これがぼくらの愛情表現その3
アイドリッシュセブンにケーキをもらい、TRIGGERにはマフラーと手袋をもらってしまった。まさか可愛い後輩達にクリスマスプレゼントをもらうだなんて思ってもみなかったから、いまだにビックリしてるっていうか何というか…これ、お返しどうしようかなぁ。
見返りが欲しくて渡したんじゃない、と九条くんが言っていたけれど、そういう問題でもないのだ。私がお返しをしたいといいますか。もらった分、返したいって思うのは自然でしょう?
あの子達はお世話になってるお礼、とか言ってくれちゃったけど、言われる程にお世話をしたつもりもないんだよね。気にかけてるのは本当なんだけど。私だって彼らにお世話になってるし…うーん、やっぱり何かあげたいなぁ。
手作りのお菓子とか?いやいや、三月くんのケーキに勝てるお菓子なんて作れるはずもないわ。そうすると既製品になるわけだけど、一体なにがいいのだろう。男の子の好みってわからない…確か、四葉くんは王様プリンが好きだと聞いたことがあるけれど。
「全員に王様プリン?いやいやいや…四葉くんはいいとしても、他のメンバーはそうもいかんでしょ」
「やっほー!なまえ!なにブツブツ言ってるの?」
「………百ちゃん先輩?」
「そうそう、百ちゃんだよー。久しぶり!」
考え事をしながら歩いていたから、一瞬誰から声をかけられたのかさっぱりだった。顔を上げて視線を彷徨わせてみれば、そこにいたのは笑顔が素敵な百ちゃん先輩―――Re:valeの1人だった。
うわお、本当に久しぶりだ!!
「お、お久しぶりです…!ゆっきー先輩は一緒じゃないんですか?」
「今日はお互いにピンでの仕事だったんだ。ねぇねぇ、これから暇?ご飯食べに行かない?」
「えっ行きます、行きます!やった、百ちゃん先輩とご飯だ!」
「なまえみたいに全身で喜びを表してくれると、何でも奢ってあげちゃいたくなるなぁ」
にひ、と笑みを浮かべた百ちゃん先輩は、いつも通り可愛い。カッコイイ時ももちろんあるけど、笑ってるこの人はとてもとても可愛らしいのだ。そして隣にゆっきー先輩がいると、もっとその輝きと可愛さが増すんだけどー…お互いに違う仕事じゃ仕方ないよね。
2人がトップアイドルとして君臨してからは、あんまりプライベートで会うこともなくなった。仕事では顔を合わせることはあるけど、なかなか収録前や収録後に話をする時間は取れない。まぁ、ゆっくり話をしたりご飯に行ったりできないのは淋しいけど、Re:valeとして活動しているゆっきー先輩と百ちゃん先輩の姿を見られるのは、やっぱり嬉しいんだ。
それはひとまず置いておいて、…ひっさしぶりに百ちゃん先輩とご飯に行けるなんて幸せすぎる。というわけで、ちょうど良く通りかかったタクシーの乗り、百ちゃん先輩オススメのご飯屋さんに来たのだけれど…
「やあ、なまえ。モモとはちゃんと会えたみたいだね」
「ゆっ……ゆっきー先輩?!」
「うん」
「え、なんで?今日、別々でお仕事してるって…」
「仕事は別々だよ。終わった後、此処で落ち合おうって約束してたんだ」
「で、せっかくクリスマスも近いんだしなまえも連れてきて、3人でクリスマスパーティーをしよう!ってなったんだよね」
思わぬサプライズに、私はもう開いた口が塞がらない状態です。なにこの幸せ空間…!!!
