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お弁当を食べたあの日から、1ヶ月ちょっと。少しずつ近づいた皆との距離は、今ではゼロに近いくらいになったんだ。あんなに人と話すことがダメだったのに、今ではあまり挙動不審にならずに会話することが出来るようになりました。
男の子達の呼び方は今までと何も変わらないけど、井上さんは織姫ちゃんに、有沢さんはたつきちゃんに、朽木さんはルキアちゃんに呼び方が変わった。彼女達もなまえとか、なまえちゃんとか呼んでくれるようになって…すごく嬉しかったのを覚えてるあぁ、友達になったんだなーって…何て言うか、実感?
皆と話すようになって、びっくりしたことがあるの。それは…黒崎くんとお家が近かったってこと。まさかのご近所さんでした。確かに"黒崎医院"っていう名前の診療所だったし、同じ名字の人がいるんだなーとは思っていたけど…まさか本人のお家だったなんて、思いもしなかった。そしてたつきちゃんとは幼なじみらしくて、彼女のお家もご近所さん。
その事実がわかってから、私と黒崎くんは一緒に帰ることが増えた。朝、小島くんと3人で登校するようにもなったんだよね。何だか…高校に入学したのは3ヶ月くらい前のことなのに、目まぐるしい変化に少しだけついていけなくなりそうになる。
「みょうじ、今日時間あるか?」
「え?うん、あるけど…どうしたの?」
「ちょっと寄り道していこうぜ」
いつも通りの授業が終わった後、帰る支度をしていた私にかけられた一言。珍しいなぁ…お家が近いから、お互いのお家にお邪魔することが増えて…滅多に寄り道なんてしなかったのに。寄り道するくらいなら、どっちかのお家にお邪魔した方がお金もかからないからーって。…何か、あったんだろうか。
少し違和感を感じた私は、知らぬ間に眉間にシワが寄っていたらしく、織姫ちゃんにどうしたの?と首を傾げられてしまった。
「…ううん、何でもないよ」
「そう?あっ黒崎くん、待ってるよ!…頑張ってね?なまえちゃん」
頑張って、って…一体、どういうこと?織姫ちゃん。彼女の言葉に首を傾げつつも、廊下で待っている黒崎くんの元へと急ぐことにした。仲良くなった子達に手を振ることも忘れずに。
「…大分、人見知り直ったみてぇだな」
「そう、かな。…うん、でもいつも一緒にいる皆とは大分打ち解けられた気がする」
「その調子、その調子。みょうじは笑ってる方がいいし、頑張れよー?」
「入学当初の私、そんなに笑ってなかった…?」
「あ?あー…そうだな、表情に変化はなかったかもしんねーな。俺も人のこと言えねーけど」
「黒崎くんは、よく笑ってた気がするけどなぁ」
私が見る黒崎くんは、いつも楽しそうに笑っている気がした。その笑顔がとても眩しくて、羨ましくて、ずっと目で追っていたの。
「……みょうじ」
「ん?なぁに、黒崎くん」
「話してぇことがあんだけど…いいか?」
真剣な顔をして立ち止まった黒崎くん。背中に沈みかけている真っ赤な太陽を背負っているから、ハッキリと表情は見えないけど、でも…緊張、してるような気がする。うん。常に刻まれがちの眉間のシワも、いつも以上に深いんじゃないかなぁ?
まぁ、それはともかく…お話とは何だろう?彼の方に向き直って、続きを促すように首を傾げれば、黒崎くんは頭をガシガシと掻きながら「うー」とか「あー」とか言っている。
これはどう見ても、何て言ったらいいかわからない状態だね。何の話をしたいのか知らないけれど。
「黒崎くん?」
「あっあのよ!い、一度しか言わねーから…しっかり聞いとけよ?」
「?うん」
彼の口から零れ落ちた一言は、私の思考回路をショートさせるのに…抜群の破壊力を持っていた。
好きだ
(えっ…えええええぇえええ?!)
(んな驚かなくてもいいだろうが!!……早速で悪ィけどよ、返事、聞いてもいいか?)
(え、と…わっ私も黒崎くんが、好き―――です)
(!!!)
((今度は黒崎くんが驚く番でした))
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