報告会。そのに
―――ピロン
少しだけ、と思って事務所に残って書類整理をしていたら、いつの間にかかなりの時間集中していたらしい。携帯が鳴ってようやくハッと我に返った。うあー…さすがにちょっと疲れたかも。そして誰からだろう?恐らくラビチャだと思うんだけど。
持っていた書類をデスクに放り投げ、傍らに置いておいた携帯へ手を伸ばす。冷めきったコーヒーを飲みながら確認すると、差出人は楽だった。…え、楽?今日は二階堂さんと三月さんと飲みに行ってるんじゃなかったっけ?あと多分、龍さんも合流しているだろう。気がつけば飲み仲間みたいになってたから、あの人達。
『二階堂が潰れた。来い』
………いやいやいやいや!なに潰してくれてんですか、ウチの大事なアイドル!!そして何故、私に迎えを頼むのか…確かに小鳥遊事務所の職員で、アイドリッシュセブンのマネージャー補佐でもあるけどさ。楽が連絡してくる理由もわからない。三月さんから連絡がくるなら納得がいくけど。同じグループのメンバーだし。
そりゃ二階堂さんと2人だけで飲んでたんならわかるよ?楽しか連絡できる人いないわけだしさ。でも今日の飲みはそうじゃないじゃないか。楽は熱血ストレートな性格だから、何か企んでるってことはないだろうけど…変に勘繰ってしまうのはどうしてなんだろうね。
ひとまず、迎えに行った方がいいか。来いって言われてるし、既読スルーするわけにもいかない。酔って潰れた看板アイドルを放置することもできませんから。
「お、来た来た。こっちだ、縁」
「お疲れ様です。…てか、潰さないでくださいよ二階堂さんを」
「俺のせいじゃねぇよ。二階堂のペースがおかしいんだ」
あの後、すぐ行く旨を返信すればすぐに居酒屋の名前と、住所が送られてきた。そして辿り着いた先にいたのは、テーブルに突っ伏して眠っている二階堂さん、そこそこできあがっている三月さんと龍さん、ケロッとした顔で生ビールを飲んでいる楽だった。いや、ここにいるメンツは知ってるけども。驚く要素もひとつもないけど。
「ごめんなー、姐さん。気がついたらいつもの倍のペースで飲んでてさぁ…あっという間に潰れちゃったんだ」
「もう…明日はオフだから構いませんけど、今度は止めてくださいね?三月さん」
「本当はおっさん自身がセーブかけなくちゃいけないんだけどな」
「ごもっともです。…二階堂さん、二階堂さーん起きてください!帰りますよ」
「ん〜…?縁……?」
「はい、そーですよ」
隣に座り、ぐっすり眠ったままの二階堂さんの肩をペシペシ叩くと僅かに反応を返してくれた。ゆっくりと瞼を開け、私の名前を呼ぶ。というか、普通に返事しちゃったけど…楽と龍さんがいたんだった。
三月さんは私達の関係を知ってるから何も言わないでスルーしてくれると思うけど、2人はそうもいかなそうな気がする。顔には出さないように気をつけつつも、内心冷や汗ダラダラだった。マズイ、詰んだ気がする。
「…ああ、やっぱりか」
「だねぇ」
「姐さん、多分2人にもバレてる」
「そんな気はしてました……って、え?今、バレたわけではなく?」
「うん。飲んでる途中から気がつかれてんじゃねぇかな」
うっそ?!
「大和くんね、酔い始めてからずっと縁ちゃんの名前呼んでたから」
「紡を迎えに呼ぼうとしたらお前がいい、って駄々こねるしな」
「こンのバカ……!」
「…ごめん、大和さん。オレにはフォローは無理だわ」
酔っ払って私の名前を呼んでくれるとか、ちょっとドキッとしましたけど結果的に喜んでる場合じゃなくなったじゃないですか!うう、交流があるとはいえライバル関係にあるグループのメンバーにバレてしまうとか…あまり褒められたことじゃないんだけどなぁ。
できることなら、私達の関係は小鳥遊事務所だけが知っている形が望ましいと思っている。他事務所の知られてしまうのは、言わばアイドリッシュセブンアイドル生命の危機なんですよ。それを週刊誌に売られたりしたら、一気にスキャンダルの餌食になる。根掘り葉掘り、言いたい放題書きたい方だになるでしょう。天くんにはいずれ話す、とその場しのぎで言ってしまったけれど!でもあの子は話してくれる日なんて一生来ない、って理解していそうだけどね。
話が逸れた…なので今、割とマズイ状況だ。この2人が週刊誌に話すなんて、そんな真似しないと信じてはいるけれども。
「安心しろ。言いふらしたりしねぇよ、天にもな」
「あ、うん、ありがとう」
「縁ちゃん車だよね?大和くん、運ぶよ」
「ごめん、ありがとう。龍さん」
「んじゃ今日はお開きにすっかー」
「だな。大和さん、また爆睡してっし」
私がビックリしてあたふたしている間に、テーブルの上にあったお酒やおつまみ達は綺麗に平らげられていた。流れるような所作で伝票を持った楽が、一足先にレジへと歩いていってしまった。
慌てた様子で追いかけたのは三月さんで、二階堂さんをおんぶした龍さんも「ちょっと楽?!」と困り顔。この中では彼が最年長だから、今日の支払いをするつもりだったんだろうなぁ…この感じだと。三月さんもせめて割り勘にしよう、とか説得してそうだけど、きっと楽はその主張も華麗にスルーして全額支払ってしまっているのだろうな。
「もー…楽はいっつも払っちゃうんだから」
「昔からそうだよね、楽って」
「そうなんだよな。俺の方が年上なのに…」
「でも1つしか変わらないでしょ?龍さんと楽って」
「まぁね。でもこういう時って最年長が払うものでしょ?」
「一般理論はそうですねー。けど、楽ってそういうの無視しそう」
「現にしてるしね…」
二階堂さんと龍さんのカバンを持ち、あまり揺らさぬようにゆっくりと2人の元へ向かう。
龍さんに持ち上げられても二階堂さんは起きる気配がなく、今も気持ち良さそうに眠っている。最近はずっと忙しくて睡眠時間もまともにとれてなかったから、その反動だろうか。そこへ普段の倍のペースでアルコールを入れれば潰れるのは当たり前だと思う。
飲むことは禁止したりしないけど、せめて限界以上に飲むことを止めてもらわないと禁酒宣言をしてもらわないといけなくなりそうです。私が言う前に紡くんや一織くん辺りに言われちゃいそうな気もするけど。
「―――縁ちゃん」
「ん?なぁに?」
「今度は君も一緒にご飯でも行こう。天にも声かけておくから」
「お酒抜きならいいですよ」
「もちろん。美味しいお店、探しておくね」
「ふふっ楽しみにしてます」
思わぬ報告をする羽目になったけれど、まぁ…楽や龍さんには心配をかけていたから、いいかなって思ったんだ。
こんな幸せがずっと続くものだと、そう思っていたのに―――人生というのは、そう上手くはいかないものらしい。