敵わないと思った
―――縁をからかってるって、本当にそう思ってるワケ?
不意にあの時の言葉を思い出して、思いっきりデスクに伏せたら額を盛大に打った。今日は万理さんも広報の仕事で外出中で、紡くんは言わずもがなアイドリッシュセブンのメンバーの付き添い。7人揃っての仕事だし、収録が1本だけだから、と私はお留守番です。電話番もいた方がいいしね。
なので、さっきの失態を見ている人は誰もいないということだ。
(さすがに思っていますよ、なんて返し…彼の機嫌を損ねるに決まってるじゃないか〜〜〜!)
しまった、と思った時にはもう、言葉は口から零れ落ちていてどうにもならなかった。二階堂さんは一瞬だけ悲しそうな目をしたけど、すぐにいつも通り。帰りの車の中も普通に見えたけど、でもやっぱりどこか雰囲気がピリピリしているような…そんな印象を受けた。原因は完全に私の一言ですけどね!今更後悔してももう遅い、後の祭りってやつなんだけど。
謝ろう、とも考えたんだけどね、どう謝ったらいいか・どう切り出したらいいのかがわかんなくて、結局そのままただ時間だけが過ぎていく、というパターン。
「…馬鹿にも程がある」
「なーに落ち込んでんだ?姐さん」
「〜〜〜〜っ?!?!?!」
悲鳴を上げそうになって、でもそれはさすがにマズイ!と直感で思って、慌てて口を塞ぎました。あ、若干涙目になってる気がする…というか、誰?!後ろから声掛けてきたの!聞いたことのある声だったな、と頭の片隅で思いながら振り向くと、そこにはちょっとだけ驚いた表情をした二階堂さんが立っていらっしゃった。まさかのご本人様登場ですか!
というか、この人、普通に声をかけてきませんでしたか?!何か言わなきゃ、と思うのに、全くと言っていい程に言葉が出てこなくてただひたすら口をパクパクさせてたら、二階堂さんが口元押さえてプルプル震え始めました。下を向いちゃってるから顔が見えなくてすごく不安なんですけど、……あ、もしかして笑ってる?
「く、くくくっお前さん、金魚とか鯉みたいになってたぞ…?!」
「自覚はありましたけど!そこまで笑う程でした?!」
「いやー、普段の姐さんからじゃ全く想像できない姿を見せてもらったわ〜」
「……腑に落ちませんが、楽しんで頂けたのなら良かったです」
もうこうなったら開き直ってやる。だってきっと、二階堂さんには口じゃ勝てないし。こういう時、年上というのはズルイなぁ、と思ったりもするけれど。
「思っていたより早く終わったんですね。お疲れ様です」
「おー。姐さんもお疲れ」
「他の皆さんはどうされたんです?」
「マネージャー巻き込んで寮に帰ったよ。パーティーするんだと」
「パーティー?」
何故にそんなお話に。ぽかん、としていると、何でも今日の収録が上手くいって次の仕事に繋がった―――ということらしく、テンションが上がりに上がった六弥さんや四葉くんが「パーティーしよう!」とメンバー+紡くんを巻き込んだ…らしいです。まぁ、今日の仕事はその上手くいった収録のみなので構いませんけど。紡くんもいるならそこまで羽目を外したりしないでしょうし。たまに紡くんもおかしなノリになっちゃうけどね。
…ん?だったらどうして二階堂さんは事務所に来たんだろう?そのまま皆さんと一緒に寮に戻って何も問題はないはずなのに。忘れものでもした?でも午前中に掃除をした時は、何もなかったし…もちろん、寄ってくださいなんて連絡をした記憶もない。はて?本当に何故、こっちに来られたんだろう。
―――ぽん、
「マネージャーから姐さんの元気がない、って聞いてさ。謝りに来た」
「謝りに…?」
「ほら、この前変なこと言っちまっただろ?それ」
「あっ…あれは別に!というか、謝るなら私の方で…!」
事の始まりは二階堂さんだったけれど、それで彼を傷つけたのは私だ。二階堂さんが謝る必要なんて、万に一つもない……とは言い切れないけど!
ああもうっ何か頭の中めちゃくちゃになってきましたよ?!
「…っすみません、でした。あの言い方はさすがにないな、と自分でもドン引きしました」
「ドン引きって…」
「謝ろうと思っていたんですが、きっかけが掴めなかったのとどう言ったらいいのかがわからなくて、今に至ります」
「んー…じゃあ、喧嘩両成敗ってことにするか」
これでこの話は終わりな、と言って笑う二階堂さん。そのまま頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。子供扱いされているみたいであまりいい気はしないけど、でも何でだろう…この人にされるのは、心地いいと思ってしまう。
されるがままでいると、彼がそういえば、と口を開いた。
「謝りに来たのも本当だけどさ、お誘いに来たんだわ」
「何のです?」
「さっきも言ったろ?パーティーする、って。お前さんもおいでよ」
「え…」
「タマとリクとナギが姐さんもーってうるせぇんだわ」
ああ、成程。それでついでにお誘いに…それはとても嬉しいのですが、さすがに事務所を長く無人にするのは気が引ける。まだ17時を少し過ぎた辺りだし、万理さんは戻ってこない予定なんだよね。
事務員としては17時が退社時刻ではあるのだけれど、芸能界というのはいつ電話がくるかわからない業界なわけで。できることならもう少し粘りたい所ではあるのです。どうしたものか、と返事を返せないでいると、はいはい行くぞ〜とパソコンシャットダウンされた。
「あっちょ!二階堂さん!!」
「お前さんは根詰め過ぎなんだって。マネージャーもだけど。あ、ちゃんと保存してから消したから心配すんな」
「そうなんですか、ありがとうございます…じゃなくて!」
「確かにこの業界は時間関係ねーけど、ずっと張り付いてもいられないだろ?」
「それはそうですけど…」
パソコンシャットダウンされちゃったし、それにNO!って言っても無理矢理連れて行かれそうだし、これはもう諦めて行ってしまった方が早いかもしれません。うん、腹括ろう。
デスクの上に出していたスケジュール帳や筆記具をしまい立ち上がると、また二階堂さんに頭を撫でられた。この人…人の頭を撫でるの、クセなんだろうか。気にはなるけど、わざわざ聞くことじゃないしなぁと思って口を噤む。
「うし、じゃあ行きますかー。忘れもんはないか?」
「大丈夫です」
「―――話を戻すんだけどさ、」
しっかり鍵をかけて歩き出した所で、二階堂さんがやけに真面目な声を出した。話を戻すけど、って言ったけど…どこまで戻すんだろう?そもそも話が途中になっていたこととか、あっただろうか。
うーん?と考えてみたものの、全て話は完結していたように思う。一体、何のことを言っているのだろうと考えつつ、二階堂さんの言葉を待ってみる。こういう時は話してくれるまで待っていた方がいい、と学んだ。
「変なこと言ったのは謝るけど、嘘ではねーんだわ」
「?」
「俺、姐さんのことからかってるつもり…これっぽっちもないから。そこだけは信じてくれねぇ?」
からかって、ない………?
「そ、…」
「ん?」
「それはそれで大問題ですよ?!」
「ははっ俺は問題ないしなぁ」
ありますよ!ありまくりですよ!!何言ってんだこの人!!!