酔っ払いにはご注意を


課題を少しでも進めておこう、とパソコンに向かっていたら、スマホがピロンと音をたてた。こんな時間にメッセージがくるなんて珍しいな…誰だろう、と画面を見てみると、はるの友人である桜井からだった。
あいつの紹介で中学の時に知り合って、つき合いは今でも続いているもののあまり連絡を取ることは多くない。それこそ演劇サークル関連で時々頼み事のメッセージがくるくらいか。何かあったのか、と思ったけど、メッセージを見て頭を抱えた。

『ごめん。しのを引き取りに来てくれない?』

…うん、何やってんだ?あのバカ。昼休みに食堂で会った時、今日はサークルの飲み会だとか言っていた気がするが…まさか飲みすぎた?酔いつぶれて歩けなくなっているとすれば、桜井からヘルプのメッセージがくるのも頷けはするが。そしてそれを何故、俺に送ってくるんだ…幼なじみではあるけど、俺はあいつの保護者じゃないんだけどな。
眉間にシワが寄るのがわかったけれど、結局は無視をすることもできずに溜息を吐きつつ、店の場所を教えてくれと返信をしてしまう。なんだかんだ言いつつ、はるは大事な幼なじみだしな…放っておけないんだ。送られてきたURLにアクセスし、店の場所を確認してから俺は家を出た。
店自体は写真部や友人との飲み会でよく使われている場所だったから、すぐにわかったんだが…店に入って、やっぱり来なきゃ良かったかもしれないと半目になった。ほんっと何してんだ、はるの奴。

「おー伏見、こっちこっち」
「ごめんね、伏見くん…この通りでさぁ…」
「…どれくらい飲んだんだ、こいつ」

テーブルに突っ伏しているはるの両側にいたのは、さっき連絡をくれた桜井と俺と同じ学部の友人でもある橘だった。ため息交じりで声をかければ、2人は少し眉を寄せている。うん?何か、違和感があるな。
俺が首を傾げたのがわかったんだろう、橘がきょろきょろと周りを見回してから俺を手招きした。それはまるで誰かに聞かれないようにしているように見える。あんまりいい予感はしないな、と乾いた笑いを零しながら彼の横にしゃがみ込んだ。

「東雲の奴、この前成人したばっかだろ?それでお祝いだーつって、東雲のこと気に入ってる先輩達がしこたま飲ませちまったんだよ」
「…は?」
「こえぇって!さすがにやべぇって桜井とか俺とかが止めに入ったんだけど…」

他の先輩達も止めてくれたんだけど、飲ませてる先輩達ももう酔っぱらってるからしっちゃかめっちゃかになってなぁ…今に至る。
話を聞いているだけで頭がいてぇ。桜井も橘もごめん、って言っているけれど、お前らが謝ることじゃないと思う。止めようとしてくれたみたいだしな。
はる自身も拒否できない奴ではないはずだが、先輩相手だとどうにも強く出られなかったんだろうな…それは仕方ないことではあるし、責めたりもしねぇけど。

「帰れなかったら送ってあげるよ、ってその人達が言ってたんだけど、さすがにね…だから伏見くんを呼んだのよ」

ああ、そういうことか。桜井が言わんとしていることがわかってしまって、また眉間にシワが寄る。
幼なじみが信頼しているであろう先輩を疑いたくはねぇが、…ここまで酔いつぶれさせてその発言をしたんだっつーなら、良くないことを考えているって思っちまうというか…まぁ、不安はよぎるよな。確実に。それで俺が呼ばれたっていうなら…納得はできなくはねぇのか?

「ひとまず連れて帰るよ」
「うん、お願い。飲み会のお代は明日ちょうだい、ってメッセージ送っておくから」
「あ、俺立て替えておくか?」
「ううん、大丈夫。迎えに来てもらえただけで有難いから。…しののことよろしくね」
「おう」

抱え上げる前にはるに声をかけてみるけれど、案の定何の反応も返ってこない。こいつに限ってそんなことは言わないと思うけど、あとで目が覚めてセクハラだとか言うのだけはやめてくれ。声はかけたからな。
ゆっくり抱き起こしたはるの顔は、かなり赤くなっていた。見た感じ眠っているだけみたいだな…最悪のことを考えて病院に連れて行くか?と考えたけれど、そこまでではなさそうだ。

「伏見、これ東雲の荷物と上着」
「あ、悪い。ありがとな」
「いや。気を付けて帰れよー」

桜井と橘はそんなに飲んでいないのか素面に近いが、他の席の奴らはそこそこに酔っぱらっているらしい。この状態ならはるが抜けても問題ねぇだろうし、その辺はあの2人がどうにかしてくれるだろ。
体が冷えないよう、受け取った上着をはるに掛け、抱え直すと、固く閉じられていた瞼がふるりと震えた。

