君へ向ける密かな恋情


「大和さんってさ、姐さんのこと好きなのか?」
「…は?」


未成年の子供組が部屋に戻った後、何となしにリビングにいた俺は同じようにリビングにいたソウとミツを道連れに、酒を飲んでいた。
そこで告げられたミツの一言に、俺はただただ言葉を失った。


 side:大和


こう言っちゃ何だけど、俺は顔に出にくいタイプだと思う。出にくいっつーか、出ないようにコントロールしてるっつー方が正しいか?だから姐さんへの密かな想いも、メンバーには絶対にバレないようにしていたつもりだったんだけど…ミツは大した観察眼をお持ちだからな〜下手するとバレるかも、とは思っちゃいたが、案の定か。
とはいえ、バレたからといって何も支障はねぇんだけど。ミツもソウも自らバラしにいくような奴じゃねぇの知ってるし。うん。


「僕ももしかして、とは思ってたんですが…確証なくって」
「んで?ほんとのとこどーなのよ、大和さん!」
「なにこれ。お兄さん、辱めの刑でも受けてんの?」


おーっと、ソウにも勘付かれてたかー。まぁ、バレないようにしてたとはいえ、結構構いに行ってるからな。勘付かれても当然か。これだとイチとナギ辺りにも気がつかれてっかな。


「そういうわけじゃねぇけどさ、大和さんって普段から自分のこと話さないじゃんか」
「それなのに僕達の話はちゃんと聞いてくれるでしょう?」
「だから話せってか?」
「話せるんなら聞きたいかなー」


話せるなら、ねぇ…?話せないわけじゃないし、話したって何も変わんねぇだろうけど…なんだろうなー、この気恥ずかしさみたいなの。確かにミツの言う通り、自分のことを話すことってほとんどなくって。聞かれたわけでもないからいいかな、って思っている部分と、話す必要なんかねぇだろ、と思っている部分が俺の中にはあって。だからこそ、余計に話さなくなっているんだろう。
今となってはもう少し歩み寄ってもいいかもな、と思えるようになったものの、意外と恥ずかしいだろ?自分のこと話すのって。それもあるし、…大っぴらに構いにいってはいるものの、俺が好きになったのは自分が所属する事務所の事務員兼マネージャーだ。どう考えたって好きになったらダメな相手なんだよな。

(こいつらのことだ。何だかんだ言ったって、最終的には受け入れてくれるんだろうけど…)

それでもやっぱり、知られない方がいいことなんて山ほどある。この気持ちだってその中の1つだ。本当だったら姐さんにもバレないようにして、それで一生を終えた方がいいに決まってる。けど、…


「―――そうね。好きだよ」


どうしようもないほど、あの子を丸ごと手に入れて攫ってやりたい衝動に駆られる。俺達を誰も知らない場所に逃げて、たった2人で―――なんて、そんな馬鹿げたことさえ考えてしまうんだ。…ま、そんなことしたらあの子はきっと怒るんだろう。何を考えているんですか、ってさ。
俺だって何を一番優先するべきかなんて、ちゃんとわかってる。わかってるけど、だからこそ反発したい時もあるんだよなぁ。矛盾、っつーか、そんなの間違ってるんだろうけど。


「…そっか」
「うん」
「でも意外です。大和さんって、あまり他人に深入りしない人だと思っていたので」
「いや、間違ってはいないぜ?適度な所で止めといた方が、何かと楽だろ」


深入りしていいことなんて、1つもない。あー、これも矛盾してんなぁと苦笑が漏れる。


「ずっと思ってたけどさ、大和さんと姐さんって似てるよな」
「…は?」
「それ、ちょっとわかります。2人共、一線引いてるといいますか…踏み込まれないようにもしてますよね」
「姐さんも?」
「どっちかっつーと、今は姐さんの方がそれは強いかな。ほら、初めから一定の距離保ってるし」


まぁ、俺達は仕事仲間だから、必要以上に踏み込むことはしなくていいとは思ってるけど。…ああ、でもそうか。つき合っていくうちに放っておけねぇな、と思い始めたのは、自分と似ているからか。
時々見せる冷めた目とか、一定の距離を保って何もかもをシャットダウンしようとしている所とか、そういうのが少し前の自分と重なるから。俺だって完全に変わったわけではないけどさ。それでも今思うのは、もう少し…もう少しだけ彼女に近づけたらいいのにってことで。


「俺と姐さんがねー」
「だからなんだ、って感じだけど、やっぱ一緒に仕事してるんだし…もう少し向こうのことも知りたいって思うんだよね」
「縁さんもあまり自分のこと、話しませんから」


出会ったばかりの頃を思えば、まだ距離とかそういうもんは近づいたようにも思えるけど。でもまだ姐さんはどこか、俺達と深く関わらないようにしているなっつーのは、薄々感じてる。こっちが近づこうと一歩踏み出せば、あの子は無意識に後退してんだよな。それはまるで来るな、と言われているようで…だからこそ、ますます放っておけなくなる。
その対象は俺達だけではなく、家族で、姉妹であるはずのマネージャーにも向いている気がしてならない。くん付けで呼んでいるのも、その線引きの一つなんだろう。何が彼女をそうさせてんのかは見当もつかねぇけど、…いつか―――壁をぶち壊せる日が来るんだろうか。

なんて、同じようなことをしている俺が言えたことでもねぇよな。
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