報告会。そのいち


何とかお父さんへの報告が済み、許しももらった。まぁ、許しを得た所で交際を発表するわけではないんだけど。いずれは言わなくちゃいけないことだっただろうし、それに事務所の社長だから知る権利はあると思っている。その流れで紡くんと万理さんへの報告も済ませちゃった。2人にはその、相談にのってもらったこともあるし。話の流れで、って感じだったし、好きな人がいるんです!って宣言したわけでもなかったんだけどさ。
だからまず好きな人がいたことに驚かれると思ってたんだけど、そんなことなかった。全然なかった。万理さんはちょっと驚いた顔してたけど、紡くんは最初から最後までずっとにこにこしてた。可愛かったけど。
そして私は今、何故かアイドリッシュセブンの皆さんが暮らす寮に招かれ囲まれています。


「ええっと、」
「なー姐さん!ヤマさんとつき合ってんの?!」
「こら環くん!質問の仕方がド直球のストレートすぎるよ!!」
「じゃー他になんて聞くんだよ」
「もっとこう、…当たり障りなく回りくどくね―――」


いや、逢坂さん。回りくどく質問って何ですか。落ち着いているように見えて、実はテンパっていらっしゃいますか?この人。どうぞ、と一織くんが出してくれた麦茶をチビチビ飲みながら心の中でツッコんだ。今ここで口を出すのは得策じゃない、まだ上手く回っていない頭がそう告げた気がした。


「環も壮五も座れって!メシできたぞー」
「はい、縁さん!」
「あ…ありがとう、七瀬くん」


コトリ、と目の前に置かれたのは、ホカホカと湯気をたてるオムライス。ケチャップで私の名前が書いてあった。そっと視線を巡らすと、それぞれのオムライスにそれぞれの名前が同じように書いてある。ここではきっと、いつもそうしているんだろう。イラストが描いてあるのはテレビや写真で見たことがあるけれど、名前が書いてあるのは初めて見たかもしれない。
どういう理由でこうなったのか気になって仕方がないので、隣に座った三月さんに聞いてみると「食べる量が個人個人違うから」って教えてくれました。ああ成程、確かに名前が書いてあれば量が違うものでも間違って配膳することがないなぁ。人数が多いならではの案ですね。


「それでユカリはヤマトとおつき合いをしているのですか?」
「ぐっ…ゲホッ!」
「わああぁああ!縁さん!!」


噎せた。それはもう思いっきり噎せた。オムライス美味しいなぁ、なんて和み始めていた所へ落とされた、六弥さんからの爆弾に盛大に噎せて、そのまま咳き込んだ。なにしてくれんですか、この野郎。この場に二階堂さんがいればうまーく誤魔化してくれるのかもしれないけど、今日に限ってあの人はドラマの撮影でまだ帰ってきておりません。…もしかして、だから呼ばれたのか?私。
そして呼ばれた理由も理解できた。四葉くんからの質問でもしかして?と思ったけれど、六弥さんの爆弾で完全に腑に落ちたもの。どうしてかはわからないけれど、きっと皆さんは二階堂さんと私がつき合い始めたのを察したのだろう。それで真実を突き止めようとしている、といった所でしょうか。
ああもう!どうしてこういう時に撮影でいらっしゃらないんですか、二階堂さん!私ひとりでは対処しきれそうにないんですが?!というか、社長・紡くん・万理さん以外に喋ってしまってもいいのだろうか。そこまでは話をしていないから、私の独断で関係を明かしてしまっていいのかわかりかねるのだけれど。


「いや、あの、ですねっ…!」
「縁さん、顔真っ赤だ!かわいー」
「ちょっと七瀬くん?!」
「ははっリクは天然タラシ、ってか?」


その場の空気が、一瞬でビシッと固まった。というか、凍った。恐る恐る後ろを見ると、壁に寄り掛かり笑みを浮かべている二階堂さんが立っていらっしゃいました。口は笑ってるけど、目は笑ってないですよ二階堂さん…!そしてオーラが若干黒いです怖いです!!ほら、七瀬くんと四葉くんが顔を青くして怯えていらっしゃるじゃないですか!


