聞きたくて、でも聞けなかったこと


「大和くん、縁さん。今日の夜って時間ある?」


事の始まりは、万理さんのこの言葉。珍しくスマホとにらめっこしてるなぁ、と書類整理をしていたら、そんなことを聞かれた。ソファで台本を読んでいた二階堂さんと思わず顔を見合わせてしまう。
何か急な仕事でも入ったのだろうか、夜は何も予定が入ってないから即座に頷くと「じゃあご飯行かない?」と若干、眉を下げて彼は笑った。





「何で万理さんが困ったように笑ったのかと思ってたけど…」
「こういうことだったんですねぇ」
「あはは…騙すような形になってごめんね?大和くん、縁さん」


ジト目で二階堂さんが見た先にいたのは、しれっとした顔でワインを飲んでいる千さん。その隣に座っているのは当然ながら百さんだ。ぶすっとしている二階堂さんを見て、彼も困ったように笑い、「ごめんね、大和」と言葉を紡ぐ。
どうやら千さんが誘っても二階堂さんは絶対断るだろう、と踏んだらしく、百さんと万理さんを巻き込んだ…ということらしい。まぁ、確かに千さんと二階堂さんはアイナナの子達のように仲良し!という雰囲気ではないけれど、今では少し歩み寄っていると思うんだけどなぁ。二階堂さんも。自分自身でずっと隠していたことを皆さんに話したわけだし、千さんを邪険…というと語弊があるけれど、意図的に関わろうとしなかった姿勢も変わりつつあるから。素直に千さんから誘ってあげればいいのに。


「僕が誘ったんじゃ君は来ないだろう?」
「別に、……行きますよ、アンタからの誘いでも」
「本当?じゃあ今度は誘ってみようかな」


お、ちょっといい感じに動きそう。無理に仲良くなる必要はないと思っているけれど、歩み寄れるのであればそうしてもらった方が私も嬉しい。
2人のやり取りにひっそり笑みを浮かべ、サラダを口に運ぶ。


「良かったね、縁さん」
「!…はい」


万理さんは何でもお見通しみたい、私が何を考えて思っていたのかも全て。私達のやり取りを見ていたらしい百さんが、グラスを傾けながらも首を傾げているのが視界に入った。お酒を飲んでいるのは全然いいとして…どうして首を傾げていらっしゃるんだろう。そして何でそんなに不思議そうな顔…?
何か変なことを口走っただろうか?でも万理さんは至って普通だし、キョトンとしている百さんを見て首を傾げていらっしゃる。…あの、百さんも万理さんも何故成人した男性なのに、首を傾げている姿がとてつもなく可愛いんですか。ちょっとこれは写真に撮りたいけど、万理さんにすごい勢いで断られそうなので止めておこう。


「百さん、どうかしたんですか?」
「ん?ん〜……バンさんと縁って仲良いよなぁ、と思って」
「そうかな?」
「はい。なんか、…つき合い長そうっていうか、お互いのことよくわかってそうっていうか」


ああ、成程…だからあんなにキョトンとした顔してたのか。


「一応、この子が歌手だった頃のマネージャーだからね俺」
「……えっそうだったんですか?!でもスタジオで会ったことないですよね?!」
「マネージャーっていっても、形だけだよ。スケジュール管理が主だったから」


そうなのです。ライブの時はウチの関係者しかいないから万理さんも来ていたけれど、歌番組の収録・雑誌やドラマの撮影の時は万理さんではなく社長が来ていたのだ。だからあの頃、周りの人は社長はマネージャーっていう認識の方が強くて…社長だって言うとものすっごく驚かれていたんだっけ。いや、そりゃそうだよね。普通、社長はマネージャー代わりに現場来たりしないって。それを疑問に思い始めたのは、休止宣言を出した後だったけれども。
そして万理さんが頑なに現場へ行くことを断っていた理由を、知ったのも最近だ。知らなかったとはいえ、当時はひどいことを言ってしまったなぁ。もちろん理由を知った後に謝ったものの、罪悪感は少なからず残るものなのです。


「万理さんと姐さんのつき合いって、ここ1年くらいかと思ってたけど違ったんだ」
「そうですね、中学時代からなので…かれこれ5年くらいでしょうか」
「へぇ……」


あれ?ちょっと不機嫌…?


「そういえばさ、聞いてみたかったんだけど…」
「どうしたの?百くん」
「縁の恋愛遍歴!」
「ごふっ」
「うわっ大丈夫?縁さん!それに大和くんもお酒零れてる、零れてる!」
「あっ」


思わぬ爆弾発言に私は盛大に吹き出した。そして噎せた。隣に座っていた二階堂さんもお酒を零したらしく、万理さんがせっせとテーブルを拭いています。すみません、雑用みたいなことをさせて…!本来なら私がするべきでしたよね、本当すみません。
というか、何故に私の恋愛遍歴なんぞが気になるのですか百さん。


「縁ってそういう話しないじゃん?1回、聞いてみたかったんだよね」
「女子ですか貴方は…!」
「いやいや、男の子でもこういうのは興味あるからね?大和も気になるよね?」
「えっ…いや、俺は…」
「モモ、普通は恋人の恋愛遍歴って知りたくないものじゃないの?」


千さんの言葉に百さんは口を大きく開けて、「あっ!」と叫んだ。うん、この顔は今の今までその考えが頭になかったことを表してるわね。時々、抜けてるんだよね百さんって。そういう所も魅力の1つなんだろうけれど。
よし、これでこの話は終了―――すると思ったんだけれど、でも気になるんだよ〜と百さんが項垂れていた。いや、諦める気ゼロなんですか。貴方は。


「恋愛遍歴って言われても、…私、全くないですよ」
「そうなの?じゃあ大和が初めての恋人?」


ここ、個室で良かった。


「………まぁ、そうなりますよね」
「姐さん、それ初耳なんだけど…」
「言ってないんですから当然でしょう。…恥ずかしいじゃないですか、この歳で初めて恋人ができたなんて事実」
「いや、そんなことないでしょ。でもマジか…俺が初めてなの、お前さん…」
「わー、大和が嬉しそうだよユキ!」
「そうね」


両手で顔を覆った二階堂さん。でも隠れていない耳が赤くなっていたので、きっと照れていらっしゃるのだろう…うん、何か私までじわじわと顔が熱くなってきちゃったんですけど。どうしよう、すっごく恥ずかしい…!
とりあえず飲み物でも飲んで落ち着こう、と思っていたのに、二階堂さんが耳元で「絶対大事にする」とか囁いてくれちゃったもんだから、熱はまだまだ引きそうにありません。
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