見透かす瞳
「あ、咲也。その本、こっちに回して」
「わかった!…あ、綴くんこの本ってあっちの棚かな?」
「ん?どれ、……あーそうだな、あっちの棚で見た記憶がある」
あの日以来、今日みたいに土日は2人一緒に、平日はバラバラで皆木くんと佐久間くんはバイトに勤しんでいます。店番は私かお母さんがして、2人には本棚やお店の掃除と棚の整理、それから買い取った本の仕分けなどを頼んでいる。
今まで私とお母さんでやっていたから、男の子がいると力仕事をしてもらえて楽だわ〜って嬉しそうにしてるんだよね。お母さん。なるべく私が率先してやるようにしていたものの、どうしても講義があるから平日は満足に手伝えないし…最近は公演の手伝いもあったから尚更。
いつだって「貴方は好きなことをしていいのよ」って言ってくれるけど、素直に頷けない私がいる。それでもやっぱり、手伝いを頼まれると行ってしまうんだけど。
(それでいいの、って言ってくれてるとはいえ、お母さん1人に任せっきりなのはなぁ…)
一度、それを言ったことがある。でも対する返事は私がしたくてしているのよ、だって。確かにお嫁さんであるお母さんが古書店を継いだ経緯を聞いた時に、そうなんだろうなぁとは思っていたけれど。お母さんにとってこの仕事は天職なんだろう。本が大好きな人だから。
「いいわね、2人共、いい働きっぷりだわ」
「皆木くんは色んなバイトしてるから、こういう力仕事も慣れてるんだって」
「へぇ、そうなの。何だか臣ちゃんを思い出しちゃうわね」
「…さすがにちゃん付けはやめてあげて、お母さん」
臣くんは何も言わないけど、さすがに成人した男にちゃん付けはキツイものがあるって。何度言っても直してくれないお母さんに乾いた笑いを零していると、ドアが開く音がした。
お客さんかな?と入口に目を向けると、噂をすれば何とやら…さっきまで話題に上っていた臣くんの姿があった。あれ?どうしたんだろ、今日、何か約束してたっけ?それとも皆木くん達に用事かな。
「臣さん!どうしたんですか?」
「ん?いや、ちょっとスコーンを作り過ぎてな…はる達におすそ分けを」
「臣ちゃん、久しぶりねぇ」
「お久しぶりです。良かったら皆で食ってください」
「ありがとう、あとで頂くわね」
スコーンの入った袋を受け取ったお母さんは、心なしか浮足立った様子で裏へと消えていった。多分、キッチンにスコーンを置きに行ったんだろう。
今日のおやつは臣くんのスコーンと紅茶かなー、楽しみ!
「咲也と綴がバイトを始めたっていうのは聞いてたけど、お前の所だったんだな」
「場所は聞いてなかったの?」
「ああ、短期バイトをするってことだけだ」
「そうだったんだ。2人共、よく働いてくれるってお母さんが褒めちぎってた」
「ははっ確かに咲也も綴も真面目に働くタイプだから」
ああ、それは納得。何回かバイトしている姿を見てるけど、本当に真面目に全力でやってくれてて…もう少し手を抜いていいんだよ?って言いたくなるくらいなんだよね。でも2人の性格上、そういうのは許せないんだろうね。やるなら徹底的に全力で!って感じがビシバシ伝わってきます。
こうして臣くんと話している間も、2人は時々言葉を交わしつつ、基本は黙々と本棚の整理中。どんどん綺麗になっていくな…ちょっと前までごっちゃごちゃだったのに。
「―――はる」
「ん?」
「監督が淋しがってたぞ、遊びに来てくれないって」
「あはは。だって手伝いは終わったし…寮に行く用事も、ないでしょ?」
「用事がなくちゃ来たらダメなのか?」
「ッ、そ、れは……」
正直、痛い所を突かれたと思った。視線も感じていたけど、今、臣くんの顔を見たらあの鋭い光を宿した蜂蜜色の瞳に囚われてしまいそうで。囚われてしまったらきっと、私は本音を零してしまう。…昔から臣くんの真っ直ぐな瞳には、弱いからね。私。
さて、どう返そうか…これはスマホ上でのメッセージのやり取りではない。声で、ちょっとした仕草で、表情で、隠していたものがあっさりと露呈してしまう可能性はゼロじゃないんだ。むしろ、対臣くんだと露呈してしまう可能性は80%越え。
幼い頃より嘘は上手くなったと思うけど、相変わらずコイツにはバレてしまうことの方が多くて。隠せていると思っても、それはただ臣くんが気づかないフリをしてくれているだけだった。だからきっと、今回のことだって―――薄々勘付いているのかもしれない。
言葉に詰まったまま、何も返せない。そろそろ口を開かないとマズイな、と焦りを感じ始めた頃、本棚と本棚の間からひょっこり顔を出した佐久間くんが申し訳なさそうに私の名を呼んだ。
「あ、すみません!お話し中でした…?」
「ううん、大丈夫。どうしたの?」
「えっと、これなんですけど…」
これ幸いと臣くんから離れ、私は佐久間くんの元へ駆け寄った。