寄り道しましょ
講義が少し早めに終わり、サークルの活動もなかった私は散歩がてら本屋に来ていた。課題で必要な本を探すのが一番の目的だけれど、何の目的もなくぶらぶらするのも割と好きで。
昔から本屋や図書館に行くのが好きだったんだよなぁ…実家が古書店をやっていたのも理由のひとつなんだろうか。ずっと本に囲まれて生きてきたから、何か落ち着くんだよねぇ。
目的の本も無事に購入した所で本屋を出ると、ポケットに入れていたスマホが短く振動した。リュックに本をしまってからスマホを取り出すと、万里くんからLIME。高校生ももう授業が終わったんだな〜と思いながら開いてみると、ただ一言『向かいのファーストフード』とだけ。
向かいのファーストフードがなに…?確かに道路を挟んだ向かい側にファーストフードはあるけれども。首を傾げるしかない私をどこからか見ているようなタイミングで、『首傾げてねぇで、向かい。顔上げてみろ』って次のメッセージが届く。ようやく顔を上げてみれば、窓際の席から手を振っている万里くんの姿が見えた。隣には同じように手を振っている咲也くんの姿もある…ということは、あの後ろ姿は真澄くんって所かな。
3人で寄り道だろうか。珍しいなぁ、と思いつつも手を振り返すと、出したままだったスマホが再び震えだす。多分万里くんからだろうなぁ、と見てみれば案の定でした。これまた簡潔に『こっち来いよ』とメッセージ。少しだけどうするか、と考えるけれど、もうあとは帰るだけだったし…夕食当番でもないから、いいかな。混ざっても。
今行きます、とだけ返信して、ファーストフードへ足を向けた。
「遥さん、こっちです!」
「よ、遥ちゃん」
「珍しいね、3人で寄り道なんて」
「……帰りに偶然会って、そのまま連れて来られた」
「ああ、なるほど。…いづみさんにLIME?」
「そう。でもなかなか返信こない…」
まぁ、うん…今日は確か、いづみさんは朝から他劇団のお手伝いに行ってるから。今は設営やら何やらで忙しく動き回ってるんじゃないのかなぁ。真澄くんが嫌いとか、面倒とかそういうことではなくきっと返す暇がないんだと思う。単純に。緊急の用件であればすぐ返信もくるだろうけどね。
真澄くんが少し奥に詰めてくれたので、有難くその隣に座ることにした。
「今日は臣や綴と一緒じゃねーの?」
「ん?うん、一緒じゃないよ。というか臣くんは学部違うし、綴くんは学年違うから大学じゃあんまり一緒にはいないのよね」
「えっそうなんですか?」
「そうだよ。それぞれ友人と一緒にいることの方が多いし…ああ、食堂や図書館で顔を合わせることはあるけど」
これをカンパニーの皆に言うとビックリされるんだけど、何でなんだろうね?そんなに一緒にいるイメージあるの?私達。
「寮内だと臣と遥、よく一緒にいるからだろ」
「そこまで一緒にいるわけじゃないけど…寮内は大学みたいに広くないから、頻度は上がるけどさぁ」
自室にこもっていない限り、私は談話室にいることが多いし…臣くんも手が空いている時はキッチンで仕込みやお菓子を作っていることが多い。それを私が手伝っていることもあるし、同じ空間にいることは確かに多いとは思うけども。
でも毎日顔を合わせるようになったのって、私がMANKAIカンパニーに関わるようになってからなんだよなぁ。
「え、それは意外。頻繁に会ってるのかと思ってたわ」
「小中は一緒だったけど、高校は別々だったもん。家は隣だけど、私はその頃母の手伝いで店番してること多かったし…皆が思っているほどではないね」
高校時代は臣くん荒れてたしねぇ…那智くん達と一緒にいることが多かったし。たまにそこへ遊びに行ってはいたし、相手もしてくれてたけど…うん、でもやっぱり今みたいに毎日顔を合わせるってことはなかったなぁ。
そのくらいの年齢になると、何でもかんでも話すようなことはなくなっていたから葉星大学に入学したって聞いたのも入学式が終わった後だった気がする。
「寂しいとか、思わなかったの?」
「ぅえ?」
「だって毎日一緒にいた相手と、顔合わす時間減っていったんだろ?」
「えーあー………」
これは言葉に困ることを聞かれてしまった…温くなってきたカフェオレを口にしながら思考を巡らせる。
寂しいか寂しくないかと聞かれれば、寂しかったと思う。だけど臣くんにも大切にしたいものがあるのはわかっていたし、それをぶち壊す気なんてこれっぽっちもなかったし、笑っている臣くんが好きだったから。楽しそうに笑ってくれているのなら、別にいいかなんて思っていたこともある。
「へぇ…遥は全部欲しがるタイプじゃないんだ」
「……私は君がグイグイ聞いてくるタイプだってことを知って驚愕してるよ」
「遥さん、顔真っ赤になってます」
「言わないで、咲也くん。今、めっっっっっっちゃ恥ずかしいから」
「ははっ臣に送ってやろ」
「本気でやめようか万里くん?!」
というか、写真を許可なく撮ってるんじゃないよ君は!!スマホを取り上げてやろうと思ったけれど、ひらりと躱されてそれは叶わなかった。勝てるなんてこれっぽっちも思ってはいないけれどもだ!!!
結局、臣くんに写真は送られ…『何事だ?』ってLIMEがきたのは言うまでもない。