大切だと、言葉にして
「お前、千さんになに言ったの?」
今日はMEZZO”の仕事があったから、二階堂さんの現場には付き添わなかった。運悪く紡くんも一織くんと七瀬くんに付き添うことになっていたし、万理さんも書類整理に追われていて付き添うことができなくて。もちろんそれは二階堂さんに説明済みだし、本人も問題ないと言っていたからお任せ状態。
…正直、今の状態の二階堂さんを仕事の時くらい1人にさせたくないって気持ちはあったんだけど、そんなわがままは言っていられない。私はあくまでもMEZZO”のマネージャーで、二階堂さん個人のマネージャーじゃないんだから。
そういう理由で今日は別行動。…を、していたはずだったのだけれど、逢坂さんと四葉くんを寮へ送り届けた後に携帯を確認してみると、二階堂さんからメッセージが届いていた。やり取りを一切していなかったわけではないけれど、どちらかと言えば、私がスケジュールの確認のメッセージを送っていたからあちらからメッセージがくることは今はほとんどなかったのに。
何かトラブルだろうか、と思い、慌てて確認をしてみると、ただ一言「仕事終わったらホテルに来て」とだけ。ホテル、…それはつまり、二階堂さんが滞在しているホテルに来いってことよね?行くのは構わないけど…何だかすごく怖い。その反面、呼ばれたことに喜んでいる自分もいるんだけど。―――というわけで、冒頭の二階堂さんのセリフに戻ります。
「特別なことは何も言っていませんが…」
「へぇ?お前を泣かせるな、って説教食らったけど」
ああ…数日前にうっかり零してしまった弱音のことだろうな…十中八九。もう…気を緩ませてしまった自分が悪いのはわかっているけれど、何も本人に言わなくたっていいじゃないか。いや、二階堂さんの口ぶりだとどんなことを言っていたのかまでは聞いていないのか。ただ、私を泣かせるなと言っただけで。
でも勘の鋭い二階堂さんのことだ、それだけでも私が千さんに何か言った―――ということは、容易に想像がつくのだろう。現に当たりをつけてきているわけですし。ここまで話をしてようやくわかった、私がホテルに呼ばれた理由。千さんの言葉の真意を探る為…って所だろうか。言ってしまってもいいのだろうけれど、下手をすれば二階堂さんがいなくなってしまいそうで慎重になる。どうにか誤魔化せる術はないだろうか、と考えていると、グッと腕を引っ張られてベッドへダイブ。視界いっぱいに映るのは、どこか余裕のない二階堂さんとホテルの真っ白な天井。
「何の真似ですか?二階堂さん」
「…お前って本当、俺以外の男に頼るよな」
「そうですか?」
ベッドに押し倒されているというのに、部屋の中に漂う空気は険悪そのもの。まぁ、彼の精神状態はギリギリの状態で保たれていることは明白だし…こうなるのも仕方のないことなんだろうけど。
というか、私は千さんに頼った覚えなんて一ミリもないんだけどなぁ。うっかり零しちゃっただけで。それ以上に貴方に頼っているんだってこと、いまだにわかってもらえていない気がする。
「俺には何も言わないくせに、他の奴には言うんだ?」
「―――それを貴方が言いますか」
他の奴どころか、誰にも何も言わない貴方が。言おうとしない貴方が。頼ってほしい、と何度言われたかなんて覚えていませんけど、貴方だって頼らないじゃないですか。
―――グイッ
「ッ?!」
「貴方が何を隠しているのかなんて、わかりませんよ。はぐらかしている理由だって、推測しかできません」
「……」
「そんな二階堂さんに1ついいことを教えてあげます」
胸倉を引っ掴んで、顔をギリギリまで近づけて、でも笑顔なんて見せてあげません。甘い空気にだって持ち込ませない。どんな結果に転んでも、言いたいことをぶちまけるのならば今しかないと、本気で思ったんだ。
この人の心に響くかどうかはわからない。それでも少しでも、何か突き刺さってくれればいい…そう信じて。
「二階堂さん―――貴方は愛されています、社長に、万理さんに、紡くんに、そして何よりもメンバーに」
彼の眉がピクリ、と動く。
