メンバー思いからの頼み事


いつだって私は、二階堂さんに振り回されている気がする。からかってない、と何度か言われたけど、でもそう言っている時の顔は至極楽しそうなので嘘なんじゃないか、と密かに思っていたりするのだけれど。でも、…思い返してみても、あの目は嘘を言っているような目じゃない。

(だからこそ、質が悪い…)

暴かないで、近寄らないで―――そう思っているのは確かなのに、どうしてだか離れられない私もいて。離れてしまったら一生後悔するような、そんな不思議な思いを抱いている。
これはきっと、気がついたらいけない感情だ。自分も、他人も、決して自覚してはいけない感情。…大丈夫、今ならまだ引き返せる。気持ちを押し殺すことなんて、今までにだって何度もしてきたんだから、今回だって問題ないはずだ。
よし、大丈夫!と反芻した所で、バターンッと勢い良く事務所の扉が開いた。


「あっ姐さんいた!」
「ユカリ助けてください!!」
「え?何を?」
「三月くん、ナギくん、縁さんが驚いてるから落ち着いて。どうしたの?」


万理さんが驚いていたのは、ほんの一瞬だったようです。私より先に我に返った彼は、誰がどう見ても慌てている2人に優しく声をかけて落ち着かせている。
そのおかげか落ち着きを取り戻した三月さんが、二階堂さんが風邪をひいて寝込んでしまっていることを教えてくれた。二階堂さん以外、皆さんお仕事で寮には誰もいなくなることも。それは私も把握しているけれど。


「成程、それでナギくんが助けてって言ったのか。何事かと思ったよ」
「だけど、大げさでもないんですよ。あの人、絶対に熱高いはずなのに意地でも測んねぇし、寝てりゃあ治るとか言うし…」


あー、意地でも熱を測らない気持ちはわからないでもない。知った瞬間にもっと辛くなる気がするから、出来れば私も測りたくない派です。


「あの状態ではきっと、自分で食事も作れません…!これではヤマトが死んでしまいます!Help!!」
「だから姐さん、お願い!オレ達が帰るまででいいから、看病してくれない?」


三月さんが両手を合わせ、若干上目遣いでお願いしてきました。この人、普段は自分は可愛くない!って豪語していらっしゃいますが、今の状態を見るともう可愛いの一言なんですけど。そうでなくても三月さんは男前で、可愛らしい方なのに。それを言うと照れて怒られると思うので、言いませんけど。
…って、話が逸れてしまった。ええっと、…そうだ、二階堂さんが寝込んでいるって話でしたよね。メンバー大好きな皆さんが心配するのもわかるけれども、何故それを私に頼むのでしょう…というか、私もこれからMEZZO”の仕事に行かなければいけないんだけど。


「大丈夫!壮五と環に相談したら、2人だけで問題ないよって言われてる!」
「そして2人は仕事に向かいました!」
「私に先に相談してくれません?!」


逢坂さんは責任感がある人だし、私がMEZZO”のマネージャーに正式に決まるまでスケジュール管理などもしていたけれども!三月さんからの相談、そしてリーダーである二階堂さんの体調不良ときたら絶対にそうなることも想像がつくけれども!!
それでもやっぱり、私に一言くらい相談してほしかったです…ポツリ、とそう呟くと、三月さんが不思議そうに首を傾げてラビチャきてないか?って言った。言われてはた、と気がつき、携帯を見てみると四葉くんと逢坂さん2人から「2人で大丈夫だから心配しないで」、「ヤマさんのこと頼んだぞ、姐さん」とメッセージが。更に言えば、可愛い王様プリンとうさぎのスタンプも押されております。
うん、何だろうか。この外堀を埋められた感じ。


「縁さん、今日の仕事量なら俺1人で大丈夫だと思うから、大和くんのことお願いできるかな?」
「万理さんまで…!」
「そうすれば三月くんとナギくんも、安心して仕事に行けると思うけど」


万理さんの言葉に2人も大きく頷いた。うー…ここまで言われてしまったら、もう断りきれない。あまり、…あの人と2人きりにはなりたくないのだけれど、でも苦しんでいるのを放っておくのも正直嫌だ。
溜息をついてわかりました、と返すと、三月さんはパアッと嬉しそうな顔になり寮の鍵を私に押し付けるように渡して事務所を飛び出していかれました。それを追うように六弥さんも出て行かれた―――のだけれど、ひょこっと顔を出していってきます、と投げキッスをしていかれましたとさ。ブレないなぁ、六弥さん。


「寮に風邪薬ってありましたっけ…」
「確か常備しておいたはずだよ。ほら、皆があそこに住むって決まった時に買い出したでしょう」
「…ああ、そういえば胃薬とか色々買い込みましたね」


ならば、薬は大丈夫か。あと必要なものはスポーツドリンクと、冷えピタと…あと喉越しがいいものも買っていこうかな。お昼はとりあえず卵おじやを作って食べさせればいいだろう。
夕食までには逢坂さんと四葉くんが戻ってくる予定だから、その後は2人にお任せしてしまえばいい。私の役目は、メンバーの誰かが返ってくるまでの間、看病をすることだから。


「メンバーの誰かが帰ってきたら、そのまま帰って大丈夫だからね」
「それはさすがに気が引けますので、戻ってきます」
「ええ?大丈夫なのになぁ」
「私の気持ち的に嫌なので諦めてください。こっちの書類って持ち出しOKですか?」


万理さんのデスクの上に積まれている書類を指差すと、彼は首を傾げながら問題ないけど…と呟いた後、私の考えていることに気がついたのか慌てて手を伸ばしてきた。その前に私が掻っ攫いましたけどね。
取り返されぬようそのままカバンの中にしまえば、万理さんはわかりやすく溜息を吐いた。


「ではいってきます。何かあれば携帯にお願いしますね」
「いってらっしゃい。…本当、紡さんとそっくりだよねぇ」
「ふふ、双子ですから」


苦笑を浮かべる万理さんにひらり、と手を振って、私は事務所を後にした。
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