それはとてもあたたかな

クリスマスまであと数日。この時期にしては珍しく、天鵞絨町ではちらほらと雪が舞っていた。どうせならクリスマス当日に降ってほしかったね、と話していたのは、確かカントクと椋だっただろうか。12月に雪が降ることはそうそうないので、ホワイトクリスマスというものに憧れているらしい。

(クリスマス、か…)

クリスマス当日は平日だから、恐らく劇団でのクリスマスパーティーは週末に開かれるだろう。社会人組は休みだし、今は次の公演の準備期間だからどの組も自主練中心で稽古もない。まぁ、中にはプライベートの用事が入っている奴らもいるだろうが。それでも寮に残るメンバーで、きっと賑やかなパーティーになると思う。去年もそうだったからな。
皆でやるパーティーが嫌なわけじゃない…むしろ、好きだと思う。腕によりをかけて料理を作るのも、甘いもの好きの奴らの為にケーキを作るのだって楽しくて仕方ない。美味しい、と笑ってくれるのを見るのだって楽しくて、そして嬉しい。そんな時間が大切だとも、思う。
思うけれど―――…今年は、劇団の皆とは別に、一緒に過ごしたいなと思う人ができてしまった。寮に呼ぶか?いや、でもできれば2人で何処かに……そこまで考えて、顔に熱が集中した気がして思わず口元をマフラーを引き上げて隠した。

「おや、今帰り?伏見くん」
「なまえさん……?こんな所で会うなんて珍しいですね」
「ちょっと買い出しにね。お店が休みの時にまとめてしておかないといけないからさ〜」

鼓動を速めた心臓には気づかぬフリをして、平静を装う。ビックリした…噂をすれば何とやら、ってやつかな。

「荷物、持ちますよ。車ですか?」
「あ、うん。車で来てるけど…大丈夫だよ、このくらい」
「ここではい、そーですかって引くと思います?」
「……思わない」
「はい、貸してください」
「伏見くんって見た目によらず、結構強引だよね」

渋々、と言った表情で荷物を引き渡したなまえさんに、俺は苦笑を浮かべるしかできなかった。
そうは言うけれど、なまえさんだって時々強引で、そして頑固者だと思う。この人と知り合ってまだ半年ほどだけれど、何度もそういう場面に出くわせば慣れてくるってものだ。そうすればおのずと対処法だって学ぶし、身に付く。そしてこの結果に至る、というわけだ。
ガサリ、と買い物袋を揺らしながら、駐車場までの道のりを2人で歩く。いまだなまえさんは僅かに口を尖らせていて、普段よりも子供っぽく見えるソレは可愛らしい。その可愛らしさに口元が緩む。マフラーをしていなければ、確実になまえさんに見られていただろう。
別に見られて困るような表情ではない(と思いたい)けれど、きっとこの人はもっと拗ねてしまうだろうから。もっと色んな表情を見たいとは思うが、機嫌を損ねたいわけじゃないしな。

「伏見くん」
「はい?」
「この後って何か用事ある?暇?」
「今日は食事当番でもないので、時間はありますけど」
「じゃあウチに寄って行きなさい」

ニッと笑みを浮かべた彼女は、そう言った。一瞬だけキョトンとしてしまったけれど、用事がないのは事実だし、特に早く帰らなくちゃいけないわけでもないのでお言葉に甘えることにする。
荷物は後部座席に、俺は助手席にお邪魔した。本当は後部座席に乗ろうとしたんだけど、座席の大半を荷物に占拠されてしまっていたし、何より所有者のなまえさんに助手席においでよと言われてしまったから。左京さんや丞さんの運転する車なら、助手席に乗ったことはあるが…女性の、しかも好きな人が運転する助手席っていうのは何というか―――こんなにも落ち着かなくて、緊張するものなんだな。変な顔、してないだろうか。
ひとり勝手にドギマギすること数十分。見慣れた建物、なまえさんがオーナーを務めるカフェに辿り着いた。1階がカフェ、2階がなまえさんの住居となっているらしい。
すぐ下が職場だから、出勤も退勤も楽だ〜と笑っていたのをよく覚えてる。俺はその、屈託のない笑みに惚れてしまったから。

「なまえさん、これはこっちでいいんですか?」
「うん、ありがとー。さて、こっちにおいで」
「はい、…ケーキ?」
「試作品なんだけど、ちょっと意見聞かせてほしくって」

何でもクリスマス当日限定で新作ケーキを出す予定らしい。その味見をしてほしかったそうだ。料理は好きだし、菓子も作るけど…俺は素人で、プロである彼女の作ったケーキなどに意見できる気がしないんだけどなぁ。
それにこれ以上は手を加えなくてもいいって思ってしまうんだけど。見た目も可愛いし、味もいいと思う。甘すぎなくて、とても食べやすい。

「ど?味とか見た目とか」
「美味しいですし、可愛いと思います。なまえさんのカフェは、女性のお客さん多いですし…大丈夫だと思いますけど」
「そっか。ならこれでいくかなー」

ありがとね、と笑ったなまえさんの笑顔は、いつでもあたたかくて。彼女の笑顔を見るだけで、俺も自然と笑みが零れる。
カチャリ、とフォークを開き、俺は視線を上げた。

「なまえさん、あの―――…」

その笑顔をもっと近くで見たい。今まで以上に強く、そう思ったんだ。
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