「…目ぇ覚めたか?」
「おみくん…?」
「良かった、認識はできるみたいだな」
「なんで…いるの…?」
「事情の説明と説教は明日な。そのまま寝てろ」

くしゃりと頭を撫でれば、安心したような顔でまた眠りについた。無防備な奴だな、相変わらず。
翌日、俺から事情説明と軽い説教を食らったはるは、もう無茶な飲み方はしない、と決めたらしい。

「……そんなこともあったんだよなぁ」
「臣?」
「いえ、こっちの話です。何でこんなに酔っぱらってるんですか、こいつ」
「美味しい日本酒が手に入ったから、遥も誘ったんだ」
「結構度数が高かったらしくてな…気がついたらこうなっていた」

丞さんと東さん、あと左京さんからすぐに談話室に来い、とメッセージがきたから何事かと思って来てみれば…そこには酔っ払いの幼なじみ兼恋人がいた。眠りこけてはいなかったが、紬さんの隣でにこにこ楽しそうに笑っている。
楽しそうなのはいいことだし、こいつの笑ってる顔も好きだけど…めちゃくちゃ酔っぱらってるんだよな…真っ赤じゃねぇか、顔。あと紬さんも酔っぱらってますよね、これ。
そんな彼女を見て思い出したのは、初めて酔い潰れたはるを迎えに行った時のことだった。あの時、もう無茶な飲み方はしないと言ってはいたが、限界値をイマイチ把握できていなかったらしくその後も2〜3回居酒屋で眠りこけたことがあるらしい。それ以降は本当に学んだらしく、飲みすぎることはなくなってはいたが……あ、いや、この前東さんと飲んだ時にやらかしたか。
まぁ、キス魔になるとか抱き着き魔になるよりかは、まだマシなのか…?………そうでもないか。眠りこけて起きないのも問題だよな。

「おみくんだ!」
「はいはい、走ると余計に酔い回るぞ。というか飲み過ぎだ」
「あずまさんのもってきてくれたお酒おいしいよ?」
「それは良かったな。今、水持ってくるからもう酒は終わり」
「えー…もうすこしのみたい…」

ぶすくれてもダメなものはダメだって。これ以上飲んだらまた突然寝落ちるだろうが。

「ふふ。遥は酔っぱらうとふわふわするんだね、普段より少し柔らかい感じかな」
「雪白は前にも酔っぱらった所を見たことあったんじゃねぇのか」
「あの時とは違うかなぁ。普通に喋ってたと思ったら、急に眠り込んじゃったから」
「それはそれで問題ですね…伏見は酔ってる東雲の扱いに慣れてるみたいだが」

くっついたまま離れなくなったはるを抱き上げて、冷蔵庫から水を取り出しているとそんな会話が聞こえた。
振り向いてみれば、はるに比べればまだまだ意識のハッキリしている丞さん達の視線がこっちに向いていて少しだけビックリする。会話の流れ的に見られてるんだろうな、とは思ったけど、ビックリするものはする。

「慣れてはいないですよ。こいつと飲んだこと2回くらいしかないですし」
「そうなのか?」
「はい。サークルも学部も違うんで、飲みに行く機会はあんまり…俺もこいつも自分から進んで酒を飲むタイプじゃないのもありますけど」

だから酔っぱらった状態のはるを見るのは、そう多いことじゃない。話には聞いてたけど、大体は寝落ちてるって話だったし…こうなった状態のはるは実は初めて見るんだよな。見たことがあるのは、もうすでにぐっすり眠り込んでいる姿だけ。

「さて、紬も遥ももう限界みたいだし…今日はお開きにしようか」
「そうだな。…高遠、片づけは俺と雪白でやるから月岡を連れていけ」
「すみません。…紬、部屋に戻るぞ」
「伏見、東雲を頼んだぞ」
「はい、もちろん」

酔い潰れさせて悪かったな、と左京さんに言われたけれど、その謝罪はいらないと思いますよ。酒を進めたのが左京さんなら話は変わるけど、あの感じだとはる自身が自分の意思で飲んだんだろうし。
ひとまず部屋に連れて行くか…まだ辛うじて起きているみたいだから、水を飲ませたい所だが。でも抱えている状態じゃなかなか難しいし、水を渡しても自分で飲める状態ではない。それだったら先に部屋に連れて行って、下ろしてから飲ませよう。寝落ちちまったら枕元に置いておくしかないけれど。
左京さん達におやすみなさい、と声をかけてから談話室を後にした。
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