枯れた花はもう咲かないなんて誰が言った?
週に一度、事務所に届けられたファンレターやプレゼントを引き取りに行く。都合が合えば7人全員で引き取りに行くんだけど、有難いことに仕事が増えてきた今となっては7人揃うことがとても珍しいことになっているんだなーこれが。というか、引き取りに行く頻度も減ってるんだよね。
有難く嬉しい反面、やっぱりちょっと淋しいと思う部分もあるわけで。特に陸なんかはこの前、夕飯時に人数がまばらな光景を見て「淋しいなぁ」とポツリと呟いていた。昼と夜は仕方ないとしても、朝すら全員揃うことすら少なくなってるからなぁ。余計なんだろう、そう思ってしまうのは。
side:三月
「ミーツ、ボーッとしてるとドアにぶつかるぞ」
「え?あ、うわっ」
「良かったな、寸前で気がつけて。…お疲れーっす」
大和さんが声をかけてくれたおかげで、オレは何とか事務所のドアに顔面をぶつけるのを免れた。つーか、事務所についていたことすら気がつかなかったとか…どれだけ思考に耽ってたの、オレ。歩きながら考え事をするのは危ないな、やめておこう。
両頬をパンッと叩いて気合を入れ直し、大和さんを追うように中へ入るとそこにいたのは万理さん1人だけ。マネージャーも姐さんも、今日は揃って現場へ出ているらしい。まぁ、そうだよなぁ…オレ達の仕事が増えるってことは、2人の仕事も増えるってことだもんな。こうなるのは当たり前か。
「お疲れ様、大和くんに三月くん。休みなのにごめんね」
「大丈夫っすよ。むしろ、しばらく引き取りに来れてなくてすみません…」
「あはは。謝ることはないよ」
「今回はどのくらいっすか?2人でいけますかね?」
「うーん…」
万理さんが苦笑を浮かべながら首を傾げたもんだから、これはきっと何往復かする必要があるやつだなって理解した。最悪、事務所の車を借りるかなー。一気に詰め込めるならそっちの方が効率いいだろうし。
でもそれだけの量のファンレターやプレゼントが届くって、やっぱり嬉しいし有難い。自然とニヤケてしまう顔をキャップのツバを下ろして隠し、保管している部屋へと移動した。そこに置いてあったのは大量の段ボールだった。
おお…これは、うん…そりゃあ万理さんも苦笑を浮かべるわ。予想以上の量だった。
「これは…予想以上だな」
「嬉しいけどな。でも2人で運ぶのには限界があるし、車借りる?」
「その方がいいな。万理さーん、事務所の車って借りれますー?」
あ、すげぇ。今回もちゃんとメンバー毎に分けられてる。またマネージャー達でやってくれたのかな…仕事の合間に。何かの拍子にその事実を知った時、ごめんなって、ありがとうって伝えたら、これが自分達の仕事だから謝る必要はないんですよって笑ってたんだっけ。姐さんも薄く笑って、そんなに気遣わなくていいんですよって言ってたんだよなぁ。
そうなのかもしんないけど、やっぱり2人にも無理してほしくはない。もちろん万理さんにも。だからせめて感謝の気持ちだけはって思って、引き取りに来た時に必ずありがとうって伝えるようにしてるんだ。ただの自己満足かもしれないけど。
「あーっと、…」
「もしかして出払っちゃってる感じですか?」
「そうなんだよねぇ…今日は紡さんも縁さんも現場だから」
「あはは、ですよね。2人がいない時点で気がつくべきだった…大和さん、頑張るしかなさそう」
「……マジかー」
半月分のファンレターとプレゼントは、段ボール計12個。車でも恐らく、ギリギリのラインであろう数を地道に運ぶのは骨が折れること間違いなしなのだろうが…中身が元気をもらえるファンレターなどだから、運びたくねー!とは思わない。疲れはすると思うけど。
マネージャーか姐さんが戻ってくるのを待ってもいいんだけど、時間通りに終わるわけじゃないしな。それに帰ってきた所に車のキー貸して、と言ったら、2人共、絶対に手伝いますって申し出てきちゃいそうだから。そうなる前にある程度は運び終えてしまいたいのだ。仕事増やしてどうすんだよって感じじゃん?しかも笑顔でやってのけちゃいそうだから、余計に。
「…そういえば、姐さん元気ですか?」
「どうしたの?急に」
「いや、何となく……?」
顔を全く合わせてないとか、元気なさそうに見えたとか、そういうわけじゃないんだけど…ちょっと前に大和さんが、何というか元気なさそうだったっていうか考え事しているように…見えたから。だからもしかして、姐さんに何かあったのかなーって。…なんて、言えるわけもないので誤魔化します。ごめんなさい、万理さん!
あんな返答で誤魔化せたのかはわからないけど、万理さんはさして気にした様子もなく元気だよ、と教えてくれた。そっか、元気なのか…大和さんも今は何か考え込んでる様子もねぇし、彼女関連じゃなかったのかな。もしかして。
「あ…そうだ、ちょっといいかな?2人共」
「うん?なんすか、万理さん」
「縁さんから言伝があって…近々、社長からも話はあるんだけどさ」
「え?」
「姐さんから?」
姐さんからの言伝って時点でビックリだし、かなり珍しいことだと思う。そして近々、社長から話があるって…え、なに?怖いんだけど。一瞬、大和さんと姐さんが結婚すんのかとか思ったけど、それだと大和さんにまで言伝頼んでるのはおかしいし、この人がビックリしてんのもおかしい。よって違う、と。
つーか、さすがにまだそこまでいかねぇか…つき合い始めてまだ数ヶ月だもんな。それで俺達、結婚しますーってなったらそれはそれで大事件だわ。…喜ぶけど。何ならウエディングケーキとか張り切って作っちゃうけど。
うん、話がどんどん逸れていくから万理さんの話に耳を傾けよう。実はね、と続いた万理さんの言葉に、俺と大和さんは口をあんぐり開け、それはもうすっぱ抜かれたら笑いものになるだろうってくらいのマヌケ顔を晒した。でもそれを気にしている余裕なんてないし、それくらい衝撃的だったとしか言いようがない。だって、だって…!
「姐さんが……ステージに?」
「それって久遠として活動再開するってことですか?!」
「再開っていうと語弊があるんだけど、きちんと幕を下ろしたいっていうのが彼女の意見」
「幕を下ろす為の、ステージ…」
「うん。もう一度、ステージに立ちたいって…彼女の本音、聞いたのは久しぶりだった」
後ろ向きな理由かもしれない。でも俺は、姐さんらしいって思ったんだ。超がつくほど真面目な姐さんらしい理由だ、って。
どんな理由で表舞台を去ったのか、俺は―――俺達は何も知らないけど、それでも姐さんのことも久遠のことも大好きだからさ?彼女がステージに立つっていうなら、どうにかして力になりたい。支えになりたい。作り上げられるステージを、絶対に成功させてやりたいんだ。