バースデイ・アフター
小鳥遊事務所で事務員として働くようになって、一番最初に誕生日を祝ってくれたのは可愛い双子の姉妹だった。
その時のことは、今でもよく覚えてる。
side:万理
「万理さん」
「紡ちゃん、縁ちゃん。おかえり」
「ただいまです。あの、今いいですか?」
「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」
いつもなら元気よくただいま、と事務所に入ってくるのに、今日に限って2人共こっちを伺うように中を覗き込んだまま。それもドアの影に隠れるようにして声をかけてきた。
何かあったんだろうか、と思うものの、2人の表情は決して暗いわけではない。どちらかと言うと、…何だかソワソワしている感じかなぁ?楽しみなことがある前日のような、そんな感じ。嫌なことがあったわけではないのかな。
ひとまず中に招き入れると、紡ちゃんも縁ちゃんもパッと顔を輝かせてパタパタと走り寄って来る。
「お父さんから今日は万理さんの誕生日だって聞いて…」
「縁ちゃんと一緒にクッキーを焼いてきたんです!」
「えっ手作り?」
「本当はケーキを焼きたかったんですけど、難しくて」
どうぞ、と差し出されたのは、可愛くラッピングされたクッキー。わざわざ俺の誕生日に、何かしようと思ってくれたという事実にうっかり泣きそうになってしまう。
でもここで泣いてしまったら、きっと心優しいこの子達は気に病んでしまう。嬉し涙だよ、と説明しても、泣かせてしまったと落ち込んでしまう可能性だってある。
それに何より、俺自身が泣いている所はなるべく見せたくはないんだ。さすがに恥ずかしいからね。グッと唇を噛んで泣くのを堪えて、上手くできているかわからないけれど笑顔を浮かべて、差し出されたクッキーを受け取る。
「ありがとう、2人共。嬉しいよ」
「お菓子はあまり作ったことないから、ちょっと焦げちゃったんですけど…なるべく綺麗に焼けたものを選んだつもりです」
「あと今日の夕飯、頑張って縁ちゃんと作るので是非とも!」
「…いいの?お邪魔して」
「はい。お祝いさせてください、ご迷惑でなければ」
迷惑だなんてそんなこと、絶対に思わない。
そんな意味を込めて首を横に振れば、どうやら意味は正しく伝わったらしく笑ってくれた。
「―――なんてこともあったんだよね」
「へぇ。何からしいですね、マネージャーも姐さんも」
「うん。今でも変わらないよ、2人共」
「ただ今戻りました、…あら、珍しい組み合わせですね」
「おかえり、姐さん」
FAXで届いた台本の訂正分を引き取りに来た大和くんに、休憩がてら懐かしい思い出話をしていたら当事者の片割れが姿を見せた。
今の縁さんは、あの頃の縁さんと近い笑顔で笑ってくれるようになったなって思う。久遠として活動していた頃だって笑ってはいたけれど、何処か無理して笑っていたように感じていたから。今の彼女の方が等身大で、年相応のように見えるんだ。
アイドリッシュセブンと出会えたことが、彼女を―――縁さんを大きく変えたのだろうとそう、思うんだ。
「あ!万理さん、明日の夜はお暇ですか?」
「明日?うん、何も予定はないけど…何か急な仕事でも入った?」
「いいえ、何も。今日、万理さんの誕生日でしょう?」
ああ、そういえば…それで大和くんに思い出話なんかしてしまったんだっけ。
「今日は千さんと百さんと会うとお聞きしたので、良ければ明日は家に来ませんか?」
「え?」
「社長も紡くんも私も、明日は早めに帰れそうなんです。一緒に夕飯食べましょう」
久しぶりに腕を振るわせてください。
そう言って縁さんはにっこりと笑みを浮かべた。嬉しそうに、楽しそうに。その隣で大和くんも楽しそうに笑っていて。返事をしなくちゃいけないのに、ああやっぱりお似合いの2人だなぁなんて思ってしまっている。
案の定、ポカンとしたままの俺を心配してか縁さんに名前を呼ばれてしまった。
「だい、じょうぶ…お邪魔していいの?」
「ふふっもちろんですよ。家族全員、お祝いする気満々ですから。1日遅れにはなりますが、当日は千さん達にお譲りしたいので」
だから明日は私達にください、と彼女はそう言った。
「あ、言うの忘れてました。誕生日おめでとーございます、万理さん」
「私からも、おめでとうございます」
「―――…ありがとう。大和くん、縁さん」
こうして毎年お祝いしてくれることは、きっと当たり前なことじゃない。それでもまた来年もと、そう願ってしまう。