リーダーと事務員の壁
社長と万理さんから、この間、姐さんに怪我を負わせたのはかつてストーカー行為を繰り返していた『久遠』のファンだったってことを聞かされた。
姐さん本人からも迷惑をかけてすみませんでした、と言われたけど、別にあんたが悪いわけじゃねぇのに―――そう思ったのはオレだけじゃなかったらしく、陸やナギ、環までもが気にしないで大丈夫だって笑みを返していたのは記憶に新しい。
あれ以来、スタジオとかライブ会場でその男を見たことはない。この件は何とか終息したんだな、とホッとしてたんだけど…何か、大和さんと姐さんの様子がおかしい気がする。
side:三月
大和さんは地方ロケで泊まり、陸と一織と環は夕食後に部屋へと戻った。リビングに残っているのは壮五とナギとオレの3人だけ。壮五は大和さんの気持ちを知ってるから何かあったのかな、と相談したいんだけど、ナギがいるとこでするのはさすがにマズイじゃん?多分、ナギは大和さんの気持ち知らないし。
どうすっかなー、と明日の朝食の仕込みをしながら考えてたら、優雅に紅茶を飲んでいたナギが溜息交じりにこう言った。最近のヤマトとユカリの様子がおかしいです、ケンカでもしたんでしょうか?と。
「ナギくんも気がついてたんだ?」
「Oh,ソウゴもですか?」
「うん。でもケンカしてる、って感じの様子ではなさそうなんだけど…」
「まさか!…ヤマト、無理矢理にユカリに迫ったのでは…?!」
「それじゃ大問題だろ!」
…って、ん?今のナギの発言、完全に大和さんの気持ちを知ってる風じゃなかったか?
「ナ、ナギ…お前、もしかして…?」
「何ですか?ミツキ」
「大和さんが、その…」
「彼がユカリに恋をしていることを知っているか、と聞きたいのです?」
あ、これは完全に知ってるわ。大和さーん、オレと壮五だけじゃなくナギにもバレてるぞー。
これだともしかしたら、一織も知っている可能性が高いんじゃねぇか?鋭いぞ、我が弟は。
「ヤマトは決してわかりやすい態度をとっているわけではありません。けれど、時折ですがユカリに向ける瞳がとても優しい」
「ああ、わかる気がする。愛しい人を見つめる瞳って、こういうことなのかなぁって思ったことあるよ。僕も」
「Yes!その時にワタシ、ピンときました!」
「成程なー。…でも姐さんに迫ってはいないと思うぞ」
「ワッツ?何故です、三月」
「それだったら大和さんクビだろうし、姐さんは徹底的に無視すると思う」
仕事に対してかなり真面目な人だから休むってことはしないだろう。でもそれ以外で会話を交わすことは絶対にしなくなると思う、彼女の性格を考えると。けど、怒ってるって感じは全然しなかったし、大和さんが声をかけても無視をしてなかった。ちょっと挙動不審にはなってたけど、応対してたしな。
だから姐さんが嫌がることをした、ってわけじゃないんだけど…こう、ギクシャクしてるっていうかさ。まるでつき合い始めた恋人同士みたいだったんだよなー。あれ?もしかして、ついに告白したのか?!
「僕も最初そう思ったんですけど、多分違うと思います」
「…だよな。大和さん何も言ってなかったし」
「けれど、ヤマトは隠しそうな気がしまーす」
「いやー、そうでもなさそうじゃね?独占欲強い気がする、大和さんって」
本人が言ってたわけじゃないから、ただの推測でしかないんだけどな。でも姐さんが大和さんを庇って怪我した時とか、まるで触るんじゃねぇって背中が語ってたというか…そんな気がしたから。あの時は必死だったからそう見えただけかもしんねぇけど。だから、つき合うことになったら牽制の意味も込めて報告してくれるんじゃねぇのかなーって思ってるんだけど。
(あー、でも大和さん秘密主義だしな…)
それを考えるとナギの言い分もあながち間違ってないかも、と思ってしまう。姐さんはもちろん、そういうことは口外しそうにない。社長とマネージャーには言う確率高そうだけど。というか、あの2人には言わざるを得ないんじゃないか?仕事仲間だし、雇い主だし、何より家族だし。
「気にはなるけど、詮索しない方がいいか」
「ですね。困っていれば相談してくるかもしれませんし」
「Hum…ワタシ、気になって仕方ありません!ミツキとソウゴは違うんですか?」
「そりゃあ僕も気にはなるけど…2人に聞いた所で、素直に教えてくれる気はしない」
「壮五…お前、言うようになったな」
「え?そうですか?」
でも、うん。壮五の言う通りなんだよなぁ…多分、向こうから言ってくるのを待つのが一番良い手なんだ。とりあえず、もう少し様子見かな。