見てみたら、すっごくすっごく嬉しそうに笑ってるんだ。
(Twitterより)
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