「なーにお兄さんに内緒で姐さん呼んで、楽しそうにしてんのかなー?お前らは」
「おかえりー大和さん」
「おう、ただいま。…じゃねーよ、話を聞け。ミツ」
「だって大和さんも姐さんも報告してくんねーんだもん。だったら聞くしかないじゃん?」
「はあ…仕方ねぇだろ、報告するような暇もなかったんだから」


二階堂さんの言う通り、有難いことに忙しくて目が回るほど仕事を頂いていたりする。全員が揃う仕事だってもちろんあるけれど、その後も個人の仕事やら何やらが入っていてゆっくりお話をする時間は確かになかっただろう。…ん?報告するような暇もなかった、って言ってたけど、もしかして二階堂さんは皆さんに報告するつもりでいらっしゃったのか…?!
スプーンを咥えたまま黙り込み、二階堂さんを凝視していると、まるで私の心の中を読んだかのように「さすがにメンバーに黙ったままではいられないでしょ」と苦笑を浮かべて言葉を紡いだ。


「えっじゃあ本当なんですか?二階堂さん!」
「んー、まぁね。社長とマネージャー、あと万理さんにも報告済み」
「なんだよー。俺らが最初じゃねぇの?」
「普通、最初は社長でしょう…私達はアイドルなんですから」


ぽんぽんと進んでいく会話に入れるわけもなく、私はひたすらにオムライスを口に運んでお茶を飲むしかなかった。え、何だろうこの拷問みたいなの!


「姐さん、さっきから黙ったまんまだけど大丈夫か?」
「あ、はい。至って元気です」
「お前らが知ってたから驚いてんじゃね?」
「…ビンゴです」


手を洗って戻ってきた二階堂さんは向かいの席に腰を下ろし、グラスにお茶を注いだ。彼のオムライスは、今三月さんが作っている最中です。
それは全然どうでもいいというか、関係のないことなんだけど…本当にどうして皆さんは私達の関係に感づいたのでしょう?三月さんや一織くんや逢坂さん、そして六弥さんは鋭そうなのでまだ頷けますが…四葉くんと七瀬くんは、言っちゃ悪いですけど恋愛とかにあまり興味がなさそうな印象があったので。でもそんなことないっぽい?それとも事務所の関係者だから、って理由かな。


「実は最初に気が付いたの、環くんなんです」
「え?四葉くん?」
「そ〜。ヤマさんと姐さんの距離っていつも近いけど、なんか違ったから」
「…って、大分ざっくりとした感じではありましたけど」
「そこからワタシとミツキ、ソウゴがもしかして?と思ったわけです」
「七瀬さんは最後までわかっていませんでしたね」
「そっそんなことないよ!」


再び始まったワイワイと賑やかな雑談に、私はそっと笑みを零す。そして彼との関係が拒絶されなかった現実に、安堵した。特に一織くんには頭ごなしに反対されるんだろう、と思っていたから。でもそんなことなかった、全然なかった。祝福されてるのかはわからないけれど、ひとまず拒絶も反対もされていなさそうなので。…多分。


「でもさー、やっぱ本人達の口からも聞きたいけどな。ほい、お待たせー大和さん」
「さんきゅ。…本人達の口からだってよ、姐さん」
「ええええ…そこで私に振るんです?」
「うん、俺オムライス食べるの忙しいし。ほら、リクが目ェキラキラさせて待ってんぞ」


うん、その目はやめてください七瀬くん!
慌てて逸らしたけれど、あの目に勝てるわけも逆らうこともできるはずがなかったのです。でもお父さんに報告に行った時も、紡くん達に報告に行った時も二階堂さんが口火を切ってくれたし…今度は私の番、ではあるのか。溜息を1つ吐いて、私は口を開いた。恥ずかしさで死にそう。


「ええっと、…1ヶ月ちょっと前から二階堂さん、と、おつき合いして、ます…!」


意を決してそう告げれば、一瞬だけ静かになった後、何故か大騒ぎになりました。その中で黙々とオムライスを頬張っている二階堂さんは心底すごいと思います…!私、ものすっごい驚いたんですけど?!
どうやら祝福してくださっているようですが、…いきなり大声を出されたら誰でもビックリして固まると思う。でも…嬉しいは嬉しい、です。うん。


「お祝いのケーキもあるから、食べてってよ姐さん!」
「あ、はい、ありがとうございます…」
「良かった。幸せになってくださいね、大和さんと」
「逢坂さん…!」
「ヤマさんに何かされたら俺達に言えよ!ボッコボコにしてやる」
「おいタマ」
「あはは…覚えておきます」
「ヤマト、ユカリ。コングラッチュレーション!お祝いのハグを―――」

―――ベシッ

「食事中だ、すんな。」
「冷たいです、ヤマト…」
「オレ、ずっと2人のこと応援していますから!!」
「う、うん…ありがとう…?」
「お2人が決めたことなら何も言いません。覚悟の上なのでしょう?」
「まーな」
「だったら、私から言えるのは『あまり目立つような行動は控えてください』だけです」
「ははっ肝に銘じておくわ」
「―――おめでとう、ございます」
「…ん、ありがとな。イチ」
「ありがとう、一織くん」
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