03
黒崎くんとお付き合いというものをするようになって、1週間が経った。
そして6月も半ば。じわじわと暑さも厳しくなってきた頃、黒崎くんの様子が…何処かおかしいように感じたの。どこが、とか…どうおかしい?と聞かれると、困ってしまうんだけれど。でもそれでも、違和感が残ってしまって仕方がない。
「おはよう黒崎くん!」
「おう!オハヨ、井上!」
織姫ちゃんの挨拶に、とびっきりの笑顔で答える黒崎くん。
そう。笑顔の、黒崎くん。彼の笑顔を見たことがないわけではない。だけど…今日の笑顔は違う。傍から見れば機嫌が良いように見えるんだと思う。みちるちゃんにはそう見えたみたいだし。
でも、違う。黒崎くんの纏っている雰囲気はピリピリしてるし、何かを…隠してるような気がする。その微かな変化に織姫ちゃんも気が付いているみたいで、心配そうな表情。
「黒崎くん…ピリピリしてる」
「…なまえちゃんも気がついた?」
「うん。笑ってるけど、笑ってない。どうしたんだろ」
「みちる、今日って何日だっけ?」
「え、6月16日だけど…」
「なまえと織姫、やっぱアンタらすごいわ。あたしはアレに気付くのに3年はかかったもん」
「たつきちゃん…?」
「もし一護に急ぎの用があるなら今日のうちに済ませときな。…あいつ――明日休みだから」
たつきちゃんは、神妙そうな顔でただそう言った。その日は何の事だかさっぱりだったし、黒崎くんに聞こうかとも思ったけど…何となく聞ける雰囲気ではなくて。
でも翌日の朝。たつきちゃんの言う通り、黒崎くんの姿はなかった。
理由はわからないけれど、休みなんだ…ということだけは、理解出来る。きっと、たつきちゃんは黒崎くんが休んだ理由を知っている。彼女に聞けば、彼が抱えているものがわかるかもしれないって…そう思った。
聞くことは簡単だ。…でもそれは正しいのかと言われたら、答えは否。
「聞いたら…貴方は答えてくれる?黒崎くん」
「…いないのかな?もう夜なのに」
学校が終わった後、いても立ってもいられなくて、黒崎くんの家へとやって来た。一心さんが営んでいる診療所も今日は臨時休業していて、人がいる気配は皆無。明かりもついていないし、まだ誰も帰ってきていない。雨足は徐々に強くなってきていて、傘を差していても足元は少しずつ濡れていく。
彼に会いたいなら、連絡すればいいんだろうけど…何となく、今日は電話もメールも返って来ないような気がしてる。だから、意地でも此処で彼が帰って来るのを待っていようって、そう決めたの。
「あれ?なまえちゃん?」
「本当だ、なまえちゃんだ!お父さん、お兄ちゃん!なまえちゃんが来てるよー!」
声を掛けてくれたのは、黒崎くんの双子の妹の遊子ちゃんと夏梨ちゃん。2人の呼びかけに驚いた声を上げたのは、一心さんと黒崎くんだった。
妹2人は落ち着いているのに、黒崎くん達はとっても驚いてるなぁ…どうしてだろう?
「ちょっなまえ!!お前、何やってんだよ!!!」
「おい一護!なまえちゃんが風邪ひく前に家にいれてやれっ!」
「言われなくてもそのつもりだっつの!遊子、悪ィけど温かい飲み物、持って来てくれ」
「はーい」
私は拒否権もなく、黒崎くんの部屋へと連行された。頭からバスタオルをかぶせられ、しっとりと濡れ始めていた制服はジャージに着替えることになった(もちろん着替え中、黒崎くんは部屋を出ていたけど)。
そして今、遊子ちゃんが淹れてくれた温かいココアを飲んでいる。目の前には胡坐をかいて、難しい表情をしている黒崎くんがいます。怒っているのが目に見えてわかるので、とても怖い。
彼が怒っている理由がわからないわけではないけど、私だって…彼に対して、怒っているのに。昨日まで何ともなかったはずなのに、彼の顔には切り傷のような怪我がいくつもあるんだ。喧嘩とか、そういう感じではないのは…私でも何となく、わかる。
「なまえ、「頬の傷、どうしたの?」
「…え?」
「昨日まで、何ともなかった。なのに、どうして怪我してるの」
膝の上でぐっと拳を握る。じわり、と目の端に涙が浮かんできた…泣いたら、黒崎くんが困ってしまうのに。黒崎くんが責任を感じてしまうのに。
…怒りたかったわけじゃ、ないの。ただ貴方がいない理由を知りたくて、心配になって、それで―――――あぁ、そうか。私、
「淋し、かったんだ…」
「…なまえ?」
「たつきちゃんが知っている黒崎くんを知らないこと、知らぬ間に怪我をしていること、私が知っている黒崎くんなんて…ほんの少しだということ」
貴方が私に話さなかったってことには、ちゃんと理由があるはずなのに…信用されてないような気が、して。彼女は私なのに、って思っちゃったの。
「それがすごく、淋しかったの…!」
堪え切れず、ポタポタと流れ落ちる涙。それを掬い取るように、頬を滑る黒崎くんの手。
彼の手が背中へと回り…ゆっくりと、私の体は抱きしめられた。
バーカ
その言葉には、優しさだけが込められていました。
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