キラキラとしていた日々
楽と龍さんに百さんのことを聞いて、どれくらいの時間が経っただろうか。あの日は何とも言えない顔をしていた2人に別れを告げ、真っ直ぐ事務所へと戻ってしまった。
あの顔はきっと、そんなことはないと言いたかったんだろうなぁ…と、今でもぼんやり思っているけれど、今更何を言う気もない。それに今はこけら落としの準備で忙しく走り回っていて、それ所じゃないんです。正直。
「ねぇ、楽と龍と連絡先交換したって本当?」
「…八乙女さんに聞いたんですか?」
「そう。ねぇ、ボクには教えてくれる気、あるわけ?」
その威圧感、18歳には見えないし、天使にも見えないよ天くん。でもそれを素直に口に出す気はないので、ないわけはないけど…と言葉を濁した。
まぁ、本当に頑なに教えないって気持ちはないし、同じグループでもある2人と交換して天くんとだけ交換しない、というのはあまりにもよろしくない。それくらいのことで天くんが機嫌を損ねるとか、そんなことは決してないだろうけど、その考えは若干拗ねているような顔をしている天くんを見て吹き飛んだんだけどね。龍さんの言っていたこと、あながち間違いじゃないのかも。
「というか縁さん、いつの間に八乙女さんと十さんと会っていたんですか?」
「少し前に一緒に食事をしたんです」
「えっそうなの?!や、やっぱり八乙女さん縁さんのことも…!」
「七瀬くん、それは絶対にないから。天地ひっくり返ってもないことだから」
だって楽は私の妹である紡くんにご執心ですから。いくら顔が似ている双子でも、性格がまるっきり違う私になんて恋愛感情を抱くはずがないんです。どう考えたって紡くんの方が可愛らしくて、愛でたくなる容姿と性格をしているもの。双子だといっても、性格は全く違うんだよね。私達。
ああでも、天くんと七瀬くんも双子とはいえ…雰囲気とか違うかも。似ているな、と思う瞬間は多々あれど、それ以外の時は双子なんだってことを忘れてしまいそうになる。ある意味、この2人も真逆の位置にいるのかもしれないな。
ぼんやりとそんなことを考えていると、いつの間にか携帯を持ってきたらしい天くんが私の顔の前で手をヒラヒラと振っていた。あ、しまった、ボーッとしてた。
「貴重な休憩時間使って来てるんだから、さっさとして」
「だったら終わってから来れば良かったじゃないですか。…はい、これがIDと番号です」
「練習後に?それは無理でしょ、すぐに戻らないと色々うるさいから」
はい、と紙を渡すと、天くんは少しだけ頬を緩ませてありがとうと口にした。あら、今日はちょっと素直かも。その後ろで会話をしている七瀬くんと一織くんの雰囲気も、幾分か緩和されている気がする。センター交代や、その他にも色々とあったけれど吹っ切れたのかしら。
もしそうなら、とても喜ばしいことなんだけど。ずっとギクシャクしてたからな…七瀬くん達。TRIGGERとの練習もいい気分転換というか、そんな感じになったのかもしれない。他のシャッフルユニットもそうだといいんだけど、大丈夫かなぁ。
「九条さん、七瀬さん。そろそろ戻って練習を再開しましょう」
「あっうん!天に、…じゃないっ九条さん、行きましょう」
「そうだね。…じゃあ縁、またね」
「はいはい。練習頑張ってくださいね?七瀬くん、一織くん、九条さん」
その後はとくにトラブルなどもなく、無事に合同練習は幕を閉じた。本番までもうそんなに時間はないし、それぞれ忙しくしているグループだからゆっくり練習の時間を取ることもできない。1回1回の練習で精度を上げていかないと、本番に間に合わなくなってしまうもの。でもきっと、…そんな状況でも完璧に仕上げてしまうのが、アイドリッシュセブンとTRIGGERなんだけどさ。
残る問題はいまだにステージに立つと歌えなくなってしまう百さんのことだけだ。…恐らく。私が心配した所で、考えた所で、何もできないんだけどね。わかっていながらも話を聞いてしまった手前、気にはなるというものです。
多分、楽達が一番詳しそうなんだけど尋ねてしまうと「じゃあ会いに行くぞ」って展開になりかねないから、今はまだ避けている。アイドリッシュセブンの皆さんはどうなんだろう…知っているのだろうか?下手に尋ねてしまうとどういうこと?となってしまいそうで、こっちも避けている現状。
結局、どうなっているのかわからないまま時間だけが過ぎていき―――こけら落としが間近に迫ったある日、私は万理さんから千さんにドッキリを仕掛けることになったから、と聞かされました。
「は?ドッキリ、ですか…?」
「うん。仕掛け人は俺達じゃなくて、アイドリッシュセブンとTRIGGER…というより、大和くんなんだけど」
「二階堂さんが…」
「そう、それでね?ドッキリが無事に成功した後、俺と縁さんにRe:valeの楽屋に来てほしいんだって」
んん?まず、ドッキリを仕掛ける理由もわからない。そして何故、万理さんと私がRe:valeの楽屋に行くのかもわからない。つまり全部がわからない、ということです。
ちょ、お願いですから最初から最後までしっかり説明してください…!!懇願すれば万理さんは忘れてた、という顔になって、すぐに苦笑を浮かべた。どうやらこの人、話したつもりでいたみたいです。天然ですか。
「百くんのことは聞いてる?」
「え?あ、はい。楽と龍さんから」
「それでね、どうやら千が俺のことを捜しているらしくて、見つかったら吹っ切れるんじゃないかって三月くんが―――」
「……ちょっと待ってください」
事情を説明してくれている万理さんにはとても申し訳ないけど、遮らせてもらった。
だって何か、色々とツッコミたいことが…!
「千さんが百さんと組む前に、違う人と組んでたっていうのは聞いてましたけど…」
「うん、その元・相棒が俺」
「は、……初耳ですよ?!」
「言ってなかったからね」
あはは、と何てことのないように笑った万理さん。あっけらかんとしてるけど、それってなかなかの情報だと思うんですけど!そう思うのは私だけなんですか?!
もう考えること放棄したくなってきた…まさか、千さんが捜している元・相棒が同じ事務所にいるなんて。ビックリも通り越すよ、本当。
「で、本題に戻すんだけど…」
「万理さんあっけらかんとしすぎです」
「そう?でももう終わったことだから」
「はぁ…ひとまず、続きを聞かせてください」
こめかみを押さえつつ、遮ってしまった話の続きを促す。何故、私も一緒にRe:valeの楽屋に行くのかといいますと…彼らが私のことをずっと捜してくれているから、だそうです。それ自体は楽達に聞いてはいたけれど、万理さん曰く私のことも気掛かりのひとつなんだそうだ。だから、こうなったら一気に解決してしまおう!ということらしいです。
ここまで聞いてようやく納得できた。成程ね。…まだドッキリを仕掛ける理由はわからないけれど、聞かなくてもいいかと思い始める。私はそっちに関与しないわけだし。うん、いいや。
「事情は何となくわかりました。あまり気乗りはしませんが、…もう今更な気もするので腹を括ります」
「わー、男前だね。縁さん」
「面白がらないでくださいよ…」
「ごめん、ごめん」
テレビの中でない千さんと百さんに会うのは、本当に久しぶりだ。僅かな恐怖と不安と、僅かな嬉しさが混ざり合って何だかドロドロとした感情が生まれてしまいそうだ。でもやっぱり、嬉しさの方がほんの少しだけ上回ってしまうのだろうか…目の前まで迫ったかつての先輩との再会に、自然と口元が緩んでしまいそう。