彼の決意を胸に秘めて
あの人の本音を垣間見たあの日から1週間程経ったある日―――今日分の撮影を無事に終えた二階堂さんが、寮に戻ると口にした。
この人はついに疲れで頭がイッてしまったのか、と本気で心配するくらい、私は驚いて。だってあの日、腹を括ったようには思えなかったし、少しだけ歩み寄れた気にはなっていたけれど、きっと全てが片付くまでにはもっと時間がかかるだろうと考えていたんだもの。まさかこんなにも早く、二階堂さんが決断するとは思っていなかったのです。
「あー…いい加減、逃げてばっかもいらんねーかな、と」
「…そうですか。では、チェックアウトしてから寮に送りますね。連絡はされました?」
「ん、さっきミツにしといた。話があるから、マネージャー含め全員集合させといてって」
二階堂さんの顔はとても複雑そうだ。辛そうな、それでいて帰れることが嬉しそうな…でもやっぱり、辛そうな顔に分類されるのかな。彼が何を、そしてどこまでお話するのかはわからない。だけどきっと、この人は皆さんの反応を怖がっているんだと思う。いくら皆さんがどれだけ二階堂さんのことが好きで愛しているんだ、と私が伝えても、それを目の当たりにするまでは信じ切れないと思うから。怖いと思ってしまうから。
(大丈夫―――貴方が思っているよりずっと、アイドリッシュセブンは貴方を必要としています)
貴方だって1/7の一欠けらなんですから。誰かが欠けても、それは成り立つことはない。それにもっと早く気がついていたら、ここまで拗れなかったんでしょうけど。
でも人は失くした時に初めてその大切さを知るものだ…もちろんそうならないことが一番いいんだけど、今回のことは二階堂さんにとっていい機会だったのかもしれないね。
「大和さんっ」
「ヤマさんおかえり!」
「…えっと、ただいま……?」
熱烈な歓迎を受けて、何故か疑問形で挨拶を返した二階堂さん。あまりの勢いにちょっと後退りしています。それを逃げるのでは、と思ったらしい四葉くんと六弥さんがガッチリ捕まえ、そのままリビングへと強制連行されていきました。そしてリビングから聞こえる賑やかな声と、おかえりの大合唱。うん、想像以上でした。ふふ、やっぱり愛されてるんだなぁ…あの人は。
ふっと落とした視線の先には、7人分とは思えない靴の量。男性ばかりの寮には不似合いのヒールは、マネージャーである紡くんのもの。それを差し引いたって、10人分はあるわよね?これ。
「TRIGGERとRe:valeだよ。ナギが呼んだんだ、何故か」
「あー…六弥さん、怒ってるんですね」
「それもあると思うけど、多分…大和さんに教えたいんじゃないかな」
教えたい?一体、何をだろう。
「大和さんを思って、これだけの人が集まってくれんだぞーって」
「!…それはいい薬ですね。これならば逃げたくても逃げられません」
「ははっだな!ほら、姐さんも早く上がってよ。聞いてくだろ?大和さんの話」
「あ、えっと……」
口ごもる私に三月さんは不思議顔。きっと二階堂さんも、メンバーの皆さんも、もちろん紡くんも私も一緒に聞くものだと思っているのだろうけれど…彼から帰る、と聞いた時にこうしようと決めていた。私はその輪に入らないでおこう、と。
確かに大事なお話だし、聞いてほしいって思っているのかもしれないことはわかってはいる。それでもこの場に『恋人である私』はいてはいけない存在だと思うから。何を言われようと、参加しないと決めていたんです。
「私は事務所に戻ります。二階堂さんを―――お願いします」
「あっちょ、…!」
三月さんの声を背中に受けながら、私は寮を出た。あとで怒りの電話がくるかなぁ…そうしたらどう言い訳をしようかなぁ、と苦笑を浮かべながら考える。
まぁ、実際に電話がきたら考えればいいだろうか。本当にくるかどうかなんてわからないし、話し疲れてそのまま眠ってしまうかもしれないしね。むしろ、そうなってくれた方が都合が良いのだけれど。私的には。今日くらい、二階堂さんが心穏やかに眠れればいいと、そう思っているから。
「―――おかえりなさい、二階堂さん」
誰にも聞こえない呟きは、そっと風にのって消えていった。