「どんな小さな声でもいい。貴方が一言、此処にいたいと言ってくれたら…それだけでアイドリッシュセブンは無敵になれるんですよ?」
のらりくらりとかわしてきた貴方が、アイドリッシュセブンにいたいんだと心から望んでくれたら…それだけで何にも負けない最強のチームが出来上がるんです。
完璧じゃない、強くもない。ですが、アイドリッシュセブンは決して弱くもありません。何度転んでも、突き落とされても、どれだけ時間がかかろうとも自分達で立ち上がれる力を持っているんですから。それが紡くんの愛した『アイドリッシュセブン』なんですから。
「…無敵?」
「そうです。貴方の過去に何があろうが、貴方がどんな人であっただろうが、それは皆さんにはあまり関係のないことなんですよ」
「……」
「だって今の貴方を好きで、愛しているんですから。―――ねぇ、二階堂さん。きっと皆さんは、どんな貴方が垣間見えても、どんな事情に巻き込まれようとも…嫌いになってくれないし、離してもくれませんよ?」
現に三月さんと六弥さんは、どんな二階堂さんが出てきても嫌わないであろう素振りを見せている。ただ単純にこの人のことを心配していて、わかりたいと思っているんです。もっと寄り添いたい、と。辛い時に傍にいたいと願っているんです。
「貴方だって―――メンバーが好きで堪らないくせに」
「……は、…ほんと、ミツと縁には敵わねぇよ」
「抱きしめましょうか?」
ふっと緩んだ二階堂さんの表情。眉間にシワは寄っているけれど、眉はハの字になっていて今にも泣き出してしまいそう。私の言葉が1つでも彼に届いた証拠、と思ってもいいのかな。
それをからかうように紡いだ言葉に、二階堂さんはようやく笑みを浮かべてお願いする、と私の肩口に顔を埋めた。背中側に腕を回して、頭を抱え込むようにしてぎゅっと抱きしめると、少しずつ彼の体から力が抜けていく。…でもちょっと重いですよ、さすがに。
(全てが解決したわけではない。むしろこれからが大変なんだろうけど、…それでも一歩前進だ)
このままの流れで二階堂さんが腹を括ってくれたら一番いいのだけれど、それは出来すぎた話だし、期待のしすぎだと思う。こればっかりは二階堂さん自身のタイミングとか、覚悟とか、そういうものが必要だから。
話したくないのならばそれはそれでいい、きっと…私が聞きたいのはそれではなくて、アイドリッシュセブンの二階堂大和でいたいという言葉だから。ここにいたいって気持ちだから。
「はー…ほんっと情けねぇ」
「私としては色んな二階堂さんが見れてラッキーですけどね。いい加減、一言くらい本音をぶつけたって罰は当たりませんよ」
「本音ねぇ…」
「話せないこと・話したくないことは無理をしなくていいと思います。でも、…貴方の気持ちだけは、隠さないであげてください」
苦しいとか、辛いとか、助けてとか、ここにいたいとか、アイドリッシュセブンでいたいとか、そんな気持ちだけは隠さないで。飲み込まないで。貴方がそれを言葉にしてくれたら、どんなことをしてでも絶対に守ってみせますから。
「泣いたっていいんです。それが生きてるってことでしょう?」
「大人はそう簡単に泣けねぇだろ」
「まぁ、特に貴方はそうでしょうね。でも大人だから泣いてはいけないって法律、どこにもないでしょうが」
「お前さん…だんだん言うようになってきたね」
それだけ必死なんだってことにしてください。
「覚悟なんて、…ねぇんだ。ずっと後悔してた」
「―――それでも、アイドリッシュセブンを愛してるでしょう?」
「!…縁、お前さんは……」
「どうでもいいんだったら、貴方はとっくに全てを捨ててるんじゃないんですか?」
つき合いはまだ短いけれど、それでも二階堂さんがメンバーのことを、アイドリッシュセブンのことを愛してくれているというのは十二分に伝わっていますから。
ねぇ、二階堂さん…そろそろ、愛されることを怖がらないでください。愛することを怖がらないでください。貴方がどんな態度を取ろうとも、皆さんは貴方に笑いかけてその手を掴んでやりますから。