幼なじみの特権
臣くんに瑠璃川くんが連絡先を知りたがっている、と聞いた。教えても問題はない、と判断して連絡先を書いた紙を託しました。ええ、確かに私の意志で託しましたとも。手伝いをする劇団の一員ですからね、断る理由もないですよ。可愛い男の子だったし。可愛いは正義!
…って、そんな話がしたいわけではなくて。そんな経緯で連絡先を渡したまではいい、更にその日の夜に瑠璃川くんから連絡がきたのもいいでしょう。私が問題だと思っているのは、その内容です。
『裁縫、得意なんだって?衣装作り、手伝ってよ』
これです。可愛い瑠璃川くんから届いたメッセージ。
先に言っておくけど、私は彼に裁縫が得意だなんて言った覚えは一言もない。断じてない。この前の顔合わせの時は、ほとんど冬組の人達と話してたから忘れてるってわけでもないのだよ。なのに、瑠璃川くんは知っている…何故だ。
そこまで考えて、連絡先を書いた紙を渡した時に臣くんが悪いな、と謝っていたことを思い出したのです。理由を聞いてもそのうちわかるよ、としか言ってくれなくて、首を傾げるしかなかったんだよね。もしかしなくてもこれか!これが謝罪の理由か、アイツの!!きっと何かの拍子にポロッと言ってしまったんだろう。…いいけど、もう済んだことだし。
というわけで、私は劇団員兼衣装係でもある瑠璃川くんの手伝いをすることになったのです。でもひとつ訂正しておくと、決して裁縫が得意なわけではない!人並みにはできると思うけど、絶対に足手纏いにしかならないと思う。ここに断言しておこう、すぐに手伝いはクビになると。
「…と思っていた時期が私にもありました」
「何ブツブツ言ってんの?それ終わったら、こっちもお願い」
「はいはい」
早々にクビになると思っていたのに、そんなことはなく、もうすぐ衣装は完成間近です。マジか。
「馬鹿犬、できた?」
「バッチリっす!どうっすか?幸チャン!!」
「……うん、これなら合格かな。次、これ縫い付けておいて」
「はいっすー!」
「太一くんが裁縫できるとは意外だ」
「最初はボロボロだったよ。目も当てらんないくらい」
へぇ…でも見た感じ、かなり綺麗に縫えている。厳しい瑠璃川くんが合格って言うくらいに。
きっとたくさん練習したんだろうなぁ。太一くんは努力を惜しまない子だから。GOD座にいた時も何事にも一生懸命で、キラキラ輝いてたもん。与えられる役に名前がなくても、セリフがたった一言でも、太一くんの演技に魅かれていた。素敵だと思っていた。
そしてそれは決して間違っていなかったと確信したのは、秋組の旗揚げ公演。目立つ役ではなかったかもしれないけど、彼が喋る度に、演技をする度に、見入ってしまっていたのは本当なのです。
「それで瑠璃川くん、進捗はどうなの?」
「間に合うに決まってるじゃん」
「ですよねー」
「アンタも意外と役に立ったし、助かった。…ありがとう」
「幸チャンが素直っすよ…!」
「うるさい馬鹿犬!さっさと縫い付けろ!!」
どうやら瑠璃川くんはツンデレ属性、というやつらしい。太一くんに言われて顔を真っ赤にしている彼は、やっぱり可愛い。クスクス笑いながらミシンを動かし、あっという間に頼まれたものは出来上がりです。
出来たよ、と瑠璃川くんに確認をしてもらうと大丈夫、とお墨付きを頂くことができましたー!
「あとはオレと太一で大丈夫だから」
「ん、そっか。じゃあ私は帰るね」
「はいっす!気を付けるっすよ、はるチャン。談話室に臣クンがいるから送ってもらったら?」
「いや〜…毎度毎度、送ってもらうのもね」
「いいんじゃないの?オカンが望んでやってることでしょ」
臣くんがオカン…それは言い得て妙だな。確かにアイツの世話焼きっぷりを思うと、オカン属性かもしれない。料理も上手だし。
送ってもらうかどうかはひとまず置いておいて、談話室には顔を出そう。瑠璃川くんの部屋を出て、真っ直ぐ談話室へ。ドアを開けてそっと中を覗くと、そこには臣くんだけがいた。他の人は自室かな…春組は稽古中かもしれないけど。
「お疲れ、はる。ひと段落ついたのか?」
「うん。あとは仕上げだけだから、2人で大丈夫なんだって」
「そうか。腹減ってるか?お茶漬けならすぐできるぞ」
「……食べる」
このまま帰る気でいたんだけど、臣くんのお茶漬けに負けた。同時にお腹もぐう、と音を立てて鳴ったので、認めざるを得ない状況。臣くん、笑うなら声出して笑いたまえ。肩を震わせて静かに笑ってるんじゃないよ。思いっきり笑ってもらった方が、こっちとしても気が楽だよ。
むぅ、と頬を膨らませて椅子に腰を下ろしたけど、すぐに私は子供か!と頭を抱えたくなった。笑われて怒って、それで頬を膨らますとか…完全に子供がやることだよね。仮にも成人した大人がやることじゃないよね(一応、まだ学生だけど)。テーブルに置いた腕に顔を半分埋めて、キッチンでお茶漬けを作ってくれてる臣くんをじーっと観察。
(やっぱりカッコイイよなぁ…私の幼なじみ)
何をしてても様になるって最早、ズルイと言える次元だと思うの。私が小さい頃から臣くん以外の男性に目を向けられないのは、このカッコ良さが原因だと思うのね。もちろん、彼に恋してるからっていう理由が第一だとは思うんだけどさ。
でもほら、よく言うじゃない。幼い頃に抱く恋心はただの憧れだ、って。でも私の場合、憧れなんてものじゃなかった。幼いながらに本気で恋をして、現在進行形です。バッチリ拗らせてます。拗らせすぎだろ、とツッコミはしないでください。私が一番わかってるからそれ!
ごちゃごちゃと考えつつ、相も変わらずじーっとキッチンに目を向けていたら、いつの間にか目の前に小さな茶碗と蓮華が置かれていました。
「臣くん、私の知ってるお茶漬けってお茶をかけるだけのものなんだけど…」
「至さんの夜食用に作った出汁が残ってたんだ。嫌いか?」
「いや、臣くんが作るもので嫌いなものなんて一個もないけどさ」
「ははっそれは嬉しいなぁ」
「いただきます…」
「どうぞ、召し上がれ」
冷ましながら少量を口に入れると、ふわりと出汁の香りが広がってなんかホッとする。んー…美味しい。そしてあっという間に完食しました。
「おばさんには?連絡したのか?」
「ちゃんとしてあるよ、大丈夫。遅くなることも言ってあるし」
「ならいいけど。…免許持ってれば家まですぐ送ってやれるんだけどな」
「…平気だって。アンタはちょっと過保護すぎ」
「はるが面倒事に巻き込まれやすいのがいけない。過保護にもなるだろ」
それを言われちゃうとぐうの音も出ないんだけどね。でも臣くんに心配されるのはやっぱり嬉しかったり、するんです。その間だけは私のことだけを見てくれるから。
ちょっと性格悪いかな、と思わないでもないけどな。