「えええ…こんなことなら2人にクリスマスプレゼントとか、用意したかった…」
「いーよ、いーよそんなの。オレらだって何も用意してないもん」
「突発的な企画だからね。僕達と一緒にお酒を飲んで、食事をしてくれればいいよ」
「それはプレゼントじゃない、ご褒美です」
むしろ、私へのプレゼントだ。これは。
本当に今日は何なんだろう、アイドリッシュセブンから始まり、ラストはRe:valeですか?供給過多で死ぬんじゃないの、私。こんなにプレゼントをもらえるほど、いい行いなんてしてきた覚えもないんですけどね。…めちゃくちゃ嬉しいからいいか、ってなってはいるけれど。
「とりあえず座って、飲み物頼みなよ。乾杯しよう」
「ユキはもう頼んだの?」
「うん、モモにオススメされたワインをね」
「あーあれね。そう、めちゃくちゃ美味いんだよ…オレはビールにしようかな。なまえは?」
「お酒の種類めちゃくちゃ豊富…!じゃあ梅酒のロックで」
お酒と軽いおつまみが運ばれてきて、クリスマスパーティースタート!です。
「へー!三月達の作ったケーキか〜」
「そういえば三月くんと一織くんの実家、ケーキ屋さんだったっけ」
「はい。めっちゃくちゃ美味しかったです…!TRIGGERからは素敵なマフラーと手袋もらっちゃって」
「あの3人が選んだならセンス抜群でしょう」
ゆっきー先輩の言葉に私はただひたすら、頷いた。だって本当にセンス良かったんだよ。言われていた通り、シックな色合いのもので私の好みドストライクでした。
今しているマフラーも、手袋も、大分前に買ったものだったから所々ほつれてきてたんだ。いいのないかな〜って探していた所だったから、タイミングばっちりだしさぁ。大切に使わせて頂こう。
「でも私プレゼント用意してなくって、お返ししたいんだけど何がいいのかわかんないんですよ…」
「うーん、あの子達は皆、お返しとか求めてない気もするけど」
「確かにね。でもなまえの性格を考えると、そういうの関係なく彼らに返したいって思ったんだろう?」
「うん…喜ばせたいというか、何というか…」
「なまえらしいねぇ」
チビチビと梅酒を飲みながら、やっぱりお菓子が無難なのだろうか…と遠い目をしていたら、ゆっきー先輩の気配が動いたような気がした。どうかしたのだろうか、と視線を戻すと、ゆっきー先輩は誰かに向けて片手を挙げている。百ちゃん先輩も嬉しそうな顔でガタッと立ち上がって、でも誰がいるのかわからない私は首を傾げるしかない。
2人の知り合いかな、顔広いしな。特に百ちゃん先輩。とか考えていると、元気な声が「バンさん!」と誰かの名前を呼んだのである。バンさん、って…………えっあの万さん?!!
「万、遅い」
「これでも急いだんだ…こんばんは、百くん、なまえちゃん」
「お疲れ様です、バンさん!」
「お疲れ様ですこんばんは…?」
「あはは、何で疑問形になってるのかなぁ」
大神万理さん―――小鳥遊事務所の事務員さんが、インディーズ時代のゆっきー先輩の相棒だと知ったのはつい先日のことだった。いや、万さんのことは昔から知っていたし、むしろ大ファンだったのだけれど…表舞台から姿を消した後は、何処にいるのかさっぱりだったから。
でもRe:valeの5周年ライブの時、ひょっこりと姿を現したかと思えば、今は小鳥遊事務所で事務員をやっているとか言い出して…何かこう、色んな気持ちがグルグルと頭と胸の中を回っていたけれど、万さんがとても楽しそうに笑っていたからどうでも良くなってしまった。というか、何も言えない立場だったっていうのが一番正しいのだけれど。
だってあの時の私、ただのファンだったし。ゆっきー先輩とこうしてご飯食べに行く間柄になったのだって、芸能界に入ってからだしね。ええっと、私は今…どういう顔をすればよろしいのだろうか。
「私、今日が命日かもしれない…!」
「ふはっ!」
「あ、ユキが吹き出した!てか、なまえも死なないで?!」
「あはは、俺も死んでほしくはないな」
ひえええ…いや、死ねます。万さんの笑顔が眩しすぎて、本当に死ねる気がします。
真顔でそう言えば、ゆっきー先輩は更に吹き出してテーブルに顔を伏せてぷるぷる体を震わせていらっしゃる。万さんも尚、笑みを濃くしていて…ヤバイ、どうしよう。
「Re:valeのライブで会った時はちゃんと話できなかったから、一度ちゃんと会ってみたかったんだ」
「ひえっ…!」
「なまえ、なまえ。バンさんめちゃくちゃカッコイイし、イケメンだけどとって食ったりしないから」
「モモのフォローも秀逸すぎる…!」
「お前の笑いのツボ、相変わらず謎だな…」
結局、万さんが駆けつけてくれた理由を聞けたのは合流してから1時間程経ってからだった。ゆっきー先輩が私が万さんのファンだったことを話し、だったら一度ちゃんと会ってみたいなってことになったらしいです…なにそれ。その事実だけでも、私はぶっ倒れそうですよ。ゆっきー先輩、百ちゃん先輩。
でも、…またこうして会えるとは思っていなかったし、ましてや一緒に食事したり言葉を交わすことができるとか―――過去の私が見たら、やっぱり卒倒しちゃいそうだ。
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